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13 交通事故
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リンネは、ダンスレッスンの15分前にスタジオに着いた。
もうナナが来ていて、ストレッチを始めていた。
「ナナ、早いね」
ナナの隣に、リンネは座った。ナナは返事をしない。
リンネは足首を反対側のももに乗せ、グルグルと手で回した。
ナナも念入りにストレッチをしている。会話がないまま、時間が流れていく。
ふと時計を見ると、レッスンの3分前だった。
いつも早めに来るマリナは、まだ来ていない。
「マリナちゃん、遅いね」
立ち上がってナナに話しかけた。
ナナがビクッと肩を震わせた。
「反対側、伸ばさないの?」
ナナは、サイドストレッチの途中だった。右だけ伸ばして、ボーっとしている。
「昨日、マリナちゃんにスーパーで会ったの」
話しかけても、ナナは虚ろな目をしている。
ナナの様子がなんか変だ。
唇が震えている。
「ナナ、どうかした?」
ナナは答えない。宙の一点をただ見つめている。
その時、外から車のタイヤがアスファルトをこする音が聞こえてきた。
耳障りな高音が、尾をひくように続く。
次の瞬間、激しい衝突音がした。
全身に緊張が走る。
「なに、今の音」
「すぐ近くだったよね?」
「事故かな」
スタジオの中が騒がしくなった。
ナナが全身を震わせていた。顔が真っ青になっている。
「どうしたの、ナナ」
リンネはナナの背中をさすった。
「どうしよう、リンネ。マリナちゃんが来てない」
ナナが泣きそうな顔で、リンネの腕をつかむ。
「わたし、ジュエルに願ったの。マリナちゃんが、けがをしますようにって」
リンネは息を飲んだ。
「でも、交通事故なんかじゃないよ。もっと軽いけがのつもりだったの」
ナナが、ポロポロと涙を流す。
「マリナちゃんが事故にあうわけないじゃない。ちょっと遅れてるだけだよ」
ナナがブンブンと首を横に振る。
「さっき、リンネがマリナちゃんの名前を出した時、ついイラッとして、思い浮かべちゃったの。マリナちゃんが事故に合うところを思い浮かべちゃったんだ」
「そんなこと、ジュエルにできるわけないよ」
リンネはナナの肩をゆさぶった。
(それは本当? ジュエルには願いを叶えることなんてできないの?)
「できるわけ、ないよ」
リンネは自分に言い聞かせるように言った。
だが、やっぱりジュエルの力が本物だったら?
昨日会ったマリナの笑顔を思い出す。あの笑顔が消えてしまったらどうしよう。お腹の底から恐怖がはい上がってくる。
「早くリンネの言うことを聞けばよかった。こんなことジュエルに願うんじゃなかった」
ナナが手で顔をおおった。
「ナナ、行こう」
リンネはナナの手をひっぱった。
「どこに行くの?」
「外に行って確かめるの。マリナちゃんが……」
言ったら本当になりそうで、言葉が続かなかった。怖くて言えなかった。
「レッスン始めるよー」
スタジオに入ってきたマキ先生と入れ替わりに、リンネとナナは外に飛び出す。
救急車のサイレンの音が近づいてくる。
胃の奥がキューっと縮んだ。
「怖いよリンネ」
ナナが階段の踊り場で立ちすくむ。
「大丈夫だから」
リンネはナナの手をギュッと握った。
二人は駆け足でビルの外に出た。
もうナナが来ていて、ストレッチを始めていた。
「ナナ、早いね」
ナナの隣に、リンネは座った。ナナは返事をしない。
リンネは足首を反対側のももに乗せ、グルグルと手で回した。
ナナも念入りにストレッチをしている。会話がないまま、時間が流れていく。
ふと時計を見ると、レッスンの3分前だった。
いつも早めに来るマリナは、まだ来ていない。
「マリナちゃん、遅いね」
立ち上がってナナに話しかけた。
ナナがビクッと肩を震わせた。
「反対側、伸ばさないの?」
ナナは、サイドストレッチの途中だった。右だけ伸ばして、ボーっとしている。
「昨日、マリナちゃんにスーパーで会ったの」
話しかけても、ナナは虚ろな目をしている。
ナナの様子がなんか変だ。
唇が震えている。
「ナナ、どうかした?」
ナナは答えない。宙の一点をただ見つめている。
その時、外から車のタイヤがアスファルトをこする音が聞こえてきた。
耳障りな高音が、尾をひくように続く。
次の瞬間、激しい衝突音がした。
全身に緊張が走る。
「なに、今の音」
「すぐ近くだったよね?」
「事故かな」
スタジオの中が騒がしくなった。
ナナが全身を震わせていた。顔が真っ青になっている。
「どうしたの、ナナ」
リンネはナナの背中をさすった。
「どうしよう、リンネ。マリナちゃんが来てない」
ナナが泣きそうな顔で、リンネの腕をつかむ。
「わたし、ジュエルに願ったの。マリナちゃんが、けがをしますようにって」
リンネは息を飲んだ。
「でも、交通事故なんかじゃないよ。もっと軽いけがのつもりだったの」
ナナが、ポロポロと涙を流す。
「マリナちゃんが事故にあうわけないじゃない。ちょっと遅れてるだけだよ」
ナナがブンブンと首を横に振る。
「さっき、リンネがマリナちゃんの名前を出した時、ついイラッとして、思い浮かべちゃったの。マリナちゃんが事故に合うところを思い浮かべちゃったんだ」
「そんなこと、ジュエルにできるわけないよ」
リンネはナナの肩をゆさぶった。
(それは本当? ジュエルには願いを叶えることなんてできないの?)
「できるわけ、ないよ」
リンネは自分に言い聞かせるように言った。
だが、やっぱりジュエルの力が本物だったら?
昨日会ったマリナの笑顔を思い出す。あの笑顔が消えてしまったらどうしよう。お腹の底から恐怖がはい上がってくる。
「早くリンネの言うことを聞けばよかった。こんなことジュエルに願うんじゃなかった」
ナナが手で顔をおおった。
「ナナ、行こう」
リンネはナナの手をひっぱった。
「どこに行くの?」
「外に行って確かめるの。マリナちゃんが……」
言ったら本当になりそうで、言葉が続かなかった。怖くて言えなかった。
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救急車のサイレンの音が近づいてくる。
胃の奥がキューっと縮んだ。
「怖いよリンネ」
ナナが階段の踊り場で立ちすくむ。
「大丈夫だから」
リンネはナナの手をギュッと握った。
二人は駆け足でビルの外に出た。
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