43 / 45
5記憶
5-7
しおりを挟む
獣のような叫び声が、断続的に続いている。
春子はベッドに横になったまま、鏡を手にしていた。
美波が失くした鏡だった。二つ折りの鏡は開かれている。
春子は目をカッと見開き、鏡を凝視している。
こめかみには、血管が浮き出ていた。
口は喉が見えるほど大きく裂けたように開いている。喉の奥から、ギャー、ギャー、ギャー、と悲鳴がほとばしる。
忠義が春子に走り寄り、鏡を力ずくで奪おうとした。
だが、春子の力が相当強いのか、取りあげることができない。
「ハルちゃん、離すんだ」
忠義が必死になって、春子の手から鏡を引き剥がそうとする。
未来は心拍数が上がるばかりで、ただ二人の様子を見守ることしかできない。恐怖でギュッと心臓が縮んでいく。
突然、春子の悲鳴が止まった。
部屋が一瞬、シンと静まり返る。
春子がスローモーション映像のように、忠義の方へゆっくりと視線を移す。
「ハルちゃん、大丈夫か?」
忠義が、驚いたように鏡から手を離した。
時が止まったかのように、春子は忠義の顔を見つめたまま動かない。
どこかで、家のきしむ音がした。
「忠義……。今まですまなかったねぇ」
春子は低くしわがれた声でそう言うと、再び黙った。
「思い出したのか?」
忠義が、感情を抑えた声で言う。
春子は質問には答えずに、忠義から視線を横にずらした。
「清次郎さん、迎えに来てくれたんだね」
春子の顔がほころぶ。
「おじいちゃんが、いるの?」
未来が聞くと、春子が嬉しそうに頷いた。
忠義が、春子の視線の方へ顔を向けた。だが、誰も居ないのを確認すると、諦めたように首を横に振った。
「忠義。わたしも、もう終わりのようだよ」
春子が力なく笑う。
「ハルちゃん、そんなこと言わないでっ」
未来が叫んで駆け寄ろうとすると、春子がパンっと手を叩いた。
「もう、演技はおしまい。ハルちゃんなんて呼ばなくていいんだよ」
春子はベッドに横になったまま、鏡を手にしていた。
美波が失くした鏡だった。二つ折りの鏡は開かれている。
春子は目をカッと見開き、鏡を凝視している。
こめかみには、血管が浮き出ていた。
口は喉が見えるほど大きく裂けたように開いている。喉の奥から、ギャー、ギャー、ギャー、と悲鳴がほとばしる。
忠義が春子に走り寄り、鏡を力ずくで奪おうとした。
だが、春子の力が相当強いのか、取りあげることができない。
「ハルちゃん、離すんだ」
忠義が必死になって、春子の手から鏡を引き剥がそうとする。
未来は心拍数が上がるばかりで、ただ二人の様子を見守ることしかできない。恐怖でギュッと心臓が縮んでいく。
突然、春子の悲鳴が止まった。
部屋が一瞬、シンと静まり返る。
春子がスローモーション映像のように、忠義の方へゆっくりと視線を移す。
「ハルちゃん、大丈夫か?」
忠義が、驚いたように鏡から手を離した。
時が止まったかのように、春子は忠義の顔を見つめたまま動かない。
どこかで、家のきしむ音がした。
「忠義……。今まですまなかったねぇ」
春子は低くしわがれた声でそう言うと、再び黙った。
「思い出したのか?」
忠義が、感情を抑えた声で言う。
春子は質問には答えずに、忠義から視線を横にずらした。
「清次郎さん、迎えに来てくれたんだね」
春子の顔がほころぶ。
「おじいちゃんが、いるの?」
未来が聞くと、春子が嬉しそうに頷いた。
忠義が、春子の視線の方へ顔を向けた。だが、誰も居ないのを確認すると、諦めたように首を横に振った。
「忠義。わたしも、もう終わりのようだよ」
春子が力なく笑う。
「ハルちゃん、そんなこと言わないでっ」
未来が叫んで駆け寄ろうとすると、春子がパンっと手を叩いた。
「もう、演技はおしまい。ハルちゃんなんて呼ばなくていいんだよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
鬼母(おにばば)日記
歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。
そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?)
鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる