演じる家族

ことは

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 獣のような叫び声が、断続的に続いている。

 春子はベッドに横になったまま、鏡を手にしていた。

 美波が失くした鏡だった。二つ折りの鏡は開かれている。

 春子は目をカッと見開き、鏡を凝視している。

 こめかみには、血管が浮き出ていた。

 口は喉が見えるほど大きく裂けたように開いている。喉の奥から、ギャー、ギャー、ギャー、と悲鳴がほとばしる。

 忠義が春子に走り寄り、鏡を力ずくで奪おうとした。

 だが、春子の力が相当強いのか、取りあげることができない。

「ハルちゃん、離すんだ」

 忠義が必死になって、春子の手から鏡を引き剥がそうとする。

 未来は心拍数が上がるばかりで、ただ二人の様子を見守ることしかできない。恐怖でギュッと心臓が縮んでいく。

 突然、春子の悲鳴が止まった。

 部屋が一瞬、シンと静まり返る。

 春子がスローモーション映像のように、忠義の方へゆっくりと視線を移す。

「ハルちゃん、大丈夫か?」

 忠義が、驚いたように鏡から手を離した。

 時が止まったかのように、春子は忠義の顔を見つめたまま動かない。

 どこかで、家のきしむ音がした。

「忠義……。今まですまなかったねぇ」

 春子は低くしわがれた声でそう言うと、再び黙った。

「思い出したのか?」

 忠義が、感情を抑えた声で言う。

 春子は質問には答えずに、忠義から視線を横にずらした。

「清次郎さん、迎えに来てくれたんだね」

 春子の顔がほころぶ。

「おじいちゃんが、いるの?」

 未来が聞くと、春子が嬉しそうに頷いた。

 忠義が、春子の視線の方へ顔を向けた。だが、誰も居ないのを確認すると、諦めたように首を横に振った。

「忠義。わたしも、もう終わりのようだよ」

 春子が力なく笑う。

「ハルちゃん、そんなこと言わないでっ」

 未来が叫んで駆け寄ろうとすると、春子がパンっと手を叩いた。

「もう、演技はおしまい。ハルちゃんなんて呼ばなくていいんだよ」
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