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3幼なじみ
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その夜、翔太が母親と一緒に未来の家にやってきた。
今日子は家に上がるよう勧めたが、翔太の母が、夜遅いからすぐに帰ると言い、玄関先で話すことになった。
「翔太のせいで、未来ちゃんが記憶喪失になったって聞いてびっくりしちゃって」
翔太の母は、今日子に菓子折りを渡して何度も謝った。
「そんな丁寧にしてくれなくてもよかったのに。記憶喪失は一時的なもので、もう大丈夫よね?」
「うん。この通り何ともないです」
「それならいいけど、もし何かあったら言ってね」
翔太の母が、未来に笑いかける。
「養護教諭の宮下先生に言われて、学校帰りに一応病院も行って、頭部CTスキャンと脳波も調べてもらったけど、異常なしだったわ。もちろん外傷もないし」
今日子が、未来の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。
すぐ帰ると言ったのに、今日子と翔太の母の口からは次々と話題が出てきて、未来と翔太そっちのけで話し始めている。
「結局、おまえんち、来ることになっちゃったな」
翔太が、お喋りの止まらない母親同士を横目で見ながら言った。
せっかく翔太が家に来てくれたのに、未来は本来の目的を果たせず、もやもやした気分になった。
翔太に春子の病気のことを話さなければならない。
だが、隣には春子の部屋がある。ここで話せば春子にも聞こえてしまう可能性がある。
その時、翔太の母が急に小声になって、
「春子さんは、どう?」
と、今日子に聞いた。
春子のことを考えていた未来は、ドキッとする。
「相変わらずよ」
今日子の返事に、翔太の母は、そう、と答えただけですぐに別の話題に移った。
今日子は翔太の母に、春子の病気のことを話しているのだろう。
だが、それだけの会話では、どこまで詳しく話しているのかはわからなかった。
結局翔太には、何も話せないままだった。
翔太と母親が帰ってしまうと、未来は春子の部屋をたずねた。春子は起きていた。
「誰か来ていたの?」
「うん。ちょっと学校のことで」
未来は、翔太が来ていたとは言えなかった。
「ハルちゃん、わたし、絶対に翔君連れてくるからね。約束、ちゃんと守るから」
「約束って何のこと?」
春子が不思議そうな顔をする。
「ううん。いいの。わたし、記憶がなくなっていくハルちゃんの気持ち、ちょっとだけわかった気がするんだ……」
「あっ、おじいちゃん」
春子が叫んだ。
「おじいちゃんも、心配で見にきたの?」
春子は、宙を見ながら何か話している。
未来が、そっと部屋を出て行こうとした時。
「未来ちゃん、頭、大丈夫?」
春子が、未来を呼び止めた。
「えっ。何で知っているの?」
未来は振り返りざまなんとなく気になって、さっき春子が見ていた部屋の中央あたりに目を凝らしてみたが、何もない。
「お母さんが、言ってたから。未来ちゃんが、頭打ったって」
春子が、自分の頭を指差しながら答えた。
今日子は家に上がるよう勧めたが、翔太の母が、夜遅いからすぐに帰ると言い、玄関先で話すことになった。
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「結局、おまえんち、来ることになっちゃったな」
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せっかく翔太が家に来てくれたのに、未来は本来の目的を果たせず、もやもやした気分になった。
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だが、隣には春子の部屋がある。ここで話せば春子にも聞こえてしまう可能性がある。
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と、今日子に聞いた。
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「相変わらずよ」
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今日子は翔太の母に、春子の病気のことを話しているのだろう。
だが、それだけの会話では、どこまで詳しく話しているのかはわからなかった。
結局翔太には、何も話せないままだった。
翔太と母親が帰ってしまうと、未来は春子の部屋をたずねた。春子は起きていた。
「誰か来ていたの?」
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「未来ちゃん、頭、大丈夫?」
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「えっ。何で知っているの?」
未来は振り返りざまなんとなく気になって、さっき春子が見ていた部屋の中央あたりに目を凝らしてみたが、何もない。
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