10 / 45
2友だち
2-2
しおりを挟む
「ねぇ未来、今日部活行く? ここのところずっとさぼりっぱなしだし、たまには顔出した方がいいかなぁ」
帰りがけ、美波が声をかけてきた。
美波と未来は、同じ演劇部だ。
「行っても、どうせ二、三人しか来ていないんじゃない? 秋の公演が終わってから、顧問も全然来ないし」
未来は、早く帰りたかった。
恵理の席を見ると、帰りのしたくは終わっているようだった。チラチラとこっちを見ながら、本を読んでいる。
だが、美波はまだ話し足りなさそうだ。未来の前の席に座ってしまう。
「確かに。公演終わると、やる気出ないよねー。来年まで発声練習しかすることないし。発表する場が、秋の学内公演だけってつまんないなぁ」
美波は手鏡をポケットから出して、前髪をいじりながら話している。
「しかたないんじゃない。演劇部があるのって、この辺じゃうちの学校だけだし」
「高校に行けば、他校との合同公演とかもあるんだって。かなり大きな舞台に立てるらしいよ」
「ふーん。でもわたし、美波みたいに女優志望じゃないし、高校行ったら、演劇部には入らないかな」
未来は、中学入学当初は、本当はダンス部に入るつもりだった。
小学生の頃、ヒップホップやブレイクダンスなどのストリート系と呼ばれるダンスに憧れていた。
眠れない時にたまたま目にした深夜のダンス番組に、目が釘付けになった。
ルーズな服装で、激しく、しかしクールに踊るダンサーを見て、これ、やってみたい、とそれから毎週欠かさず番組を録画し、見よう見まねで踊っていた。
中学に入ってダンス部があると聞き、未来はもうこれしかない、と思った。
しかし、ダンス部の見学に行ったら、それは創作ダンス部だった。
ダンスはダンスでも、全くジャンルが違う。未来の抱いていたイメージとは程遠かった。
体操着姿の部員たちが、くねくねと奇妙に動いていた。悲しみやら喜びやら何だか抽象的なものを表現しているらしかった。
未来には、その芸術性が理解できなかった。
どうしてもストリートダンスをやりたいなら、ダンススクールに通うという手もあった。
だがそれには、電車で30分かけて少し大きな町まで出なければならなかった。結局未来には、そこまでの情熱はなかった。
「今さらだけど、じゃあ何で演劇部に入ったの?」
美波の話は、まだまだ続きそうだ。
「美波が入ったからだよ。特に他に入りたい部活もなかったし」
「わたしが入ったから? 自主性ないなぁ」
「だって、絶対美波と友だちになりたかったんだもん。美波、ずば抜けて可愛くて、クラスでもすごい目立ってたし」
未来は、第1小学校、美波は第2小学校出身で、中学に入ってから知り合った。
「えー。わたしだって、未来と同じクラスになって、こんなに可愛い子初めて見たって思ったよ」
「またまた、ほめ殺し」
未来は、美波の肩をバシっと叩いた。
「わたしは、そんなに可愛くないよ。ほらほら、あそこの男の子、美波待ちじゃない?」
未来が指差すと、美波がそっちを振り返った。
廊下から、そわそわと教室を覗いている男子生徒が1名。
「川瀬さん、ちょっといいかな……」
「ほら来た。告白されるの、2年生になって何人目?」
「7人目くらいかな……って、告白って決まったわけじゃないじゃん」
美波はそう言いながらも、もう一度鏡で自分の顔をチェックした。鏡をポケットにしまい、顔を赤らめながら立ち上がった。
「わたし、そのまま帰るから、告白されてきなよ」
「まったく、未来ったらもう!」
口では怒りながらも、美波はとびきり可愛い表情を作って廊下に出て行った。そのまま、男子生徒と並んで歩いていく。
未来は、すぐに恵理の席に向かった。
恵理は、読んでいた本はもう、鞄の中にしまったらしい。学校指定の紺色の鞄を肩にかけて立ちあがった。
「遅くなってごめんね。行こう」
未来が言うと、恵理がうなずいた。
帰りがけ、美波が声をかけてきた。
美波と未来は、同じ演劇部だ。
「行っても、どうせ二、三人しか来ていないんじゃない? 秋の公演が終わってから、顧問も全然来ないし」
未来は、早く帰りたかった。
恵理の席を見ると、帰りのしたくは終わっているようだった。チラチラとこっちを見ながら、本を読んでいる。
だが、美波はまだ話し足りなさそうだ。未来の前の席に座ってしまう。
「確かに。公演終わると、やる気出ないよねー。来年まで発声練習しかすることないし。発表する場が、秋の学内公演だけってつまんないなぁ」
美波は手鏡をポケットから出して、前髪をいじりながら話している。
「しかたないんじゃない。演劇部があるのって、この辺じゃうちの学校だけだし」
「高校に行けば、他校との合同公演とかもあるんだって。かなり大きな舞台に立てるらしいよ」
「ふーん。でもわたし、美波みたいに女優志望じゃないし、高校行ったら、演劇部には入らないかな」
未来は、中学入学当初は、本当はダンス部に入るつもりだった。
小学生の頃、ヒップホップやブレイクダンスなどのストリート系と呼ばれるダンスに憧れていた。
眠れない時にたまたま目にした深夜のダンス番組に、目が釘付けになった。
ルーズな服装で、激しく、しかしクールに踊るダンサーを見て、これ、やってみたい、とそれから毎週欠かさず番組を録画し、見よう見まねで踊っていた。
中学に入ってダンス部があると聞き、未来はもうこれしかない、と思った。
しかし、ダンス部の見学に行ったら、それは創作ダンス部だった。
ダンスはダンスでも、全くジャンルが違う。未来の抱いていたイメージとは程遠かった。
体操着姿の部員たちが、くねくねと奇妙に動いていた。悲しみやら喜びやら何だか抽象的なものを表現しているらしかった。
未来には、その芸術性が理解できなかった。
どうしてもストリートダンスをやりたいなら、ダンススクールに通うという手もあった。
だがそれには、電車で30分かけて少し大きな町まで出なければならなかった。結局未来には、そこまでの情熱はなかった。
「今さらだけど、じゃあ何で演劇部に入ったの?」
美波の話は、まだまだ続きそうだ。
「美波が入ったからだよ。特に他に入りたい部活もなかったし」
「わたしが入ったから? 自主性ないなぁ」
「だって、絶対美波と友だちになりたかったんだもん。美波、ずば抜けて可愛くて、クラスでもすごい目立ってたし」
未来は、第1小学校、美波は第2小学校出身で、中学に入ってから知り合った。
「えー。わたしだって、未来と同じクラスになって、こんなに可愛い子初めて見たって思ったよ」
「またまた、ほめ殺し」
未来は、美波の肩をバシっと叩いた。
「わたしは、そんなに可愛くないよ。ほらほら、あそこの男の子、美波待ちじゃない?」
未来が指差すと、美波がそっちを振り返った。
廊下から、そわそわと教室を覗いている男子生徒が1名。
「川瀬さん、ちょっといいかな……」
「ほら来た。告白されるの、2年生になって何人目?」
「7人目くらいかな……って、告白って決まったわけじゃないじゃん」
美波はそう言いながらも、もう一度鏡で自分の顔をチェックした。鏡をポケットにしまい、顔を赤らめながら立ち上がった。
「わたし、そのまま帰るから、告白されてきなよ」
「まったく、未来ったらもう!」
口では怒りながらも、美波はとびきり可愛い表情を作って廊下に出て行った。そのまま、男子生徒と並んで歩いていく。
未来は、すぐに恵理の席に向かった。
恵理は、読んでいた本はもう、鞄の中にしまったらしい。学校指定の紺色の鞄を肩にかけて立ちあがった。
「遅くなってごめんね。行こう」
未来が言うと、恵理がうなずいた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
鬼母(おにばば)日記
歌あそべ
現代文学
ひろしの母は、ひろしのために母親らしいことは何もしなかった。
そんな駄目な母親は、やがてひろしとひろしの妻となった私を悩ます鬼母(おにばば)に(?)
鬼母(おにばば)と暮らした日々を綴った日記。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる