小悪魔ノート

ことは

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20 ないものねだり

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「人間になりたいってどういうこと?」

 颯太は、組んでいた腕をほどいて聞いた。

「人間の寿命を集めたらね、人間に生まれ変わることができるの。不老不死なんて、もううんざり」

「うわっ。ぜいたく~。人間はみんな、不老不死に憧れているのに」

 颯太は机に肘をつき、あごをのせた。

「そうでしょうね。元々わたしは、不老不死の研究中に生まれた生き物だから」

 ライアが、まっすぐ颯太を見つめる。

「えっ、どういうこと? ライアは、悪魔たちが住む魔界からやってきたんじゃないの?」

 ライアが首を横に振った。

「わたしは、この地球で生まれたのよ」

「地球で?」

 颯太の声が裏返った。

「そうよ。気がついた時には、この姿でこの地球で暮らしていた」

 颯太は、目を見開いた。

「どうやって生まれたの?」

「そんなこと、覚えていないわ。颯太は覚えている? 自分が生まれた時のこと」

「そりゃぁ、覚えていないけど……」

 そうでしょ? とライアが笑った。

「どうやって生まれたかは、わたしを生み出した研究者に聞いてみないとわからないわ」

「その人も不老不死なの?」

 颯太はすかさず聞いた。

「まさか。とっくの大昔に死んだわ。不老不死の研究は、失敗に終わったもの」

 ライアはすごく悲しそうな顔をした。

 もしかしたらその人が、ライアのお父さんやお母さんみたいなものだったのかもしれない。

「そしてわたしたち小悪魔だけがこの世に残された。永遠に生き続けることで、わたしたちは魔術を身につけていったの」

「最初から魔術が使えたわけじゃないの?」

 颯太の質問に、ライアがうなずいた。

「魔術を身につけることができるくらい、わたしたちは永い時を生きてきたのよ」

「わたしたちって、他にもライアみたいな小悪魔がいるの?」

 ライアはうすく笑っただけで、それには答えなかった。

「人間は生まれて、限られた時間の中を生きて、生きて、死んでいく。それってとても美しいわ。今、この一瞬がすごく大切なものになる」

 ライアは目を輝かせて言った。

「そうかな~? そんなこと、あまり意識してないけどな」

 颯太は首をひねった。

「結局、ないものねだりなのかもしれないけどね。寿命のある人間は不老不死に憧れ、不老不死の小悪魔は、限りある命に憧れる」

 颯太は左手で頬杖をつきながら、右手でノートを持った。

「じゃぁ、やっぱりこのノートいらないよね?」

「どうして?」

「だって簡単に願いごと叶っちゃたら、つまんないじゃん。ないものねだりしているうちが、きっと楽しいんだよ」

 ライアが寂しそうに笑った。

 颯太は、そっぽを向いて言った。

「でも、行くとこないなら、しばらくここにいてもいいんだぜ」

 ライアから、返事がなかった。

 颯太はもう一言付け加えた。

「もしかしたら、小悪魔ノートが必要になることだってあるかもしれないし」

 それでもライアからは、返事がない。

(振り向いたらまさか、いなくなったりなんか、してないよね?)

 突然のお別れを予感して、颯太は胸が切なくなる。

 颯太は、恐る恐るライアの方に顔を向けた。

 ライアは姿を消して……はいなかった。

 ものすごく目をキラキラさせてこっちを見ていた。

「本当? 颯太、だーいすきっ」

 ライアが、颯太の腕に飛びついてきた。

「うわっ、いきなりなんだよ」

 颯太は、ライアから腕を引き離そうとした。

「じゃぁさ、じゃぁさ~」

 ライアが、小悪魔ノートの表紙を開く。

「ここに書いちゃいなよ~。可愛いライアちゃんが、ずっと一緒にいてくれますようにって」

 ライアが、ノートを人差し指でトントンと叩いている。

「おいっ」

 まったく、油断もスキもあったものじゃない。

「さっき言ったこと、取り消しっ。もう帰れ」

 颯太は、シッシッとライアを追い払った。

「ひどい! 悪魔!」

 ライアが叫んだ時、玄関からチャイムの音がした。

「悪魔はそっちだろ」

 言いながら颯太は、玄関に向かった。
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