小悪魔ノート

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5 ライアの話①

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 それは、昨日のことだった。

「あった、あった。やっと見つけたー」

 デパートの文房具売り場。
 
 その片隅にある棚の上に、ライアは降り立った。

 文房具売り場には先客がいた。ミニスカートからスラッとした足が伸びている、ポニーテイルの女の子が一人。それから、ショートボブの小柄な女の子。

 二人は楽しそうにおしゃべりをしながら、ペンやノートを見ている。

 二人の会話から、明日から始まる新学期のために文房具を買いに来たことがわかった。小学5年生らしい。

 ライアは二人の目の前で、あっかんベーをしてみる。もちろん二人は、ライアに気がつかない。

(よし、よし。見えてない、見えてない)

 二人の足元には、数種類のカラフルなノートが平積みされている。

 ライアはその中からノートを1冊つかみ、すばやく飛び立とうとした。

「キャー!」

 悲鳴をあげたのは、ポニーテイルの女の子。

 驚いたライアは、ノートをパサリと落としてしまった。

「今、このノート、宙に浮いたよね?」

 女の子の声が震えている。

 もう一人のショートボブの子は声も出ない様子で、うんうんと首を縦に振っていた。

 ショートボブの女の子と一瞬目があった気がして、ライアはドキッとする。

 女の子の顔は、真っ青だ。

(見えてるわけないよね、まさかね)

 ショートボブの女の子の視線が、ウロウロとさまよう。

 やっぱりライアの気のせいだ。

 女の子が、ライアに気づく様子はない。

 どうかしましたか、と若い女性の店員さんが走り寄ってくる。

「変な店。帰ろ、帰ろ」

 二人の女の子は、逃げるように立ち去ってしまった。

(どうやって、ここからノートを持ち出そう? 少し宙に浮いただけでこれだもん。長距離の移動なんかしたら、大騒ぎだわ)

 店員さんが、散らばったノートをきれいに並べ直している。

 ライアは、いったんその場を離れた。文房具売り場の周辺をウロウロ飛び回りながら考える。

「ノートが手に入らなかったら、小悪魔ノートなんて作れないわ」

 ライアは、泣きそうになった。

「小悪魔ノートは、新品のノートでなくちゃダメなのに」

 途方に暮れたようにライアは、フロアをながめた。

 何人かのお客さんが、白いプラスチックのかごを片手に買い物をしているのに気がついた。

「そうだ」

 ライアは、急いでノートが売っている場所に戻った。

 かごを持っているお客さんが近づいてくるのをじっと待つ。

「今だ」

 お客さんが商品に気を取られているスキに、ノートを1冊かごに入れた。

「とりあえずはこれで、お店の外に持ち出せる」

 ところが、何度やってみてもダメだった。

 レジに行く前にほとんどの人が、身に覚えのないノートが入っていることに気がついてしまうのだ。

 当然、かごの中のノートは売り場に戻される。

 そんな時だった。美恵先生が現れたのは。

 フロアにしゃがみ込み、ノートをあれこれ見ている。左手には、白いプラスチックのかご。

 しばらくして赤い表紙のノートを、1、2、3と数えはじめた。

「すみません」

 美恵先生が立ち上がって、店員さんを呼び止めた。

 赤いノートを店員さんに見せる。

「このノート、まだありますか? 35冊欲しいんですけど」

「少々お待ちください。今、在庫を確認してきますね」

 しばらくすると、店員さんが小走りで戻ってきた。

「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか? 35冊ご用意しました」

 美恵先生は店員さんからノートを受け取ると、かごに入れた。

 美恵先生は、もうノートの方を見ていない。

 ライアは、さっと周りを見渡した。

 近くに他のお客さんはいない。

 今がチャンスだ。売り場に残っている同じノートを一冊、ライアはすばやくかごにすべりこませた。

 美恵先生が、レジに向かう。

 かごの中にノートが1冊余分に入っていることには、気が付いていないようだ。

「ありがとうございました」

 店員さんが紙袋につめたノートを、美恵先生はにっこりと受け取った。

「追いかけなくちゃ」

 ライアはパタパタと羽をはためかせ、美恵先生の後ろをついていった。
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