5 / 22
5 ライアの話①
しおりを挟む
それは、昨日のことだった。
「あった、あった。やっと見つけたー」
デパートの文房具売り場。
その片隅にある棚の上に、ライアは降り立った。
文房具売り場には先客がいた。ミニスカートからスラッとした足が伸びている、ポニーテイルの女の子が一人。それから、ショートボブの小柄な女の子。
二人は楽しそうにおしゃべりをしながら、ペンやノートを見ている。
二人の会話から、明日から始まる新学期のために文房具を買いに来たことがわかった。小学5年生らしい。
ライアは二人の目の前で、あっかんベーをしてみる。もちろん二人は、ライアに気がつかない。
(よし、よし。見えてない、見えてない)
二人の足元には、数種類のカラフルなノートが平積みされている。
ライアはその中からノートを1冊つかみ、すばやく飛び立とうとした。
「キャー!」
悲鳴をあげたのは、ポニーテイルの女の子。
驚いたライアは、ノートをパサリと落としてしまった。
「今、このノート、宙に浮いたよね?」
女の子の声が震えている。
もう一人のショートボブの子は声も出ない様子で、うんうんと首を縦に振っていた。
ショートボブの女の子と一瞬目があった気がして、ライアはドキッとする。
女の子の顔は、真っ青だ。
(見えてるわけないよね、まさかね)
ショートボブの女の子の視線が、ウロウロとさまよう。
やっぱりライアの気のせいだ。
女の子が、ライアに気づく様子はない。
どうかしましたか、と若い女性の店員さんが走り寄ってくる。
「変な店。帰ろ、帰ろ」
二人の女の子は、逃げるように立ち去ってしまった。
(どうやって、ここからノートを持ち出そう? 少し宙に浮いただけでこれだもん。長距離の移動なんかしたら、大騒ぎだわ)
店員さんが、散らばったノートをきれいに並べ直している。
ライアは、いったんその場を離れた。文房具売り場の周辺をウロウロ飛び回りながら考える。
「ノートが手に入らなかったら、小悪魔ノートなんて作れないわ」
ライアは、泣きそうになった。
「小悪魔ノートは、新品のノートでなくちゃダメなのに」
途方に暮れたようにライアは、フロアをながめた。
何人かのお客さんが、白いプラスチックのかごを片手に買い物をしているのに気がついた。
「そうだ」
ライアは、急いでノートが売っている場所に戻った。
かごを持っているお客さんが近づいてくるのをじっと待つ。
「今だ」
お客さんが商品に気を取られているスキに、ノートを1冊かごに入れた。
「とりあえずはこれで、お店の外に持ち出せる」
ところが、何度やってみてもダメだった。
レジに行く前にほとんどの人が、身に覚えのないノートが入っていることに気がついてしまうのだ。
当然、かごの中のノートは売り場に戻される。
そんな時だった。美恵先生が現れたのは。
フロアにしゃがみ込み、ノートをあれこれ見ている。左手には、白いプラスチックのかご。
しばらくして赤い表紙のノートを、1、2、3と数えはじめた。
「すみません」
美恵先生が立ち上がって、店員さんを呼び止めた。
赤いノートを店員さんに見せる。
「このノート、まだありますか? 35冊欲しいんですけど」
「少々お待ちください。今、在庫を確認してきますね」
しばらくすると、店員さんが小走りで戻ってきた。
「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか? 35冊ご用意しました」
美恵先生は店員さんからノートを受け取ると、かごに入れた。
美恵先生は、もうノートの方を見ていない。
ライアは、さっと周りを見渡した。
近くに他のお客さんはいない。
今がチャンスだ。売り場に残っている同じノートを一冊、ライアはすばやくかごにすべりこませた。
美恵先生が、レジに向かう。
かごの中にノートが1冊余分に入っていることには、気が付いていないようだ。
「ありがとうございました」
店員さんが紙袋につめたノートを、美恵先生はにっこりと受け取った。
「追いかけなくちゃ」
ライアはパタパタと羽をはためかせ、美恵先生の後ろをついていった。
「あった、あった。やっと見つけたー」
デパートの文房具売り場。
その片隅にある棚の上に、ライアは降り立った。
文房具売り場には先客がいた。ミニスカートからスラッとした足が伸びている、ポニーテイルの女の子が一人。それから、ショートボブの小柄な女の子。
二人は楽しそうにおしゃべりをしながら、ペンやノートを見ている。
二人の会話から、明日から始まる新学期のために文房具を買いに来たことがわかった。小学5年生らしい。
ライアは二人の目の前で、あっかんベーをしてみる。もちろん二人は、ライアに気がつかない。
(よし、よし。見えてない、見えてない)
二人の足元には、数種類のカラフルなノートが平積みされている。
ライアはその中からノートを1冊つかみ、すばやく飛び立とうとした。
「キャー!」
悲鳴をあげたのは、ポニーテイルの女の子。
驚いたライアは、ノートをパサリと落としてしまった。
「今、このノート、宙に浮いたよね?」
女の子の声が震えている。
もう一人のショートボブの子は声も出ない様子で、うんうんと首を縦に振っていた。
ショートボブの女の子と一瞬目があった気がして、ライアはドキッとする。
女の子の顔は、真っ青だ。
(見えてるわけないよね、まさかね)
ショートボブの女の子の視線が、ウロウロとさまよう。
やっぱりライアの気のせいだ。
女の子が、ライアに気づく様子はない。
どうかしましたか、と若い女性の店員さんが走り寄ってくる。
「変な店。帰ろ、帰ろ」
二人の女の子は、逃げるように立ち去ってしまった。
(どうやって、ここからノートを持ち出そう? 少し宙に浮いただけでこれだもん。長距離の移動なんかしたら、大騒ぎだわ)
店員さんが、散らばったノートをきれいに並べ直している。
ライアは、いったんその場を離れた。文房具売り場の周辺をウロウロ飛び回りながら考える。
「ノートが手に入らなかったら、小悪魔ノートなんて作れないわ」
ライアは、泣きそうになった。
「小悪魔ノートは、新品のノートでなくちゃダメなのに」
途方に暮れたようにライアは、フロアをながめた。
何人かのお客さんが、白いプラスチックのかごを片手に買い物をしているのに気がついた。
「そうだ」
ライアは、急いでノートが売っている場所に戻った。
かごを持っているお客さんが近づいてくるのをじっと待つ。
「今だ」
お客さんが商品に気を取られているスキに、ノートを1冊かごに入れた。
「とりあえずはこれで、お店の外に持ち出せる」
ところが、何度やってみてもダメだった。
レジに行く前にほとんどの人が、身に覚えのないノートが入っていることに気がついてしまうのだ。
当然、かごの中のノートは売り場に戻される。
そんな時だった。美恵先生が現れたのは。
フロアにしゃがみ込み、ノートをあれこれ見ている。左手には、白いプラスチックのかご。
しばらくして赤い表紙のノートを、1、2、3と数えはじめた。
「すみません」
美恵先生が立ち上がって、店員さんを呼び止めた。
赤いノートを店員さんに見せる。
「このノート、まだありますか? 35冊欲しいんですけど」
「少々お待ちください。今、在庫を確認してきますね」
しばらくすると、店員さんが小走りで戻ってきた。
「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか? 35冊ご用意しました」
美恵先生は店員さんからノートを受け取ると、かごに入れた。
美恵先生は、もうノートの方を見ていない。
ライアは、さっと周りを見渡した。
近くに他のお客さんはいない。
今がチャンスだ。売り場に残っている同じノートを一冊、ライアはすばやくかごにすべりこませた。
美恵先生が、レジに向かう。
かごの中にノートが1冊余分に入っていることには、気が付いていないようだ。
「ありがとうございました」
店員さんが紙袋につめたノートを、美恵先生はにっこりと受け取った。
「追いかけなくちゃ」
ライアはパタパタと羽をはためかせ、美恵先生の後ろをついていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる