ワケあり令嬢と騎士

りお

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元ワケあり令嬢と騎士7

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けれどユーリスはそんな人じゃない。
心配して探そうとする。
家の鍵は閉まっているから家で攫わられたとは考えないはずだ。二日までなら家を空けても大丈夫だろう。きっと、たぶん。
家に置き手紙でも置いておくべきだったと後悔した。

あのときドアを開けたときにはすぐ同行を求められそれどころではなかったし、まさか一泊してこれからも帰れそうにない状況に陥るなんて思ってもみなかった。

「当たり前よ。心配して当然」
「なぜ?」

まるでーーやはり恋心を抱いているのか? というメルヒルの視線が無意識なのかわざとなのか挑発的だ。

「仔犬のような人よ。私がいなくなったら困惑するわ」
「は? お前らはそういう関係なのか?」

緊張感のなくなったメルヒルの顔のおかげで空気が軽くなった気がした。

「お互いに必要としている。それは確か」
「確証しているのは随分な信頼があるからなのか、それとも……まあ、いい。これからはそれは俺とお前になる」
「〝それ〟とは……」
「お互いに必要とする関係」
「ありえないわ」
「否が応でも夫婦になればそうなる」

当たり前のように言い放つ
ああ嫌になる。当然かのような態度。わたしのユーリスに対する価値は変わらない。

「本当に私なんかと婚姻するつもり?」
「ああ、そう言っているだろう」
「アビンス家であるか曖昧な私をなぜ選んだの?」
「私なんかと卑下しながらずいぶんと抵抗するな」
「そういうつもりではないけれど」

相手にとって得ではないという意味で言ってあげただけなのだけど。決して、自分が彼に相応しくないからといった卑下ではない。
わたしはアビンス家とは縁を切ったつもりだ。両親の情けで仕送りとともにやって来る妹はそんなことは思っていないだろうが。
だからこそこんなわたしが、貴族とは無縁の草原で暮らしていたわたしをわざわざ探してまで婚約者にしたいなんておかしすぎる。妹のルナを選ばなかった点がどうしても納得いかない。家名狙いの婚約ならルナとの方がどう考えても確実だから。
ーーああ、そうか。

「貴方、ルナに振られたのね」

ルナなら他のことは考えず自分一番に気持ちを伝えたはずだ。

「ルナ? お前の妹の元へは行ってないぞ」
「……」

どうして。本当にこの男ーー。
いや、きっと他に理由がある。何か裏が。

「ユーリスに恨みでもあるわけ?」 

ユーリスは騎士だ。どこで何をやっているという詳しい話は聞かないけれどもしかしたら、ユーリスは彼と面識があって何か恨みを買ってしまったのではないだろうか。だからわたしを否が応でも連れてきた。ユーリスを悲しめるため。

「いろいろと詮索しているところ悪いが、そのユーリスという騎士と対面したことはない。ただ俺が資料で一方的に知っているだけだ」
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