19 / 28
元ワケあり令嬢と騎士7
しおりを挟む
けれどユーリスはそんな人じゃない。
心配して探そうとする。
家の鍵は閉まっているから家で攫わられたとは考えないはずだ。二日までなら家を空けても大丈夫だろう。きっと、たぶん。
家に置き手紙でも置いておくべきだったと後悔した。
あのときドアを開けたときにはすぐ同行を求められそれどころではなかったし、まさか一泊してこれからも帰れそうにない状況に陥るなんて思ってもみなかった。
「当たり前よ。心配して当然」
「なぜ?」
まるでーーやはり恋心を抱いているのか? というメルヒルの視線が無意識なのかわざとなのか挑発的だ。
「仔犬のような人よ。私がいなくなったら困惑するわ」
「は? お前らはそういう関係なのか?」
緊張感のなくなったメルヒルの顔のおかげで空気が軽くなった気がした。
「お互いに必要としている。それは確か」
「確証しているのは随分な信頼があるからなのか、それとも……まあ、いい。これからはそれは俺とお前になる」
「〝それ〟とは……」
「お互いに必要とする関係」
「ありえないわ」
「否が応でも夫婦になればそうなる」
当たり前のように言い放つ
ああ嫌になる。当然かのような態度。わたしのユーリスに対する価値は変わらない。
「本当に私なんかと婚姻するつもり?」
「ああ、そう言っているだろう」
「アビンス家であるか曖昧な私をなぜ選んだの?」
「私なんかと卑下しながらずいぶんと抵抗するな」
「そういうつもりではないけれど」
相手にとって得ではないという意味で言ってあげただけなのだけど。決して、自分が彼に相応しくないからといった卑下ではない。
わたしはアビンス家とは縁を切ったつもりだ。両親の情けで仕送りとともにやって来る妹はそんなことは思っていないだろうが。
だからこそこんなわたしが、貴族とは無縁の草原で暮らしていたわたしをわざわざ探してまで婚約者にしたいなんておかしすぎる。妹のルナを選ばなかった点がどうしても納得いかない。家名狙いの婚約ならルナとの方がどう考えても確実だから。
ーーああ、そうか。
「貴方、ルナに振られたのね」
ルナなら他のことは考えず自分一番に気持ちを伝えたはずだ。
「ルナ? お前の妹の元へは行ってないぞ」
「……」
どうして。本当にこの男ーー。
いや、きっと他に理由がある。何か裏が。
「ユーリスに恨みでもあるわけ?」
ユーリスは騎士だ。どこで何をやっているという詳しい話は聞かないけれどもしかしたら、ユーリスは彼と面識があって何か恨みを買ってしまったのではないだろうか。だからわたしを否が応でも連れてきた。ユーリスを悲しめるため。
「いろいろと詮索しているところ悪いが、そのユーリスという騎士と対面したことはない。ただ俺が資料で一方的に知っているだけだ」
心配して探そうとする。
家の鍵は閉まっているから家で攫わられたとは考えないはずだ。二日までなら家を空けても大丈夫だろう。きっと、たぶん。
家に置き手紙でも置いておくべきだったと後悔した。
あのときドアを開けたときにはすぐ同行を求められそれどころではなかったし、まさか一泊してこれからも帰れそうにない状況に陥るなんて思ってもみなかった。
「当たり前よ。心配して当然」
「なぜ?」
まるでーーやはり恋心を抱いているのか? というメルヒルの視線が無意識なのかわざとなのか挑発的だ。
「仔犬のような人よ。私がいなくなったら困惑するわ」
「は? お前らはそういう関係なのか?」
緊張感のなくなったメルヒルの顔のおかげで空気が軽くなった気がした。
「お互いに必要としている。それは確か」
「確証しているのは随分な信頼があるからなのか、それとも……まあ、いい。これからはそれは俺とお前になる」
「〝それ〟とは……」
「お互いに必要とする関係」
「ありえないわ」
「否が応でも夫婦になればそうなる」
当たり前のように言い放つ
ああ嫌になる。当然かのような態度。わたしのユーリスに対する価値は変わらない。
「本当に私なんかと婚姻するつもり?」
「ああ、そう言っているだろう」
「アビンス家であるか曖昧な私をなぜ選んだの?」
「私なんかと卑下しながらずいぶんと抵抗するな」
「そういうつもりではないけれど」
相手にとって得ではないという意味で言ってあげただけなのだけど。決して、自分が彼に相応しくないからといった卑下ではない。
わたしはアビンス家とは縁を切ったつもりだ。両親の情けで仕送りとともにやって来る妹はそんなことは思っていないだろうが。
だからこそこんなわたしが、貴族とは無縁の草原で暮らしていたわたしをわざわざ探してまで婚約者にしたいなんておかしすぎる。妹のルナを選ばなかった点がどうしても納得いかない。家名狙いの婚約ならルナとの方がどう考えても確実だから。
ーーああ、そうか。
「貴方、ルナに振られたのね」
ルナなら他のことは考えず自分一番に気持ちを伝えたはずだ。
「ルナ? お前の妹の元へは行ってないぞ」
「……」
どうして。本当にこの男ーー。
いや、きっと他に理由がある。何か裏が。
「ユーリスに恨みでもあるわけ?」
ユーリスは騎士だ。どこで何をやっているという詳しい話は聞かないけれどもしかしたら、ユーリスは彼と面識があって何か恨みを買ってしまったのではないだろうか。だからわたしを否が応でも連れてきた。ユーリスを悲しめるため。
「いろいろと詮索しているところ悪いが、そのユーリスという騎士と対面したことはない。ただ俺が資料で一方的に知っているだけだ」
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる