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元ワケあり令嬢と騎士
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「ある所でとある男ーーそれも以前アビンス家に仕えていた騎士と同棲しているようだが、その男に心を奪われでもしたか?」
「どこからそんな情報を?」
「情報なんて手に入れようとすればいくらでも手に入る」
「悪質ですね。個人のプライバシーに関することをそんな軽々しく」
「そんなことより、上手く話をかわされたようだが」
「話をかわしたつもりは全くないわ」
「だったら、俺が一番気になっている質問に答えてはくれないか?」
「……」
「……」
「……」
「……おい」
視線を交わしたまま無表情でいるノノアントはわざと答えないでいるのかと男は眼光鋭く見ていたが、ノノアントの目は一切揺らぐことがなく何か言葉を待っているのだと気づく。
反応してノノアントは口を開く。
「一番気になっていることとは、騎士の彼に恋い焦がれているか、ということですか?」
「恋い焦がれ……、お前案外ロマンチックなこと言うな。まあそういうことだ」
小説的な表現。
冷酷な瞳をしているノノアントからそんな言葉が出てくるなんて思ってみなかった。少しは乙女なところがあるのか。
「だとするなら、私はいいえと答えます」
「ほう?」
「満足ですか?」
「俺を満足させるための発言なのか?」
「いいえ。本心だわ」
真実の言っている偽りのない眼光だ。
それでもどこか納得がいかない。
「だったら、お前とあいつとの関係はなんなんだ?」
「……同じ苦しみを味わった、とだけ言っておきます」
初めて視線を外し下を向いた。
ノノアントは小さい頃のユーリスと自分を思い出す。見窄らしい身なりして、髪の毛は薄汚れてて。
行動を共にしたのは一度だけだけど、お互い同じ苦しい毎日をおくっていたはずだ。もう終わらせたいと思ったりしたかはわからない。ユーリスはそう思ったことがなさそうだ。
路地でパンを半分こして一緒に食べた、苦しいはずの環境でユーリスは笑ってた、笑えてた。そんなユーリスが眩しかった。
ーーなんで苦しいのに笑えてるの? 苦しくないの? 私はこんなに喉がつまるほど苦しいのに。
もう終わらせてしまったほうがいい。そう頭をよぎってひとつのパンを丸ごとユーリスに渡そうとした。けれどユーリスはそのひとつのパンをちぎって半分を当たり前のように渡してきた。いらない、なんて言わせない、そんな顔をしてた。
『でも僕には今日が輝いてみえるよ』
そう言ったユーリスの笑顔は、まるで暗闇の中で光る月のように見えた。
ーーそんなあなたが見えている今日を見てみたい。
ふと心の奥底でそんなことを思った。が、意味がわからないふりをした。そうしなければ、何かを望んでしまえば、これまでの以上の絶望が押し寄せることを知っていたから。
苦しいはずの思い出なのに小さい頃のユーリスが一緒の記憶だと心が温かくなって緊張が緩む気がする。
ノノアントの辛そうな表情が少し柔む。
「少しだが、本心を打ち明けてくれてありがとう」
なぜお礼を言われたのかノノアントにはわからなかった。
「メルヒル、婚約者を連れて来たと思ったら婚約者らしからぬ楽しい話してるじゃん」
「エレノ、いつからいた。なんで入ってきた」
「なんでって、この面白い子に挨拶しに来た」
先ほど出ようとした扉から入ってきた人は、どうやらメルヒルの知っている者のようだ。
そういえばメルヒルから自己紹介をうけていない。遣いの者が彼の名を口にしていてなんとなくわかってはいたが。
「彼女は俺の……姉だ、一応」
「一応って何。エレノだよ、よろしく。ノノアントだっけ? ノノちゃんでいいよね」
見下げて、人懐こい顔を向けてくる。
よくはない。
「まさか気に入ったのか?」
「うん、気に入った。面白い子の上可愛いし」
メルヒルとエレノ。どっちもどっちだとノノアントは呆れる。
こんな自分のどこを気に入ったのだろう。やはり兄弟だ。
「どこからそんな情報を?」
「情報なんて手に入れようとすればいくらでも手に入る」
「悪質ですね。個人のプライバシーに関することをそんな軽々しく」
「そんなことより、上手く話をかわされたようだが」
「話をかわしたつもりは全くないわ」
「だったら、俺が一番気になっている質問に答えてはくれないか?」
「……」
「……」
「……」
「……おい」
視線を交わしたまま無表情でいるノノアントはわざと答えないでいるのかと男は眼光鋭く見ていたが、ノノアントの目は一切揺らぐことがなく何か言葉を待っているのだと気づく。
反応してノノアントは口を開く。
「一番気になっていることとは、騎士の彼に恋い焦がれているか、ということですか?」
「恋い焦がれ……、お前案外ロマンチックなこと言うな。まあそういうことだ」
小説的な表現。
冷酷な瞳をしているノノアントからそんな言葉が出てくるなんて思ってみなかった。少しは乙女なところがあるのか。
「だとするなら、私はいいえと答えます」
「ほう?」
「満足ですか?」
「俺を満足させるための発言なのか?」
「いいえ。本心だわ」
真実の言っている偽りのない眼光だ。
それでもどこか納得がいかない。
「だったら、お前とあいつとの関係はなんなんだ?」
「……同じ苦しみを味わった、とだけ言っておきます」
初めて視線を外し下を向いた。
ノノアントは小さい頃のユーリスと自分を思い出す。見窄らしい身なりして、髪の毛は薄汚れてて。
行動を共にしたのは一度だけだけど、お互い同じ苦しい毎日をおくっていたはずだ。もう終わらせたいと思ったりしたかはわからない。ユーリスはそう思ったことがなさそうだ。
路地でパンを半分こして一緒に食べた、苦しいはずの環境でユーリスは笑ってた、笑えてた。そんなユーリスが眩しかった。
ーーなんで苦しいのに笑えてるの? 苦しくないの? 私はこんなに喉がつまるほど苦しいのに。
もう終わらせてしまったほうがいい。そう頭をよぎってひとつのパンを丸ごとユーリスに渡そうとした。けれどユーリスはそのひとつのパンをちぎって半分を当たり前のように渡してきた。いらない、なんて言わせない、そんな顔をしてた。
『でも僕には今日が輝いてみえるよ』
そう言ったユーリスの笑顔は、まるで暗闇の中で光る月のように見えた。
ーーそんなあなたが見えている今日を見てみたい。
ふと心の奥底でそんなことを思った。が、意味がわからないふりをした。そうしなければ、何かを望んでしまえば、これまでの以上の絶望が押し寄せることを知っていたから。
苦しいはずの思い出なのに小さい頃のユーリスが一緒の記憶だと心が温かくなって緊張が緩む気がする。
ノノアントの辛そうな表情が少し柔む。
「少しだが、本心を打ち明けてくれてありがとう」
なぜお礼を言われたのかノノアントにはわからなかった。
「メルヒル、婚約者を連れて来たと思ったら婚約者らしからぬ楽しい話してるじゃん」
「エレノ、いつからいた。なんで入ってきた」
「なんでって、この面白い子に挨拶しに来た」
先ほど出ようとした扉から入ってきた人は、どうやらメルヒルの知っている者のようだ。
そういえばメルヒルから自己紹介をうけていない。遣いの者が彼の名を口にしていてなんとなくわかってはいたが。
「彼女は俺の……姉だ、一応」
「一応って何。エレノだよ、よろしく。ノノアントだっけ? ノノちゃんでいいよね」
見下げて、人懐こい顔を向けてくる。
よくはない。
「まさか気に入ったのか?」
「うん、気に入った。面白い子の上可愛いし」
メルヒルとエレノ。どっちもどっちだとノノアントは呆れる。
こんな自分のどこを気に入ったのだろう。やはり兄弟だ。
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