上 下
29 / 35

28

しおりを挟む
「俺の女をお前は奪った」
「違う。彼女はお前のことなど好いてはいなかった」
「だとしても、俺の手元にあった。俺のものだ」
「リーンと私は愛し合っていた。それを壊したのはコーラス、お前だろう」
「ふざけたことを」
「ふざけてなどいない。力を利用してそちらに行かなければいけない状況に追い詰めたのはどこのどいつだ」

あざ笑うコーラス皇帝にセナ王は剣の手を止め面と向かって言う。

「力で何かを得て何が悪い。リーンとの子供を身籠ったのは私が先だ」

メヒストの話だろうか。リーンという人は二人の恋人でどちらが先に付き合っていたか、どちらのほうが愛し合っていたかこじれた話?

「セナ、お前は後だったろう?ㅤ愛し合っていたというのが本当なら俺よりも先に子供をつくっていたはずだ」
「何もしなかった。できなかった」

セナ王は暗い顔をして伏せた。

「はっ、そんなに臆病だったのか?」
「彼女の体がもともと弱かったからだ」

馬鹿にしたコーラス皇帝の様子がおかしくなる。

「子供をつくればもっと体が虚弱になる、そうなってほしくはなかった」
「そんなこと、そんなことリーンは言っていなかったぞ!」

声を荒げる。困惑、怒り、嫉妬。
嘘だという感情からまさかというものに変化したのがわかった。もし本当なら自分には話してくれなかったという劣等感さえ感じられる。
セナ王は嘘をつくようには見えない。嘘をつくにしても必要な嘘をつく。自分の得になるだけの嘘をつかたことはない。ということは……。
二人の会話に混乱していたけど正しい事を言っているのはセナ王で、リーンという女性とセナ王は愛し合っていてそこにコーラス皇帝の邪魔が入ったという見解で正しいだろうか。

「お前はそうと知りながら子供を身篭らせたのか?」

閃いたままそのままにコーラス皇帝は問う。

「こうなってしまったら一人も二人も同じだと。私の元に戻ってきたリーンは彼を産んだあと私との子供が欲しいと言ってきた。だから……」
「それで死んだのか!?ㅤ俺はお前が手にかけたものだと」

まるで全てセナ王が悪いかのような言い方。実際のことはわからないけどコーラス皇帝はなんだか自分は置いておいてみたいな立ちふるまいで気に食わない。

「私が殺したも同然さ」
「別の男で汚れたやつなどいらぬとそんなちっぽけな気持ちで殺ったのだと、ずっとそう」

思っていたんだーと、掠れた声が落とされる。
自分に幻滅したような青い顔。

コーラス皇帝はセナ王の恋人リーンをなんらかの形で自分のもとに来させ子供を孕ませ、その後逃げられたのか逃したのかリーンはセナ王のもとへ帰れて。それでその後のことをコーラス皇帝は勘違いしていた。
しおりを挟む

処理中です...