25 / 35
24
しおりを挟む
ふらふらと、そんな足取りのカノンを見てメヒストが静かに兵士に視線で問う。
兵士たちはきょろきょろと目を見合わせ、一人の兵士がたどたどしく口を開く。
「その女が……」
その第一声は、おい、と他の兵士に止められた。
そして代わりの者が発言する。
「そこの女性がおかしな行動をとったので気絶させました」
一人、
「黒猫に伸ばした手が光っていました」
また一人とほんの少し前の出来事を話す。
「アトリシアには魔法が使える女性がいるとのことで、何をされるのかわからず」
魔法はやはり希少なものなのだとカノンは察した。
気絶させられているだけなのだと一安心し、黒猫に近寄りしゃがんだとき違和感を感じた。
まさかと思ったものは的中する。
「どうして黒猫を撃ったの……?」
はっと息を飲む一同。
空気が乱れている。動揺しているのだろうか。
「その猫に魔法をかけたのだとしたら驚異になりかねないと」
「それで猫を撃ったと?ㅤただの猫を?ㅤイデルが魔法をかけただけで?ㅤイデルが貴方たちを殺してやるとでも言ったの?」
一番動揺していたのはカノンだった。
落ち着きを取り戻してきた心臓が鳴り響く。
ドクドクと。
それと一緒に涙腺が熱く。
喉が辛く。
「言ってませんでした。ずっと笑っていて、だから何かしら勝機を掴んでいるのだと思い」
メヒストの問う目線でカノンの疑問に答えていた兵士は、今度はちゃんとカノンの疑問に答えを述べる。
「黒猫を暴走させるんじゃないか?ㅤって、そんな理由で……ふざけんな……!」
涙声で掠れている。
「なぜ彼女はこんなに怒っているのでしょう」
と若い兵士は、メヒストの耳元で訊ねる。
「その猫はカノンの大事な猫なんだ」
クレイモアに来たときからカノンは黒猫を大事にしていた。
メヒストはイデルに、この黒猫はカノンの大事な猫だと伝えられていた。
根拠があってメヒストは黒猫を哀しく見つめる。
「この人はっ……猫じゃない。人なの……っ!」
苦しい。
息苦しい。
胸が苦しい。
どの苦しさが最も苦しいのかわけわからないまま、緩む涙腺にカノンはめちゃくちゃになる。
「イデルが使おうとした魔法は、ただ、変えた姿を戻させるものなの」
何人も兵士がいる空間で、静かに響いたカノンの声は空しさを際立たせた。
この状況がスウェンと初めて会った時を思い出させる。
初対面で彼は犬だった。
誰とも言葉を交わしてはいけない環境下で唯一話しかけることができ、心許せる相手だった。
名前も知らない犬は男所帯では守るように寝てくれていた。
人の姿に戻った直後のスウェンは仏頂面だったけど、彼が犬だったときに秘密を弱音を打ち明けたからか気にかけてくれて……いつからか心の支えになっていた。
なぜか、コーラス陛下が邪魔をしてくることなく休戦した。
兵士たちはきょろきょろと目を見合わせ、一人の兵士がたどたどしく口を開く。
「その女が……」
その第一声は、おい、と他の兵士に止められた。
そして代わりの者が発言する。
「そこの女性がおかしな行動をとったので気絶させました」
一人、
「黒猫に伸ばした手が光っていました」
また一人とほんの少し前の出来事を話す。
「アトリシアには魔法が使える女性がいるとのことで、何をされるのかわからず」
魔法はやはり希少なものなのだとカノンは察した。
気絶させられているだけなのだと一安心し、黒猫に近寄りしゃがんだとき違和感を感じた。
まさかと思ったものは的中する。
「どうして黒猫を撃ったの……?」
はっと息を飲む一同。
空気が乱れている。動揺しているのだろうか。
「その猫に魔法をかけたのだとしたら驚異になりかねないと」
「それで猫を撃ったと?ㅤただの猫を?ㅤイデルが魔法をかけただけで?ㅤイデルが貴方たちを殺してやるとでも言ったの?」
一番動揺していたのはカノンだった。
落ち着きを取り戻してきた心臓が鳴り響く。
ドクドクと。
それと一緒に涙腺が熱く。
喉が辛く。
「言ってませんでした。ずっと笑っていて、だから何かしら勝機を掴んでいるのだと思い」
メヒストの問う目線でカノンの疑問に答えていた兵士は、今度はちゃんとカノンの疑問に答えを述べる。
「黒猫を暴走させるんじゃないか?ㅤって、そんな理由で……ふざけんな……!」
涙声で掠れている。
「なぜ彼女はこんなに怒っているのでしょう」
と若い兵士は、メヒストの耳元で訊ねる。
「その猫はカノンの大事な猫なんだ」
クレイモアに来たときからカノンは黒猫を大事にしていた。
メヒストはイデルに、この黒猫はカノンの大事な猫だと伝えられていた。
根拠があってメヒストは黒猫を哀しく見つめる。
「この人はっ……猫じゃない。人なの……っ!」
苦しい。
息苦しい。
胸が苦しい。
どの苦しさが最も苦しいのかわけわからないまま、緩む涙腺にカノンはめちゃくちゃになる。
「イデルが使おうとした魔法は、ただ、変えた姿を戻させるものなの」
何人も兵士がいる空間で、静かに響いたカノンの声は空しさを際立たせた。
この状況がスウェンと初めて会った時を思い出させる。
初対面で彼は犬だった。
誰とも言葉を交わしてはいけない環境下で唯一話しかけることができ、心許せる相手だった。
名前も知らない犬は男所帯では守るように寝てくれていた。
人の姿に戻った直後のスウェンは仏頂面だったけど、彼が犬だったときに秘密を弱音を打ち明けたからか気にかけてくれて……いつからか心の支えになっていた。
なぜか、コーラス陛下が邪魔をしてくることなく休戦した。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?
sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。
わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。
※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。
あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。
ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。
小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる