父ちゃんはツンデレでした

プロローグ

　茜色のなか、ブランコが揺れる。
　地面に差す影は、ゆらゆらと形を崩していく。
　ブランコに乗ると同時に放り投げたランドセルは、土ぼこりで汚れていた。
　小さな公園には、私以外の子供の姿はなかった。
　だから、私は誰に恥じることなく泣くことができた。泣く理由はいくらでもあった。
　今日は漢字が、上手に書けなかった。昨日は、クラスの誰よりも計算が遅かった。学校の授業は、分からないことだらけだ。
　クラスの男子にからかわれた悔しさから、泣きながら無心にブランコをこぐ。
　ゆらゆらと揺れる視界と、私のしゃくりあげる声が世界を満たしていた。
　そして、ブランコがゆっくりとその勢いを弱め、私が真っ赤になるほど目を袖でこする頃。公園の入り口に人影が現れる。
　その人影を見て、私はぐっと口を引き結び、ブランコから飛び降りるのだ。
　人影に抱きつき、私は涙をまた流す。人影は、優しく私の頭を撫でてくれる。
　そうして、落ち着いた頃。私はランドセルを背負い、人影と手を繋ぎ歩き出すのだ。
　それが、小学生だった私の日常。

　懐かしい夢を見た。
　小学生の頃の夢は、あまり見たくないけど、見てしまったのなら仕方ない。
　夢うつつのなか、私はそう自分を納得させる。
　今日は、私の十四歳の誕生日だ。晴れやかな日だ。生命に感謝する日だ。
　昔の夢で台無しにしたくないし、記憶にすらない両親に代わり私を育ててくれた叔母さんに心配を掛けるのも嫌だ。
　まぶたを刺激する朝日を感じながら、私はそう思った。
　意識はゆっくりと、覚醒していく。
　私の運命が、動きだそうとしていた。