381 / 401
ゾル王国4
しおりを挟む
「言い出したのは、母上なんだからシアが気にすることはないよ」
「でも…」
「言いたいことは言えたのだろう?」
「ええ、過去のことは言っても、腹が立つだけだと思って言わなかったのですけど」
「言いたいなら言ったらいい、もう早々会えないかもしれないよ」
エクシアーヌの立場上、下手すれば二度と会えない。いや、二度と会えないと思っていたのだから、会う機会をソアリスは与えたのである。
「言い出したら、細かいことでキリがないんです」
「ああ、それは母上も言っていたな。特に全く相手に伝わらないから、うるさい黙れと言っていたそうだよ」
「お義母様なら言いますね」
「ああ、心にお義母様だろう?」
「ええ、そうでした」
アイリーンは二人の話の内容は別にして、微笑ましく思っていた。
「ララシャ嬢は、私も嫌いだったわ」
「そうなのですか?」
エクシアーヌは勿論だが、マイノスもアイリーンからララシャのことを聞くのは初めてであった。
「ええ、何度かね、まだアンセムと婚約していた時に、お茶をしたのだけど、まるで自分が既に王族にでもなったような素振りでね。王宮のメイドを自分のメイドのように使うの」
「うわぁ…肥え太った姿は見ましたか?」
「それが見てないのよ!私がいた頃は、痩せ細っていたもの」
「母は最近、樽2号と呼んでいます」
「2号?」
「1号はロアンスラー前公爵夫人です」
「あなたの祖母じゃない」
マイノスは既に当たり前になっていたが、アイリーンにとっては祖母をそのような言い方をすることに驚いた。
「関わりがないので、ロアンスラー前公爵夫人としか思えません」
「孫ともなの?ソアリスとは、仲が悪いとは聞いたけど…」
「ええ、母上はいつも理不尽に叱られ、暴力を受けていたそうです」
「は?」
アイリーンは怒気を含んだ声を上げた。ソアリスがロアンスラー公爵家と上手くいっていないのは知っていたが、暴力のことまでは知らない。
「今では反省しているようですけど、母が許すことはないでしょう」
「ずっと?」
「父と婚約することになって、会う日の前日に前公爵夫人と揉めて、引っ叩かれて、化粧で隠していたそうなので、婚約前までは確実です」
ケイト以外はソアリスが時折、口に出すこともあるが、アンセムからロアンスラー公爵邸でのソアリスの過去を聞いている。
エクシアーヌも、マイノスから大体の事情は聞いている。
厄介な姉を持ったことは同じだったが、両親も兄もエクシアーヌに寄り添ってくれていたが、ソアリスにはいなかったのだと自分より余程辛い境遇だと知ったのだ。
「何てこと…娘にそんなこと、信じられないわ」
「それで、身に付けたのが悪い口なんです」
「そうだったの…」
ソアリスのことを一度も悪くは思ったことはなかったが、あの口の悪さにそんな事情があったことに、驚きを隠せなかった。
「幼い頃からだったそうです。母は勉強をして、遊んでいただけなのに、怒られて。遊んではいないけど、勉強をしていない伯母を褒めていたそうです」
「っな、何それ」
「でも、実際は母はやれば出来ますが、伯母は何も出来ない。当たり前です、何もしていなかったのですから」
「出来が悪かったのは知っているわ」
アイリーンも母・テラーから、あまり進んでいないことを聞いていた。
「おそらく衣食住で何かされたわけではないそうですけど、母は憎しみを溜め込んで、あのようになったのです。母の幼なじみが、出会った頃には出来上がっていたそうですから」
アリルがリズ夫人から、聞いたことである。
「私なら、何か出来たでしょうに。情けないわ」
「望ましい過去ではありませんが、微塵も感じさせないほど、強くなり、力を持つべき者が持ったと父は言っておりました」
「アンセムより、強く逞しいことは確かね」
アイリーンはアンセムには今でも厳しい目で接している。それがいくら嫁いだ身でも、出来ることだと思っているからである。
「でも…」
「言いたいことは言えたのだろう?」
「ええ、過去のことは言っても、腹が立つだけだと思って言わなかったのですけど」
「言いたいなら言ったらいい、もう早々会えないかもしれないよ」
エクシアーヌの立場上、下手すれば二度と会えない。いや、二度と会えないと思っていたのだから、会う機会をソアリスは与えたのである。
「言い出したら、細かいことでキリがないんです」
「ああ、それは母上も言っていたな。特に全く相手に伝わらないから、うるさい黙れと言っていたそうだよ」
「お義母様なら言いますね」
「ああ、心にお義母様だろう?」
「ええ、そうでした」
アイリーンは二人の話の内容は別にして、微笑ましく思っていた。
「ララシャ嬢は、私も嫌いだったわ」
「そうなのですか?」
エクシアーヌは勿論だが、マイノスもアイリーンからララシャのことを聞くのは初めてであった。
「ええ、何度かね、まだアンセムと婚約していた時に、お茶をしたのだけど、まるで自分が既に王族にでもなったような素振りでね。王宮のメイドを自分のメイドのように使うの」
「うわぁ…肥え太った姿は見ましたか?」
「それが見てないのよ!私がいた頃は、痩せ細っていたもの」
「母は最近、樽2号と呼んでいます」
「2号?」
「1号はロアンスラー前公爵夫人です」
「あなたの祖母じゃない」
マイノスは既に当たり前になっていたが、アイリーンにとっては祖母をそのような言い方をすることに驚いた。
「関わりがないので、ロアンスラー前公爵夫人としか思えません」
「孫ともなの?ソアリスとは、仲が悪いとは聞いたけど…」
「ええ、母上はいつも理不尽に叱られ、暴力を受けていたそうです」
「は?」
アイリーンは怒気を含んだ声を上げた。ソアリスがロアンスラー公爵家と上手くいっていないのは知っていたが、暴力のことまでは知らない。
「今では反省しているようですけど、母が許すことはないでしょう」
「ずっと?」
「父と婚約することになって、会う日の前日に前公爵夫人と揉めて、引っ叩かれて、化粧で隠していたそうなので、婚約前までは確実です」
ケイト以外はソアリスが時折、口に出すこともあるが、アンセムからロアンスラー公爵邸でのソアリスの過去を聞いている。
エクシアーヌも、マイノスから大体の事情は聞いている。
厄介な姉を持ったことは同じだったが、両親も兄もエクシアーヌに寄り添ってくれていたが、ソアリスにはいなかったのだと自分より余程辛い境遇だと知ったのだ。
「何てこと…娘にそんなこと、信じられないわ」
「それで、身に付けたのが悪い口なんです」
「そうだったの…」
ソアリスのことを一度も悪くは思ったことはなかったが、あの口の悪さにそんな事情があったことに、驚きを隠せなかった。
「幼い頃からだったそうです。母は勉強をして、遊んでいただけなのに、怒られて。遊んではいないけど、勉強をしていない伯母を褒めていたそうです」
「っな、何それ」
「でも、実際は母はやれば出来ますが、伯母は何も出来ない。当たり前です、何もしていなかったのですから」
「出来が悪かったのは知っているわ」
アイリーンも母・テラーから、あまり進んでいないことを聞いていた。
「おそらく衣食住で何かされたわけではないそうですけど、母は憎しみを溜め込んで、あのようになったのです。母の幼なじみが、出会った頃には出来上がっていたそうですから」
アリルがリズ夫人から、聞いたことである。
「私なら、何か出来たでしょうに。情けないわ」
「望ましい過去ではありませんが、微塵も感じさせないほど、強くなり、力を持つべき者が持ったと父は言っておりました」
「アンセムより、強く逞しいことは確かね」
アイリーンはアンセムには今でも厳しい目で接している。それがいくら嫁いだ身でも、出来ることだと思っているからである。
3,411
お気に入りに追加
8,463
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。
銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」
私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。
「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」
とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。
なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。
え?どのくらいあるかって?
──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。
とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。
しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。
将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。
どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。
私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?
あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
需要が有れば続きます。
(完結)嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる