私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
346 / 382

ミレスゴート公爵家の夜会2

しおりを挟む
「ソアリス王妃陛下、お会いしとうございました。キャロラインがいつもお世話になっております」

 ミアンナは他の招待客と同じような態度ではあるが、表情が隠し切れないほどの喜びに満ちていた。

「ソアリスで結構よ。こちらこそ、キャロラインにいつも感謝しているわ、ミフルのことも頼まれてくれてありがとう」
「はい、ソアリス様。勿体ないお言葉でございます。こちらが夫のディラードでございます」
「ディラード・ミレスゴートでございます」

 ミアンナは大きな夫を紹介し、ソアリスは自己紹介を待ってから、注意を入れた。

「頭は下げないでね、ごきげんよう。目立ってしまうから」

 公爵が頭を下げる人間は限られる。ミフルの結婚式の際は、ディラードとは顔を合わせただけで、しっかり挨拶は出来ていなかった。

「は!承知しました」

 頭を下げようと思っていたディラードは背筋を伸ばし、ミアンナにもうと言われながら、肘で小突かれている。

「食事やお酒はいかがでしょうか?」
「はい、とても気に入りまして、食べ過ぎてしまったわ。ねえ、キャロライン」
「はい、沢山頂きました」
「それはようございました」

 ソアリスはディラードは彫の深い顔で、背は高いが、とても話し方の穏やかな男性だと感じていた。

「もう少ししたら、私も混ぜていただいてもよろしいですか?」
「勿論ですわ」
「ありがとうございます。頑張って参ります」
「ええ、頑張って」
「はい!」

 再び、ミレスゴート公爵夫妻は夜会の中心に戻って行った。

「最後の返事の仕方はキャロラインにそっくりだったわね、似ていたのね」
「そうですか?」
「キャロラインの残像が見えたわ」
「ええ!声や顔立ちは似ていると言われていたのですが」
「キャロラインの返事と同じだったわ、ふふっ」

 キャロラインは初めて言われたことで、何だか嬉しくなってしまった。

「この年で、何だか嬉しいです。ありがとうございます」

 ソアリスは自身の姉のろくでもない過去を思い出し、お互いが尊敬が出来る姉妹を、微笑ましく感じていた。

 しばらくすると、ミアンナが再び満面の笑みで戻って来た。

「何か食べられますか?」
「よろしいですか」
「ええ、美味しいのだから、主催者も頂かないとね」
「ありがとうございます」

 メイドが用意をして、ミアンナも食べ始めた。ソアリスとキャロラインも、相変わらず食べており、これがとても美味しかったと感想を伝えながら、談笑した。

「素敵な邸ですわね、とても好みですわ」

 ミレスゴート邸は、古くはあるが、大事に手入れされていることが分かる邸であった。応接室の家具も、古いものと新しいものが上手く融合していると感じた。

「ありがとうございます」
「時間があったら、帰る前にもう一度、キャロラインと寄らせて貰ってもいいかしら?」
「勿論でございます」

 お忍びということで、参加は出来たが、時間は限られていた。それでも、ソアリスは美味しい料理にお酒に、とても満足していた。

 そんな話をしていると、ソアリスには聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「王女なのよ!」

 声のする方を見ると、華美に着飾った若い女性がいた。

「あれって?」
「フローラ王女殿下です。招待はしていないのですが、キズラー侯爵に無理を言って連れて来て貰ったようで…大人しくしていると言う約束で、追い返すわけにもいかず、入れたのですが…申し訳ございません」
「ロンド王国の?」
「はい」
「ミアンナのせいではないわ。確か出戻った側妃の娘だったわよね?」
「はい、その通りでございます」

 ロンド王国は王妃が息子を二人産んだが、その際にもう次の子は望めないとされたことで、側妃が娶られて、フローラ王女が一人生まれている。

 正直、側妃は要らなかったのではというのが、概ねの意見である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね

日々埋没。
恋愛
「ロゼッタが余に泣きながらすべてを告白したぞ、貴様に酷いイジメを受けていたとな! 聞くに耐えない悪行とはまさしくああいうことを言うのだろうな!」  公爵令嬢カムシールは隣国の男爵令嬢ロゼッタによる虚偽のイジメ被害証言のせいで、婚約者のルブランテ王太子から強い口調で婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚だったためカムシールは二つ返事で了承し、晴れてルブランテをロゼッタに押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って明らかに〇〇からの〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  真実に気がついていながらもあえてカムシールが黙っていたことで、ルブランテはやがて愚かな男にふさわしい憐れな最期を迎えることになり……。  ※こちらの作品は改稿作であり、元となった作品はアルファポリス様並びに他所のサイトにて別のペンネームで公開しています。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

処理中です...