私のバラ色ではない人生

野村にれ

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仁義なき対決6

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「ララシャ・ロアンスラー、サインした誓約書の内容を守らなかったということを理解していますか」
「…え、何を言っているの?そうじゃないでしょう?」
「いいえ、私は今日が本当に、最期だと思ったからこそ、わざわざやって来て、あなたに事実を話しているのですよ」
「違うわ!側妃の話でしょう!」

 その言葉に室内は、ピキっとした冷たい空気が張り詰めた。最大の発生源はミソラとオードエル公爵である。

「王家に関わらないと約束しただろう?しかも、側妃を進言するなどあり得ないことだ。そんなことも分からないのか?」
「何なのよ!話し方も…」

 ソアリスは正直、女性らしい話し方よりも淡々と話す方が楽である。

「私はあなたのように、私が王太子殿下の婚約者で、王太子妃だったというあったかもしれない未来ではなく、現実に王妃なのです」
「私が婚約者でなくなったから、王妃になれたのよ!私に感謝するべきでしょう!」

 ララシャにはもう過去に手にしていたものしかない。

「私があなたはに感謝したことは一度もない。勿論、憧れたこともなければ、話を一度も面白い、興味深いと思ったこともない」
「は…?」
「あなたの話はクソほど面白くない」
「な、な、な…そんなこと、そもそも関係ないじゃない」
「ああ、関係ない。だが、ずっと思っていて、一度言ってやろうと思っていたからな。言えて良かった」

 最期であれば言って置こうと思っていた、一つであった。

 幼い頃から、自慢話を主とする自分の話ばかりで、褒められ待ちをされていたのだ。言って置かなければ後悔する。

「性格が悪いわ!」
「ええ、悪いわよ?性格も口も悪いし、頭も大して良くない。だけどね、あなたはそれ以下なの。それってあなたにはとっても恥ずかしいことじゃない?」

 ソアリスは自分が優秀で、素晴らしい人間だと思ったことはない。

「私はロアンスラー公爵家の欠陥品だもの。ねえ、お兄様、お父様、お母様?」
「そんなことはない」
「そうだ」
「そうよ!」

 昔とはすっかり変わった答えだが、ソアリスは見返したかったわけでなく、冷めた目で見た。お転婆で、暴言を平気で吐く、口の立つソアリスはロアンスラー公爵家では欠陥品扱いであった。

 3人はまさか自分たちに振られるとは思わずに、冷や汗をかいた。

「みんな、何を言っているの!ソアリスは不出来で」
「ある意味、あなただけは良くも悪くも、変わらないわね。代わったのは体形だけね、てっきりお父様に似ていると思っていたのよ?両親って、やはり両親なのね」
「うるさい!」

 ララシャはついにオードエル公爵を気にすることもなく、喚いた。

「ああ!その体形だけは面白かったわ」

 話はいつまで経っても面白くなかったが、マルシャにそっくりな樽型の体形だけは、何度も何度も指摘するほど面白かった。

「おこぼれ婚とは言わないのね?」
「っ」
「ルーエンヌ叔母様に聞いたのでしょう?おこぼれはお前の方が先だと、どう思った?どうせ、私を下に見て、優越感に浸っていたのでしょう?」
「私は違うわ…選ばれたんだから」
「リベル殿下はそうでしょうね、唯一選んでくれた人だったのに。唯一愛してくれる人だったのに。どうしてなの?」

 ララシャはアンセムに選ばれたわけではない、だがリベルには選ばれた。ララシャにとって選ばれること、特別であること、愛されることは大事なことであったはずなのに、どう思っているのか聞いてみたかった。

「今でも愛されていることに変わりはないわ」

 ララシャがそう言うと、時が止まったのかというほどの静寂だった。ケイトのクッキーのポリポリという咀嚼音が、聞こえるほどであった。

「なるほどね…いつになったら、己を顧みるの?」

 ララシャが離縁され、制限されている生活の時間も経っている。にも関わらず、まだ自分の立場を分かっていないのか。
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