私のバラ色ではない人生

野村にれ

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一言目

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「ああ~これだったの?」
「何ですか?」
「いえ、ケイトが陛下にぺっぺって、よく言っていて、嫌われているのかと悩んでいたようなのですが…」

 置かれたのは、甘いものより良いだろうと、用意されていたのはカナッペであった。ケイトは完全に、指差している。

「ぺっぺっ」
「きっと陛下が食べているのを見たのね」
「謎が解けて、お父様も喜ぶわ」
「そうね、そしてケイトはこれはまだ食べられないわ」

 うわ~んと嘆くケイトをヒョイと抱えて退室し、グレイとミフルは短い時間ながらも沢山の話をして、グレイは帰って行った。

 アンセムにも伝えられ、オーランとクイオもまさかという顔をしていた。

「カナッペだったのか…」
「ええ、とても美味しそうに見えたんだと思うわ」

 カナッペは色んなものが上にのっており、確かに美味しそうである。小腹の空いた時に、アンセムはカナッペを食べていた。

 だか、まさか誰もカナッペだったとは思わなかった。

 そして、ついにその日がやって来た。

「おやちゅ、よこしなしゃい」

 いつもおやつを食べる机の前にペタンと座り、クイっとソアリスの方を向いて、言い放った。

「ハッキリ言ったわね」
「はい、間違いなく聞こえました」
「はい、しっかりお話になりました」

 メディナとポーリアが、落ち着いた様子で、続くように答えた。

「やはりはっきりお話になりましたね」
「はい、ちゃんと聞き取れました」

 護衛のマイト、アレクも続いて答えた。

 今までも返事のような言葉は発していたせいか、皆も冷静で、言葉を喋ったという感動や、興奮が一切ない。

「はあ…予想通りというか、傲慢な口調ね…せめて、おやつ頂戴って言って欲しいわ。しかも、おやつは1時間前に食べたばかりよ」

「おやちゅ、ちょうだい」
「またちゃんと言ったわよ、言って欲しい言葉を言ったわよ?それなのに喜べないのはなぜかしら」

 皆はソアリスの問いに、全員が目を逸らした。

「おやちゅ、おかあしゃま、おやちゅ」
「今日のおやつは、もう食べました」
「ぶ~!」

 座ったまま、手足をバタバタさせている。

「おかわり」
「おかわりって言ったわよ」
「おっしゃいましたね…」

 ドアを叩く音がして、「カイルスです」という声が聞こえ、ソアリスがどうぞと答えると、ポーリアがドアを開き、カイルスが入って来た。

「お母様!本日の授業が終わりました」
「はい、今日もお疲れ様でした」
「おちゅかれさま」

 続く声にカイルスは驚愕の顔をして、ケイトを見つめた。

「ケイトが言ったの?」
「うん!かいるす、おにいしゃま」

 カイルスは思わずケイトに近寄って、ギュっと抱きしめた。微笑ましい光景なのだが、ただいまおやつを絶賛強請られているので、そのような空気ではない。

「素晴らしいじゃないか!いつから喋れたの?」
「うん?」
「私たちが聞いたのは、ついさっきよ」
「何て言ったんですか?」
「おやつ、よこしなさいって言ったわ」
「おやつ…よこしなさい…」

 カイルスは最初に話した言葉は、もちろん『おかあしゃま』である。むしろ、『おとうしゃま』をなかなか言わなかったくらいで、アンセムは落ち込んでいた。

「傲慢な顔だったわ…カイルスはおかあさまだったのに、おやつに負けたわ」

 ソアリスは遠い目をして、遠くの緑を見ていた。

「お兄様はおやつはまだだから、少し、少しだけ分けてあげよう」
「わぁい!おにいしゃま」
「カイルス~!」

 ソアリスはじっとりと、カイルスを見つめた。

「少しだけ、喋ったお祝いに少しだけ。いいでしょう?」
「少しだけよ、でないと夕食が減るわよ?いいわね?」
「はい」「はぁい」

 カイルスのおやつが運ばれて来て、ソアリス達の監視の下で、少しだけおやつを分けてもらったケイトであった。

 そして、誰も報告していなかったので、夕食時にソアリスとカイルスとケイト以外が驚くことになる。

「おいし!」
「今、喋ったんじゃないか?」

 カイルスが食べさせていたが、不思議そうな顔をした。
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