私のバラ色ではない人生

野村にれ

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私罰

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 クロンデール王国にも発表が届き、ピデム王国よりもララシャを知っている世代は驚いた。一体何をしたのか、戻って来るのかと、良い感情を持つ人はいない。

 既に戻って来ているのだが、ララシャには監視が付き、サイラスの言った通り、最低限の生活をさせている。

 ドレスだけはリベルから送られて来て、こちらの国では着ていないので、着回しだとも気付かれない。だが、着て行くところがない。暇を持て余したララシャは、また友人を呼ぼうと思った。

 離縁のことで愚痴を聞いて貰い、慰めてくれるはずだ。戻って来たからには、これからはまた招待を受けてあげなくてはいけない。

 悲劇のヒロインには、一人で嘆いても仕方ない。ステージが必要なのである。

「お茶会くらいいいでしょう?」
「その金はお前が出すのか?」
「そのくらいいいじゃない、この前は出してくれたでしょう?」
「最低限の生活に茶会は含まれているわけがないだろう?やりたいなら、自分で稼いでからにしなさい」

 働く気はないことは分かっているので、サイラスも敢えて使っている。

 そもそもが誰にも誘われてもいないのに、新しいドレスを新調したい、お菓子を食べたいと言って、贅沢をしたいのなら、仕事を見付けて働けばいいと言われているのに、茶会ならいいと思っている神経が、腹立たしいくらいだった。

 王宮ではアンセムはソアリスが、カリルに言った助言が気になっていた。

「ララシャ嬢?に再婚など、出来るとは思えないが?」
「今さら嬢と呼ばれるのね」

 ロアンスラー公爵はサイラスなので、娘ではないララシャは、正確にはロアンスラー公爵令嬢ではないが、呼び名としては未婚の貴族女性へはクロンデール王国では嬢と呼ぶので、ララシャは第二王子妃から、嬢に戻ることになる。

「再婚は余程の変わり者がいない限り難しいですが、離縁には効果的だったはずですよ?愛される人間だと言っていたことを、ララシャは絶対に否定しない。そして、今でも信じているのではないかしら?」
「今でも?」
「ララシャの中で、自分の立ち位置は王太子殿下の婚約者であり、他国の王子にも見初められ、奪い合われる存在です」
「リベル殿下が見初めたからか?」

 アンセムはララシャを見初めたわけではない。だがリベルが見初めたことで、変換されてしまったのか。

「ええ、元から自信のある人でしたけど、決定打になった。ここからどうするかですわね。それで私に罰はありませんの?」
「は?」
「実姉が罪を犯したのですよ?」
「そんなことを考えていたのか?」

 アンセムはソアリスは高みの見物をしているのだと思ったが、血縁者として責任を感じていたのだとようやく気付いた。

「当たり前でしょう?姉が修道院なんて、相当でしょう?」
「まだ修道院には」
「あれが大人しくしているかしら?」

 ソアリスはララシャがこのまま大人しくしているとは、全く思っていない。

「そうだとしても、君を非難するような声は上がっていない。ソアリスを罰したら、向こうも相当重い罰にしなければならない」
「公になっていないからでしょう?公になったら、違うんじゃない?」
「そうだとしても、君は既に嫁いだ身だ」
「まあ、とりあえずはそれでいいですわ。でも何かあった場合は、すぐに決断してくださいね。私も嬢にでも、敬称がない者にでもなりますから」

 そう言って去っていたソアリスに、言い知れぬ不安が湧き上がった。

 オーランとクイオ、そしてメディナ、ポーリア、キャロラインにも、何かあった際にソアリスに影響がないように動いて欲しいと願い出た。

 皆、驚いた顔をしたが、黙ってしっかりと頷いた。
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