私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
157 / 382

災いの元1

しおりを挟む
「これは一体どういうことだ?」
「申し訳ございません、まさか王妃陛下の元へ行くとは」

 抗議の手紙が届くと、リベルはすぐさまカリルに呼び出された。父である国王陛下宛てではないというのが、まだ忠告だと言わんばかりである。

「何のために行ったんだ?」
「もしかしたら、ですが…」

 冷めきった雰囲気のままのリベルとララシャだったが、気分を変えるためにとエスザール王国の視察に同行させたのが間違いだった。

 エミアンローズをグレイ殿下の婚約者にしたいなど、あまりに愚かなことを言うので、実家に帰って満足するならいいと思って帰らせたが、こんなことになるとは思っていなかった。

 正直、あまり考えていなかったという方が正しい。

「エミアンローズが、エスザール王国のグレイ殿下を格好いいと言ったことで、ララシャがその気になって、王妃陛下に代われ、もしくは降りろと言いに行ったのかもしれません」
「何だと!」
「勿論、グレイ殿下の婚約者はミフル王女殿下で、代われるわけないと言ったのですが、納得していなかったのでしょう…」
「エミアンローズが王太子妃になれるわけがないだろう!」
「分かっています。ですがララシャは分かっていないのです」

 父親としても、王族としても、エミアンローズが王太子妃になれるとは思えない。これがまだ幼い頃であったならば違ったかもしれないが、今となっては婚約者がいなくとも、絶対に無理だと言える。

 エミアンローズも素敵、格好いいとは言っていたが、どこまで本気だったのか、分からなかった。ちょうど出掛けるところを見ただけで、話もしていなければ、互いを認識してもいない。

 きっとララシャは娘が王太子妃になるということに、自分の価値が上がるような気でもしたのだろう。

「はあ…もし本当なら、内々の話ではなくなるぞ?離縁、幽閉、修道院…それ以上のことも覚悟しておくように。父上にも話をして置かなければならない」
「はい…」
「責任を取るべき時が来たのではないか」
「はい、そう思っています」

 これまで通り、分からないと、大人しくしていてくれれば良かった。婚約者がミフル王女殿下でなければ、行動を起こすことはなかっただろう。

「折角、国王夫妻とはいい関係を築けているというのに…」
「申し訳ありません。迎えに行って、話をして来ます」

 おそらくララシャは妹に会いに行ったくらいにしか考えていないだろうが、もしグレイ殿下のことを話したとしたら、もう庇える段階ではない上に、さすがにソアリス王妃陛下がなかったことにするとも思えない。

 あとは第四王女をエミアンローズの妹にと言いに行った可能性だが、おそらくタイミングからして、可能性は低いだろうと思って言わなかった。

 ソアリス王妃陛下がどう考えるか分からないが、まだ第四王女のことなら内々でどうにか出来るかもしれないが、同じことをした身として、言う資格はないが、もう許されなくてもいいと思っている。

 だが、エミアンローズだけは、助けなくてはならない。

 リベルはアンセム陛下に謝罪と、ロアンスラー公爵に先触れを出し、クロンデール王国に行き、カリルも謝罪の手紙を送り、返事もしくは抗議を待つしかなかった。

「わざわざ迎えに来たの?待っていればいいのに」

 ロアンスラー公爵邸に着き、義兄であるサイラス・ロアンスラー公爵と応接室で待っていると、入って来たララシャの放った言葉だった。

 会いたくて、迎えに来たと思っているのだろう。

 リベルが甘やかしたことが原因であることは分かっているが、出会った頃がピークだった二人の関係は下がり続けており、気付いていないのはララシャだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね

日々埋没。
恋愛
「ロゼッタが余に泣きながらすべてを告白したぞ、貴様に酷いイジメを受けていたとな! 聞くに耐えない悪行とはまさしくああいうことを言うのだろうな!」  公爵令嬢カムシールは隣国の男爵令嬢ロゼッタによる虚偽のイジメ被害証言のせいで、婚約者のルブランテ王太子から強い口調で婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚だったためカムシールは二つ返事で了承し、晴れてルブランテをロゼッタに押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って明らかに〇〇からの〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  真実に気がついていながらもあえてカムシールが黙っていたことで、ルブランテはやがて愚かな男にふさわしい憐れな最期を迎えることになり……。  ※こちらの作品は改稿作であり、元となった作品はアルファポリス様並びに他所のサイトにて別のペンネームで公開しています。

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

処理中です...