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「ソアリス、よく無事に産んでくれた。ありがとう。具合はどうだろうか」
目が覚めたと聞いたアンセムは、ソアリスの元へ駆け付けた。
「ええ、何だか色々痛いけど、思ったより早く生まれて驚いたわ。陛下の文句を垂れ流したのが良かったのかもしれないわね」
分娩を手伝った者に我々は何も聞いておりませんという顔をされ、内容は一切分からないが、知らない方が幸せということもある。
「ああ…役に立てたのなら良かった」
「確かに役には立ったということなのかも」
笑うソアリスに、昨日と変わらない姿にまた安堵した。
「改めて、陣痛の際には申し訳なかった」
「本当よ!」
「すまなかったと思っている。落ち着いていられなくてだな。カイルスにも、お母様はお誕生日なのにと言われてしまった」
「さすがカイルス!でも私、誕生日だっていうのに、出産して、寝ていただけじゃない…気付いたら終わっているし。お腹が空いたわ」
「今、用意をさせている」
「ご飯を食べたら名前を発表しましょう。名前がないと呼べないものね」
ソアリスは産後のリハビリに入るためにも、しっかり朝食を食べた。
そして、名前を発表するために、皆を呼び付けると、労いの言葉を掛けられて、カイルスは赤ちゃん返りかのようにソアリスから離れなかった。
アリルもまだ手伝いがあるので、今日も来ていたので、無事揃っている。
それで名前の発表をソアリスの顔を見ながら待っていると、ソアリスはじっとアンセムを見た。
「え?ソアリスが考えたんだろう?まさか?」
「考えたわよ!だから、遺書は?渡したでしょう?」
飛び出した物騒な言葉に、きょうだいたちはどういうことかと、困惑や怪訝の表情を浮かべている。
「遺書?」「遺書って何よ」
「間違えた、遺言書は?」
「持っているが?」
「オープン!」
「まさかここに書いてあるのか?」
アンセムはソアリスから、出産時に私に何かあった時のためにと、私的な遺言書を預かっていた。
こんなものは用意するなと突き返したが、もし何かあった時に、受け取っておけば良かったと思うのはあなたよと言われて、渋々受け取っていた。
「そうよ」
「お母様、遺言書なんて書いていたの?」
「念のためによ、でないと名前が付けられないでしょう?」
「開けてもいいのか?」
「ええ、名前と大したことは書いてないもの」
「え?大したことは書いていないの?」
アリルは遺言書というのだから、珍しく真面目に書いたのかと期待していた。
「私がしおらしく、お涙頂戴の手紙なんて書くと思う?いえ、書けると思う?」
言い出したアリルも、他の皆も伏し目がちに目を逸らした。
そして、アンセムは内ポケットから出した、遺言書を開けた。
「第7子、第四王女の名前は、ケイト・グレンバレン!」
しばしの静寂が流れ、ソアリスは渾身の名前だったのにと思っていたので、反応の薄さに珍しく不安になった。
「ケイト…」
「いい名前じゃない」
「意外…」
「可愛い」
「素敵です」
ようやく皆に褒められて、ソアリスはほほほと得意気な顔をしている。
「でも失礼な言葉が聞こえたのだけど?」
「お母様だったら、もっと、ん?ってなるような名前かもって思ったの」
意外と言ってしまったエクルが言いわけをしている。
「レモンは却下されちゃったから」
「レモン…」
「可愛いとは思うけど、男の子だったら、レモン王子はね…」
「黄色いマントが似合いそうだが…」
皆、頭の中の架空の王子に黄色いマントを付けて、想像してしまった。
「バーセム公爵家のレモンのマドレーヌからでしょう?」
「バレた?」
「バレますよ!」
「レモン・グレンバレンも語呂がいいと思ったんだけどね」
「レモン・グレンバレン!確かに言っていると楽しくなるな」
「お兄様、ケイトですからね」
当のケイトは大騒ぎしている間も、すやすやと眠っている。
そして、アンセムは遺言書が、もう一枚あることに気付いた。
そこには大きく、"後は任せた"と書かれており、ソアリスらしいが、遺言書にならなくて良かったと思い、そっと閉じた。
目が覚めたと聞いたアンセムは、ソアリスの元へ駆け付けた。
「ええ、何だか色々痛いけど、思ったより早く生まれて驚いたわ。陛下の文句を垂れ流したのが良かったのかもしれないわね」
分娩を手伝った者に我々は何も聞いておりませんという顔をされ、内容は一切分からないが、知らない方が幸せということもある。
「ああ…役に立てたのなら良かった」
「確かに役には立ったということなのかも」
笑うソアリスに、昨日と変わらない姿にまた安堵した。
「改めて、陣痛の際には申し訳なかった」
「本当よ!」
「すまなかったと思っている。落ち着いていられなくてだな。カイルスにも、お母様はお誕生日なのにと言われてしまった」
「さすがカイルス!でも私、誕生日だっていうのに、出産して、寝ていただけじゃない…気付いたら終わっているし。お腹が空いたわ」
「今、用意をさせている」
「ご飯を食べたら名前を発表しましょう。名前がないと呼べないものね」
ソアリスは産後のリハビリに入るためにも、しっかり朝食を食べた。
そして、名前を発表するために、皆を呼び付けると、労いの言葉を掛けられて、カイルスは赤ちゃん返りかのようにソアリスから離れなかった。
アリルもまだ手伝いがあるので、今日も来ていたので、無事揃っている。
それで名前の発表をソアリスの顔を見ながら待っていると、ソアリスはじっとアンセムを見た。
「え?ソアリスが考えたんだろう?まさか?」
「考えたわよ!だから、遺書は?渡したでしょう?」
飛び出した物騒な言葉に、きょうだいたちはどういうことかと、困惑や怪訝の表情を浮かべている。
「遺書?」「遺書って何よ」
「間違えた、遺言書は?」
「持っているが?」
「オープン!」
「まさかここに書いてあるのか?」
アンセムはソアリスから、出産時に私に何かあった時のためにと、私的な遺言書を預かっていた。
こんなものは用意するなと突き返したが、もし何かあった時に、受け取っておけば良かったと思うのはあなたよと言われて、渋々受け取っていた。
「そうよ」
「お母様、遺言書なんて書いていたの?」
「念のためによ、でないと名前が付けられないでしょう?」
「開けてもいいのか?」
「ええ、名前と大したことは書いてないもの」
「え?大したことは書いていないの?」
アリルは遺言書というのだから、珍しく真面目に書いたのかと期待していた。
「私がしおらしく、お涙頂戴の手紙なんて書くと思う?いえ、書けると思う?」
言い出したアリルも、他の皆も伏し目がちに目を逸らした。
そして、アンセムは内ポケットから出した、遺言書を開けた。
「第7子、第四王女の名前は、ケイト・グレンバレン!」
しばしの静寂が流れ、ソアリスは渾身の名前だったのにと思っていたので、反応の薄さに珍しく不安になった。
「ケイト…」
「いい名前じゃない」
「意外…」
「可愛い」
「素敵です」
ようやく皆に褒められて、ソアリスはほほほと得意気な顔をしている。
「でも失礼な言葉が聞こえたのだけど?」
「お母様だったら、もっと、ん?ってなるような名前かもって思ったの」
意外と言ってしまったエクルが言いわけをしている。
「レモンは却下されちゃったから」
「レモン…」
「可愛いとは思うけど、男の子だったら、レモン王子はね…」
「黄色いマントが似合いそうだが…」
皆、頭の中の架空の王子に黄色いマントを付けて、想像してしまった。
「バーセム公爵家のレモンのマドレーヌからでしょう?」
「バレた?」
「バレますよ!」
「レモン・グレンバレンも語呂がいいと思ったんだけどね」
「レモン・グレンバレン!確かに言っていると楽しくなるな」
「お兄様、ケイトですからね」
当のケイトは大騒ぎしている間も、すやすやと眠っている。
そして、アンセムは遺言書が、もう一枚あることに気付いた。
そこには大きく、"後は任せた"と書かれており、ソアリスらしいが、遺言書にならなくて良かったと思い、そっと閉じた。
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