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分娩2
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「まさか自分の誕生日に出産になるなんて」
「本当に」
「お誕生日会、中止?」
「延期ね」
出産予定日まで5日あり、今日の夕食はソアリスの誕生日祝いの予定だった。今朝もラセール伯爵が公務は出来ないので、国内に向けて、代わりに元気に過ごしていると発表したばかりだった。
「お母様、大丈夫かな?」
「大丈夫よ、お母様は強いでしょう?」
「はい、凄く強いです」
「きっと、今物凄い力で頑張っているわ」
カイルスを祖母と姉たちが囲み、不安にならないように笑顔を心掛けた。女性陣も不安でないわけではない、だがもう信じるしかない。
侍女たちは本人たちの強い希望で、出産の手伝いに回っており、状況を知らせに来てくれる予定になっている。
1時間くらい経ち、ドアがノックされ、アンセムが返事をすると、メディナが入って来た。
「ソアリスはどうだ?」
「はい、順調に進んでいるとお伝えに来ました」
「そ、そうか…」
皆が息を吐き、胸を撫で下ろした。
「様子はどうだ?」
「先程まではお肉が食べたかったと嘆いておいででした、肉~肉~っと」
「出産が終わったら、いくらでも食べさせるからと伝えてくれ」
「承知しました」
「他には?」
「後は、ずっと陛下の文句を言っておりますが…皆、聞かなかったことにしておりますので、ご心配なく。それでは戻らせていただきます」
メディナも意識は出産に向き、それどころではないので、陛下相手でも雑である。
「そ、そうか…よろしく頼む」
アンセムの文句を言っていると言われて、絶対先程のせいだと、側近は思った。
「あなたの文句を言っているなんて、ソアリスらしいわね。今日くらい言わせてあげなさい」
「先程、怒らせて追い出されたので…」
「お父様、お母様を怒らせたの?」
一番に反応したのはソアリス大好き、カイルスである。
「ち、違うんだ…」
「今日はお母様が生まれて来てくれて、ありがとうという日なのに、どうしてなのですか?」
カイルスに純粋な瞳で見られたアンセムは、何も言えなかった。
「すまなかったと思っている…」
「ちゃんとお母様に謝ってください」
「分かった」
しょんぼりしたアンセムは、ようやくソファに座った。黙っていても、空気が重いので、三姉妹が話し始めた。
「とんでもないことになっているでしょうね」
「ええ、暴言が飛び交ってそうだわ」
「いそうではなく、絶対言っていますよ!しかも、お父様が怒らせたのでしょう?酷くなっておりますよ…皆さん、大丈夫かしら?」
その言葉に、さらにアンセムは肩身が狭くなってしまった。そういえばと思ったアリルがアンセムに問うた。
「名前は決めたのですか?」
「今回はソアリスが決めることになっている」
「そうなのですか?」
皆、ソアリスが誰一人、名前を付けていないことは、既に知っている。
「最後くらい付けましょうと言い出してね、男の子でも女の子でも付けられる名前だそうだ」
「聞いたのですか?」
「いや、まだだ」
「絶対、2つ考えるのが面倒だったのよ…」
ピシャリと言い切ったのはエクル、ミフルも頷いている。
「カイルスは誰が付けたの?お母様じゃないの?」
「カイルスは、亡くなったアローク祖父様とミラン祖母様が付けたんだ」
「そうなのですね」
アロークのことは覚えていないが、ミランのことは好きなので、それならいいかという気になった。
「とんでもない名前だったら、どうするの?」
「さすがに止めるさ」
そんな話をしていると、再びドアがノックされた。入って来たのは、メディナではなく、ロペス医師だった。
「何かあったのか?」
慌てて皆は立ち上がった。
「生まれました―――!!」
「は?」
長期戦を覚悟していた皆は、呆気に取られた。アンセムは他の者は休ませても、一緒にずっと起きていようと決意していた。
それなのに、まだ二時間くらいしか経っていない。
「お母様は、大丈夫ですか?」
声を上げたのは、カイルスであった。
「本当に」
「お誕生日会、中止?」
「延期ね」
出産予定日まで5日あり、今日の夕食はソアリスの誕生日祝いの予定だった。今朝もラセール伯爵が公務は出来ないので、国内に向けて、代わりに元気に過ごしていると発表したばかりだった。
「お母様、大丈夫かな?」
「大丈夫よ、お母様は強いでしょう?」
「はい、凄く強いです」
「きっと、今物凄い力で頑張っているわ」
カイルスを祖母と姉たちが囲み、不安にならないように笑顔を心掛けた。女性陣も不安でないわけではない、だがもう信じるしかない。
侍女たちは本人たちの強い希望で、出産の手伝いに回っており、状況を知らせに来てくれる予定になっている。
1時間くらい経ち、ドアがノックされ、アンセムが返事をすると、メディナが入って来た。
「ソアリスはどうだ?」
「はい、順調に進んでいるとお伝えに来ました」
「そ、そうか…」
皆が息を吐き、胸を撫で下ろした。
「様子はどうだ?」
「先程まではお肉が食べたかったと嘆いておいででした、肉~肉~っと」
「出産が終わったら、いくらでも食べさせるからと伝えてくれ」
「承知しました」
「他には?」
「後は、ずっと陛下の文句を言っておりますが…皆、聞かなかったことにしておりますので、ご心配なく。それでは戻らせていただきます」
メディナも意識は出産に向き、それどころではないので、陛下相手でも雑である。
「そ、そうか…よろしく頼む」
アンセムの文句を言っていると言われて、絶対先程のせいだと、側近は思った。
「あなたの文句を言っているなんて、ソアリスらしいわね。今日くらい言わせてあげなさい」
「先程、怒らせて追い出されたので…」
「お父様、お母様を怒らせたの?」
一番に反応したのはソアリス大好き、カイルスである。
「ち、違うんだ…」
「今日はお母様が生まれて来てくれて、ありがとうという日なのに、どうしてなのですか?」
カイルスに純粋な瞳で見られたアンセムは、何も言えなかった。
「すまなかったと思っている…」
「ちゃんとお母様に謝ってください」
「分かった」
しょんぼりしたアンセムは、ようやくソファに座った。黙っていても、空気が重いので、三姉妹が話し始めた。
「とんでもないことになっているでしょうね」
「ええ、暴言が飛び交ってそうだわ」
「いそうではなく、絶対言っていますよ!しかも、お父様が怒らせたのでしょう?酷くなっておりますよ…皆さん、大丈夫かしら?」
その言葉に、さらにアンセムは肩身が狭くなってしまった。そういえばと思ったアリルがアンセムに問うた。
「名前は決めたのですか?」
「今回はソアリスが決めることになっている」
「そうなのですか?」
皆、ソアリスが誰一人、名前を付けていないことは、既に知っている。
「最後くらい付けましょうと言い出してね、男の子でも女の子でも付けられる名前だそうだ」
「聞いたのですか?」
「いや、まだだ」
「絶対、2つ考えるのが面倒だったのよ…」
ピシャリと言い切ったのはエクル、ミフルも頷いている。
「カイルスは誰が付けたの?お母様じゃないの?」
「カイルスは、亡くなったアローク祖父様とミラン祖母様が付けたんだ」
「そうなのですね」
アロークのことは覚えていないが、ミランのことは好きなので、それならいいかという気になった。
「とんでもない名前だったら、どうするの?」
「さすがに止めるさ」
そんな話をしていると、再びドアがノックされた。入って来たのは、メディナではなく、ロペス医師だった。
「何かあったのか?」
慌てて皆は立ち上がった。
「生まれました―――!!」
「は?」
長期戦を覚悟していた皆は、呆気に取られた。アンセムは他の者は休ませても、一緒にずっと起きていようと決意していた。
それなのに、まだ二時間くらいしか経っていない。
「お母様は、大丈夫ですか?」
声を上げたのは、カイルスであった。
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