私のバラ色ではない人生

野村にれ

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エクルの縁談

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 クロンデール王国では、いつものようにカイルス以外の子どもたちが集まって、マイノスを祝福していた。

「「「「おめでとう」」」」
「ありがとう」
「決め手は何だったんだ?」
「人柄もハッキリした方だったし、あと母上に境遇が似ているんだよ」

 ああ…と皆が声を漏らし、皆、ララシャとのことは知っている。

「姉君が厄介なんだったな」
「それで上手くいくのではないかと思ったのもある。父上も伯母上も大丈夫だろうということだったしな」
「王女で厄介な性格だったら、鬱憤が止まらなくなりそうですものね」
「うわ…」
「その姉とかな?」

 皆が想像したくもないと、顔を顰めた。

 エクルの縁談はまずは候補者は伝えずに、相性を見るために、候補者も参加する公爵家のガーデンパーティーに、出席することになった。

 ソアリス、ユリウス、マイノス、アリルも出席し、アンセムが聞いた情報と照らし合わせて、まず一人会わせることになった。

 アンセムとソアリスとエクルで話そうと思っていたが、ソアリスから離れないカイルスも同席している。

「テイラー侯爵家のボブさんって方なのだけど」
「違う、ブルックスだ」

 アンセムは首を振って、ソアリスを訂正した。

「全然、違う…ボブって誰ですか」
「あれ?ボブじゃなかったかしら?」
「それは一緒に来られた従者の方だろう」

 テイラー侯爵と従者に会った際に、ソアリスも同席したのだが、テイラー侯爵がその丸い顔をして、ガタイのいい従者をボブと呼ぶと、ソアリスは「ボブ…」と呟くと、じっと見つめて、深く頷いていた。

「何で従者の名前を…」
「ソアリスの中で今まで一番、ボブという名がお似合いの顔だったそうだ」

 アンセムも後から何だったのか訊ねると、今まで見てきた中で一番どう見てもボブという顔で、ご両親は素晴らしいネーミングセンスをしていると評価していた。

「ああ、それで…(印象に残ってしまったのね)」

 ソアリスはそうだったかしらと、首を傾けていたが、横に座っていたカイルスが、ソアリスの腕を引っ張って、話し始めた。

 「おかあさま、かいるすね、もうすぐよんさいなんだって」
 「そうだったわね」
 「カイルスではなく、わたしと言った方がいいんじゃない?」
 「わたし?」
 「そう、カイルスって言っているところを、わたしって言うの」
 「わたし、かいるす?」
 「そうそう」

「本当はボブデランって名前だそうだがな。まあ、それはいい。どうだろうか?ということだが、嫌ならお断りしてもいいからな」

 アンセムはまだ婚約者を積極的には、決めたくない気持ちが滲み出ている。

「眼鏡の方よね?賢そうな。ガーデンパーティーでお話したわ」

 エクルは何人かの令息から声を掛けられ、とても緊張したが、顔を合わせる目的だったのかと察した。自慢ばかり、上から下まで舐めるように見る者もいたが、テイラー公爵令息は挨拶をして、話もしたが、悪い感情はない。

「そうか、実際賢いらしく、人柄もいいそうだ」

 「わたし、うまれてよねんたつんだって」
 「お母様が産んだのよ」
 「わたし、しってる」

「私、そこまで賢くないのですけど、大丈夫でしょうか」
「エクルは十分賢いと思うぞ?」
「そうですか…話が合うかしら」

 「わたし、おめでとうなのよって、おしえてもらったの。だからね、わたし、ほしいものがあるのよ」
 「何が欲しいの?」
 「あのね、へへへ、なんだとおもう?」
 「もったいぶるわね」
 「あのね、ふふふ」
 「何?」
 「えーっとね、かなえてくれる?」

 カイルスはもじもじしながら、ソアリスを一心に見つめていたが、別の話をしていたはずの辛抱堪らなくなったアンセムとエクルが、グイっと身を乗り出して来た。

「カイルス、何が欲しいんだい?お父様に言いなさい」
「そうよ、カイルス、お姉様でもいいわ」
「あれ?あなたたち縁談の話は?」
「カイルスの欲しい物が気になって、さすがに集中出来ないわよ」
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