私のバラ色ではない人生

野村にれ

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エクルの婚約

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「で、カイルス、何が欲しいんだい?」
「あのね、わたし、おかあさまとけっこんするの」

 アンセムもエクルもついに来るべき日が来てしまったと思った。しかも誕生日に欲しいなどと言うところが、あざとい。

「はい?」
「だから、わたし、おかあさまとすえながくくらすのよ」
「それでけっこん?」
「そうよ、ずっといっちょにいるには、けっこんするのがいちばんよ」
「誰に言われたの?」

 アンセムとエクルも思った、吹き込んだ犯人がいるはずだ。家族がそんなことを言ったとは思えない。

「おじさん」
「おじさん?どこのおじさん?」
「わかんない」
「分からないおじさんの言ったことを信じたの?」
「ちがうのよ、ゆりうすおにいさまといっしょにいる、おんなのひとと、あるいていたおじさん」
「誰?」
「もしかして、ルルエ様のお父様?」
「トエル侯爵か」

 ルルエのことをカイルスにも紹介してあるのだが、カイルスはソアリスに関係しない者にあまり興味が持てないので、名前まで覚えていない。

 トエル侯爵なら朗らかにカイルスに言ったのかもしれない。

「カイルス!お母様とカイルスは親子だから、結婚は出来ないわ」

 アンセムとエクルはカイルスを傷付けずに、どう話そうかと考えていたが、その前にソアリスが何の配慮もなく、事実を叩き付けた。

「ちょんな~」
「でも末永く暮らすことは出来るわ」
「本当?」
「ええ、ムキムキになって、お母様をおんぶ出来るようになって頂戴」
「え?」
「介護させる気ね…」

 エクルがぼそりと呟いた。ソアリスがさも当たり前のように、ミランをおんぶしているのを見たことがある。

「うん!なるよ!むきむき?なれば、おんぶして、おかあさまとずっといっちょ?」
「そうよ」
「わたし、がんばる」

 非常に脱線したものの、エクルはボブではなく、ブルックスに会うことになった。

「エクル・グレンバレンでございます」
「ブルックス・テイラーでございます」

 ブルックスは眼鏡を掛け、キリっとした令息であった。親たちは席を外し、二人で話すことになった。ソアリスはボブは来ていないのねと残念そうだった。

「実は、王女殿下が乗馬をされているところを拝見したことがございまして。素敵な方だなと思っておりました」
「はい、乗馬は好んでおります」
「私も剣術や体術は壊滅的なのですが、乗馬だけは趣味でして…ご一緒出来るのではないかと思っております」

 エクルも、アリルもミフルも、剣術も体術も指導を受けている。

「私は剣術も体術も行っているのですが…」
「そうなのですか!やっぱり身のこなしが違いますよね!やはりそうだったか、あっ、すみません」
「いえ、嫌ではないのですか?」
「何が嫌なのでしょうか?」
「女性らしくないというか、令嬢が嗜むと言えば、刺繍や本を読んだりだと聞きまして…本は読みますが、刺繍は苦手で」

 エクルは言われたことはないが、ルルエ様を見て、このような令嬢が好かれるのだろうと思っていた。後から女性らしくなんて言われても困る。

「誰にでも苦手なことはあります。私もそうですから」
「ですが、勉強も得意とは言えないのですが…」
「それなら私もお役に立てるかもしれません!」

 ブルックスはキラキラとした瞳になり、胸に手を当てて任せてくださいと誇らしそうにしており、両親の調べも通った人ではあるだろうが、エクルの目にも好感が持ていると感じた。

「刺繍はさすがにしたことがないので…難しいのですが」
「ふふっ、代わりに刺繍をしてくれる令息を、探す方が難しいかもしれませんね」
「それならいますよ、とても器用な友人が」
「まあ!」
「婚約者もおりますので、もし機会があれば、会ってやってください。自身の母君より上手で、苦々しく思われているそうです」
「ふふっ、そんなに?」

 話も弾み、心地良かったことから、エクルはブルックスと婚約を決めた。アンセムは項垂れていたが、まだミフルがいると気持ちを立て直したはずだったが、ミフルにもお相手がそう遠くない未来にやって来ることになる。
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