私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
41 / 382

不機嫌

しおりを挟む
「コンクレット侯爵夫人に話は聞いた、私の方から抗議と、接触禁止を出しておこう。ユリウスもそれでいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
「今後、同じようなことがあればすぐ言いなさい」
「はい、申し訳ございませんでした」

 ユリウスはパールに困ってはいたが、毅然とした態度で接していた。学園でも周りが近付かない様にしてくれており、終わればすぐに王宮に戻っていたので、二人きりになったことはない。

 ゆえに両親に言うほどではないと思っていたが、まさか乗り込んで来るとは思わなかった。

「で、ソアリスは少しはスッキリしたか?」
「いや、スッキリしないのは、この鼻に付いたあの匂いのせいだな。もう匂わないはずなのに、まだくっせえ」
「確かにコンクレット侯爵夫人にも、匂いが移ったようだったな。臭くてすみませんと言っておった」

 報告に来たコンクレット侯爵夫人は、開口一番にパールの匂いが移って、臭くて申し訳ありませんと言いながら、報告をした。

「臭そうだとは思いましたが、そんなに臭かったんですか」
「ああ、匂いというか、量の問題だろうな」
「瓶ごと掛けたくらいの威力だった」
「うええ…」

 これだけ母にくっせぇを連発させるくらいだと思ったが、瓶ごとは吐き気がする。

「嫁はくっせえ娘は勘弁してくれ」
「はい、勿論です」

 新たに婚約者は香水臭くない者というのが、追加されることになった。

 そして、コンクレット侯爵夫妻のおかげで、後妻と連れ子二人が、伯爵に隠れて、先妻の娘に嫌がらせを受けていることが発覚した。

 暴力はなかったが、些細なことで罰だと言って食事を抜いたり、連れて来たメイドと一緒になって行っていたそうだ。

 あの茶会でのドレスも母親の形見が着たいと言ったと、伯爵には告げていたようで、恥をかかせる魂胆だった。

「分かり易くて助かりましたね、一番厄介なのは隠して行うことです。たかがドレス、されどドレスです」
「はい、伯爵が愚かだったとも言えます」
「それはそうですね」
「伯爵家には相応しくないと、離縁になりそうです。信頼できる親戚や、祖父母にフォローするようにお願いしてあります」
「ありがとう、ご苦労様でした」
「とんでもございません」

 後妻と連れ子二人は子爵家だったが、死別して、夫の弟が継ぐことになった。子爵家に残ったものの、生活の面倒を看て貰っていたにもかかわらず、肩身の狭い思いをしていると感じていた。

 後妻は伯爵に目を付け、身の上を話して聞かせて、同情を買い、まんまと嫁ぐことになり、子爵家での鬱憤を晴らすかのように先妻の娘に当たっていたそうだ。

 後妻と連れ子は後妻の実家である、貧しい男爵家に戻ることになり、パールはユリウスに接近禁止となった。

 香水も乳房丸出しのドレスも、もう買っては貰えないだろう。

「ドレスは、駄目になったか?」
「ええ、さすがに臭過ぎて…息子にもお母様、臭いと…ショックでした。なのでドレス代も請求してやりましたわ」

 メディナも自分の匂いに耐えられなかった。ソアリスのようにくっせぇとは口には出さなかったが、心の中ではずっと思っていた。

「それなら良かった。私も当分、鼻から匂いが取れなかった」
「私もです」
「息子の嫁に臭いのは止めてくれって言っておいた」
「それはいいですね。私も息子が大きくなったら、お願いしようと思います。あれは生活に支障をきたします」

 一番被害を被ったメディナは、頭痛がし、吐き気を催し、気分が悪くなって、寝込んだほどであった。

「あと、あの娘の着ていたようなドレスはどうしたら買えるのだ?メディナはあのようなドレスを勧められたことがあるか?」
「ございません」
「そうだよな、おかしいよな」
「辱めるためであれば、有効かと存じます」
「そうだな、気を配ってくれ」
「承知しました」

 乳房丸出しのドレスには要注意という項目が加わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね

日々埋没。
恋愛
「ロゼッタが余に泣きながらすべてを告白したぞ、貴様に酷いイジメを受けていたとな! 聞くに耐えない悪行とはまさしくああいうことを言うのだろうな!」  公爵令嬢カムシールは隣国の男爵令嬢ロゼッタによる虚偽のイジメ被害証言のせいで、婚約者のルブランテ王太子から強い口調で婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚だったためカムシールは二つ返事で了承し、晴れてルブランテをロゼッタに押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って明らかに〇〇からの〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  真実に気がついていながらもあえてカムシールが黙っていたことで、ルブランテはやがて愚かな男にふさわしい憐れな最期を迎えることになり……。  ※こちらの作品は改稿作であり、元となった作品はアルファポリス様並びに他所のサイトにて別のペンネームで公開しています。

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

処理中です...