私のバラ色ではない人生

野村にれ

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代償

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「う~ん、私は分からないけれど」
「私はどちらも選ばないけれどの間違いでしょう?」
「だって私は愛されてしまったから、それをお返しするだけだわ。あなたも殿下に好きになってもらうように努力すればいいのよ」

 ソアリスは微塵も考えたことがないことだった、さすが愛されている女性は考えが違うなと我が姉ながら思った。

「お姉様は王太子殿下にとても好かれていたのでしょう?」
「ええ、リベルには敵わないけれど、とても愛されていたわ。だから私の代わりに可哀想な殿下を支えてあげて欲しいのよ」
「私には無理ですわ」
「あなたは男性に愛されたことがないものね。私が二人いればいいんだけど」
「ええ、そうですね。お母様も同じことを言っていましたよ」
「私はどうしてなのか、愛されてしまうの。アンセム殿下も優しくて、素敵だったけど、リベルに愛されて運命だと思ったわ。それで、いずれ子どもも生まれて、私は幸せな人生を送るの」
「幸せそうでなりよりです。どのような国同士の取引があったのですか?」

 本来なら王太子の婚約者を奪ったのだから、かなりクロンデール王国に有利な条件を出しているはずだ。

「え?」
「だって王太子殿下の婚約者を奪うのですから、代償があったわけでしょう?」
「私はよく知らないわ」
「え?大丈夫ですか?そこまでして欲したのですから、お姉様はかなり期待されていることになりますよ?」
「大丈夫よ、期待にくらい応えられるわ。ソアリスは努力が足りないのよ」
「何の努力です?」
「今まで通り、私を見てお手本にすればいいでしょう?」

 したことはないのだが、どうしてか、ララシャはずっとそう思い込んでいる。

 そもそも髪の色は同じだが、父に似ている華奢な身体ララシャと、両親に似ているメリハリのある身体のソアリスは、姉妹には見えるが、パッと見は似ていても、よく見ると似ていない。

「最期にお会いできて良かったです。もう会うことはないと思いますが、お元気で」
「そんなこと言うものじゃないわ、王太子妃になれば会うことだってあるはずよ」
「ならず者になったら無理でしょう?」
「それはそうだけど」
「お幸せに」

 ソアリスは姉が憎くはなかったが、酷く気が合わなかった。おかげで物の取り合いにはならなかったが、話をするだけでも疲れる。全てララシャ主導で、ララシャの都合の良い話ばかり、別の話をしても、すぐに自分の話に戻してしまう。

 話していても何一つ面白くない。それがソアリスのとってのララシャだった。

 教師が変わったことでテキパキと王太子妃教育は進み、時折、アンセムとお茶をしたが、何も変わらなかった。結婚すれば、側妃なり愛妾を連れ込んで、上手くやるのだろうくらいにしか思えなかった。

「やはり王太子妃にはなりたくないか?正直に言っていい」

 当たらず触らずお茶会以来、聞いて来なかった質問だった。これが最後のチャンスだと思った。

「はい」
「受け入れてやろうか?」
「よろしいのですか」

 諦めつつあったソアリスの瞳は酷く輝いた。

「ああ、処罰は受けて貰うことになると思うが」
「勿論です、ありがとうございます。賢明なご判断、感謝いたします」
「ララシャのこともあるゆえ、処刑となっても文句は言えぬぞ」
「はい、分かっております」

 死にたくはない、国外追放でもいいから、生き延びたいとは思っているが、王家に楯突く以上、そんなものはとっくに覚悟していた。

 私は王太子妃には向いていない、いつか爆発してしまう。

 だが魂が浮遊し続けると言われている自害をする勇気はなかった。王宮でも公爵邸で監視されているから、これが本当に最期のチャンスだ。
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