上 下
107 / 118

姉2

しおりを挟む
 ユーリはアベリー、キリアム、メルベール、アレクスの命を守ったとも言える。それなのに、どうしてそんな言葉が出るのかが理解が出来ない。

「キリアムが言っていた、生きていなかったというのも本当なの?」
「理解していなかったの?親だもの、産んで終わりなら、私もあなたと話し合いなんてしていないわ。あなたは親として何をした?」

 私も良い親ではなかったことは分かっている、それを言っていいのはユーリだけだ。メルベールに言わせるつもりはない。

「私だってアベリーと話したわ」
「でも途中で諦めたんでしょう?」

 確かに始めは責任を感じていたのか、アベリーと話をしていた。でも何を言っても理解して貰えないと分かって、見ない様にするようになった。

 再び自分のことしか考えない生活に戻り、アベリーを寄宿学校に入れれば、また元通りの生活が出来ると思っていたに違いない。

 シュアト公爵夫人が言っていた、どうやって呼び出そうかと思ったら、あちらから接触して来るとは思わなかった、罠に引っ掛かりに来るようなものなのに、愚かだと気付かないのねと、怒りに満ちていた。

 社交界にメルベールの居場所はない。ユーリがフォローすることで成り立っていた、メルベールの浅はかさは露呈した。

 レイア夫人の話を聞いた時には、怒りで一杯だった。元々、見下すような素振りはあったが、必死で働く姿を見て、ようやく静めることが出来ている。

「それは…」
「キリアムくんもアベリーとは話にならなくて、でも親として出来ることをと思って、ラオン大公家に様子を伺い、ずっと謝罪を続けて、医師に話を聞きに行ったりもしているのよ?」

 キリアムは負担にならない程度に、ラオン大公家に謝罪を続けており、だからこそ寄宿学校のことも問い合わせることが出来たのだ。

 医師はラオン大公家に紹介するようなことはしないが、脳に詳しい医師に話を聞きに行ったり、もし後遺症が出たらどうするべきかなど、相談していた。

「そんなこと一言も…」
「あなたに言っても、仕方ないと思ったんじゃない?聞いたところで、私も一緒にではなく、キリアムくんがしているからいいと、あなたは思ったんじゃない?」

 夫婦なのだからと、自分もしたような気になっていたはずだ。

「そんなことないわ」
「だったら、別のことでもいいわ。何か行おうと思わなかった?あなたも親というなら、しようと思うでしょう?私も定期的にお伺いの文を送っているわよ」
「えっ、お母様も?」
「ええ、当たり前じゃない。どうしてあなたは何もしていないの?」

 メルベールではなく、ユーリならきっと心の籠った手紙も書くことが出来ただろう。いや、ユーリが生きていたら、メルベールに代わり書いてと書かされていた可能性が高いかもしれない。

「それは…」
「そういうところよね、何もしていないことが問題なのよ」

 気配りもだが、謝罪もきちんと出来ない、直接謝ったからもういいと思っていたに違いない。アベリーのためにも、何かしようと思うことすらない。

「自分のことしか考えられないから、何もする気がないのよね?」
「…」
「ユーリはね、アンジュリー様に痛み止めをお持ちしようかと思ったそうよ。でもね、加害者側が持って行っても、信用は出来ないだろうと止めたそうよ」
「何が言いたいの?ユーリは薬師だったんだから」
「分からない?ユーリは一番に、怪我をしたアンジュリー様のことを考えたの。その次はラオン大公家、その次は国。あなたなら考えられた?」
「私だって」
「あなたには無理よ」

 あの日、メルベールがいたとしても、何てことをしてくれたのかと、アベリーやアレクスを責め立てただろう。

 ユーリもメルベールのように、責め立てて、逃げてくれても良かった。でもそれが出来ないようにしてしまったのが、私たちの罪だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank
恋愛
憧れに留めておくべき人だった。 でも、愛してしまった。 結婚3年、理由あって夫であるローガンと別々に出席した夜会で彼と今話題の美しい舞台女優の逢瀬を目撃してしまう。二人の会話と熱い口づけを見て、私の中で何かがガタガタと崩れ落ちるのを感じた。 私達には、まだ子どもはいない。 私は、彼から離れる決意を固める。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...