上 下
79 / 118

答え7

しおりを挟む
「ご迷惑をお掛けしたのかと謝罪なさって、妹ならやるでしょうと仰ったそうです」
「っな、どうしてお兄様に…」
「こうも仰ったそうです。あれは人を見下すことが好きだが、中身が伴っていない、だからそのような真似をすると。義兄上にいつ引き取ってくれと言われるかとずっと思っていると」
「はあ…私は最初から君を見誤っていたんだろうな…情けないことだ」

 マトムはレイアを見ようともせず、下を向いて話し始めた。

「っな、あなた」
「仕事の姿勢を見て、引き取って貰うことも選択肢に入れよう」
「そ、そんな、嘘でしょう」
「嘘であるわけがないだろう!私も確認しなかった罪がある。だが、お前がやっていたのは恐喝で、嫁いじめだ!」
「っな、っな」

 オーランドの次に崩れ落ちたのはレイアとなった。顔を合わせないことが増えていたが、離縁されることは考えてもいなかった。

「お母様、そろそろ話してもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」

 必死で黙っていたメルベールは、きちんと母に許可を取った。

「お義母様は自業自得だと思うわ。それよりもオーランドに言ってやらなきゃ気が済まないわ!ユーリを絶対に幸せにするって言ったじゃない!嘘だったの?」
「…嘘じゃない、大事にしているつもりだった」
「どこがよ!不貞行為って…子どもが出来なかったから?だからしたの?」
「そうじゃない」
「ユーリは子どもが出来なくて苦しんでいたのに!」
「メルベール、ユーリは子どもが出来なくて苦しいと言ったの?」

 サイラは誰にも言うつもりはないが、本当は苦しんでいたのかと不安になった。だが、メルベールの言うことは信用は出来ない。

「言いはしなかったけど、当たり前のことが出来ないんだから、苦しいに決まっているじゃない!子どもの出来た私やお母様には分からない苦しみを抱えていたのよ。だから私は気にしなくていい、子どものいない夫婦なんて沢山いる、子どもがいないからこそ、二人で楽しく暮らしている人もいるって教えてあげていたのよ…それなのに、不貞だなんて!最低よ!」

 サイラはその言葉にユーリが同意しながら聞いていたとは思えない、聞き流していたか、苦笑いをしている姿しか思い浮かばない。ユーリはそうは思わなかっただろうが、自分が持っている人が発言すれば、妬みに代わる可能性もある。

 これは事実ではなく、メルベールが勝手に可哀想なユーリを仕立て上げ、境遇から思い込んでいる話だと感じた。

「悪かったと思っているが、もう謝ることも出来ないんだ…」
「ユーリが許しても私が許さないわ!苦しめたかったの?どうしてよ…」

 不貞に怒っているのは本当だろうが、いい姉を演じているようにしかサイラには見えなかった。

「ユーリにはなるべく辛い思いをしない様に、心穏やかに過ごして欲しかった…好きな仕事をして、楽しい時間を…私はその場所が提供出来ればいいと、そんな風に考えていた。それなのに、結婚したことによって、余計なことも背負わせてしまった。私は間違えていたとしか言いようがない…」

 サイラはオーランドなりに不遇の扱いを受けていたユーリに、落ち着ける環境をとは思ってくれていたのか、だが自分も加担した上で、良い環境ではなかった。

「何よ、それ」

 ユーリが辛い思いをしないように?オーランドが不貞をして苦しめていただけじゃない。こんな男にユーリを任せるんじゃなかった。

「私ではなくキリアムだったら、こんなことにはならなかったのだろうな…ずっとそう思っていたよ」
「どうしてキリアムが出て来るのよ!」
「メルベールが言ったんじゃないか、ユーリはキリアムを好いていると」
「は?」

 思わず声が出たのは、キリアムだった。そんなことを聞いたこともなければ、ユーリからも好意を感じたことはない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ
恋愛
私が暮らすエーネ国は長い間隣国と戦続きだった。 長い戦を勝利に導いたのは一人の騎士。近い将来次期王宮軍騎士隊長になるだろうと噂されていた侯爵家次男のリーストファー副隊長。 この度の戦で右足を負傷し杖無しでは歩く事も出来ないと聞いた。 今私の目の前には陛下の前でも膝を折る事が出来ず凛と立っているリーストファー副隊長。 「お主に褒美を授与する。何が良いか申してみよ」 「では王太子殿下の婚約者を私の妻に賜りたく」 え?私? 褒美ならもっと良い物を…、爵位とか領地とか色々あるわよ? 私に褒美の価値なんてないわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

処理中です...