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答え1
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「ユーリを思って、後悔しましたか?私はそれを問うために戻って来たのです」
サイラが皆の手紙に書いた問い。一番初めに馬鹿にしたように答えたのは、やっぱりアレクスだった。
「はっ!後悔などするものか」
「あなたはそう言うと思っていましたよ、だから出て行ったのですから」
「お前!」
「ユーリを行かせたあなた、止められなかった私、見て見ぬ振りをしたルオン、帰って来ないオーランドくんに、メルベール。私はどうしても問いたかった。キリアムくんと、トスター侯爵夫妻もいらしていただいて良かったです」
サイラは出さなかった三人にも同じ内容を書くべきか悩んだ。アベリーも本当ならば一緒に聞いて欲しかったが、寄宿学校なら仕方ないと諦めるしかなかった。
「私は娘を助けられなかった母親として、ユーリに頼まれたことを行った後で、死のうと思っていました」
「おま、お前、そんなことを…」
「自然な流れでしょう、私はこの邸のユーリの部屋で、一人であの子を看取ったのですよ!まだ年若い、これから未来のあるユーリを…アレクス!あなたに私を縛るものは、もうこの世にはありません!」
アレクスは勿論だが、あまりの気迫に、後追いをキリアムとオーランドは考えなかったわけではない。だが、生きているはずだと思いたかったのだ。
メルベールは考えたこともなく、ショックを受けたが、ルオンはもしかしたらと考えることもあり、生きていて本当に良かったと口には出さなかったが、思っていた。
サイラはユーリを亡くして、繋がっていた糸がプチンと切れたような気持ちになってしまった。残された娘に息子、孫、使用人たち、そして夫。弟、両親、全てなくなってもいいとすら思った。
その時、ようやくこれまで繋げていたのはユーリだったのだと分かった。ユーリにこれ以上、迷惑を掛けるわけにはいかない…だからこそ我慢をしていたのだと、でもそれ以上に我慢を強いたのがユーリだったのだ。
失ってから気付いた、どうしようもない愚かな人間だと自分を責め続けていた。
「ルオンはどう?」
「後悔しているよ、私がもっと強かったらって、何度も思った。死ぬことはなかった、あの日、ユーリ姉様がどんな顔をしていたかすら覚えていない…見ていなかったということだ。見て見ぬ振りをしなければ良かった。取り返しが付かなくなって、気付いても遅かったのに…」
「そうね、あなたは嫌なことが過ぎるのをただ待っていた」
ルオンはユーリが責め立てられていても、庇うこともしなければ、言い返すこともなく、意見を言うこともなかった。
「勝手にどうにかなると思って、目を逸らし続けた。父上にとって、メルベールは可愛い、大事な存在だろう?三人が危険な目に遭っていたら一番に助ける。ユーリ姉様は反対に何をしてもいい存在。そして、私はどうでもいい存在」
「っ、ルオン!お前は」
「あなたは黙って」
サイラは鋭い目つきでアレクスを睨み付けた。後悔していない人間に用はない。ただ、グラーフ伯爵だからここにいるだけで、集まる場所はユーリの亡くなったこの邸でなければならなかった。
「私はそれでもユーリ姉様よりマシだと思って生きていた、馬鹿にしていい人ではないのに、弱さからそう扱ってしまった、後悔しているよ…謝りたい」
「そう、伝わっていて良かったわ」
サイラはルオンが、アレクスから自分を守ろうとしていたことも知っている。だからと言ってユーリに責任転嫁して、蔑むような態度だけは許せなかった。後悔はしているなら、それでいい。
「オーランドくんはどう?」
「はい、後悔しています。ユーリが毒を飲むことに躊躇いがなかったのは、私のせいです」
「え?」「は?」
声を上げたのは何も知らない、メルベールとアレクスだ。レイアは庇おうと口を開こうとしたが、マトムが肩を持ち、首を振って黙らせた。
サイラが皆の手紙に書いた問い。一番初めに馬鹿にしたように答えたのは、やっぱりアレクスだった。
「はっ!後悔などするものか」
「あなたはそう言うと思っていましたよ、だから出て行ったのですから」
「お前!」
「ユーリを行かせたあなた、止められなかった私、見て見ぬ振りをしたルオン、帰って来ないオーランドくんに、メルベール。私はどうしても問いたかった。キリアムくんと、トスター侯爵夫妻もいらしていただいて良かったです」
サイラは出さなかった三人にも同じ内容を書くべきか悩んだ。アベリーも本当ならば一緒に聞いて欲しかったが、寄宿学校なら仕方ないと諦めるしかなかった。
「私は娘を助けられなかった母親として、ユーリに頼まれたことを行った後で、死のうと思っていました」
「おま、お前、そんなことを…」
「自然な流れでしょう、私はこの邸のユーリの部屋で、一人であの子を看取ったのですよ!まだ年若い、これから未来のあるユーリを…アレクス!あなたに私を縛るものは、もうこの世にはありません!」
アレクスは勿論だが、あまりの気迫に、後追いをキリアムとオーランドは考えなかったわけではない。だが、生きているはずだと思いたかったのだ。
メルベールは考えたこともなく、ショックを受けたが、ルオンはもしかしたらと考えることもあり、生きていて本当に良かったと口には出さなかったが、思っていた。
サイラはユーリを亡くして、繋がっていた糸がプチンと切れたような気持ちになってしまった。残された娘に息子、孫、使用人たち、そして夫。弟、両親、全てなくなってもいいとすら思った。
その時、ようやくこれまで繋げていたのはユーリだったのだと分かった。ユーリにこれ以上、迷惑を掛けるわけにはいかない…だからこそ我慢をしていたのだと、でもそれ以上に我慢を強いたのがユーリだったのだ。
失ってから気付いた、どうしようもない愚かな人間だと自分を責め続けていた。
「ルオンはどう?」
「後悔しているよ、私がもっと強かったらって、何度も思った。死ぬことはなかった、あの日、ユーリ姉様がどんな顔をしていたかすら覚えていない…見ていなかったということだ。見て見ぬ振りをしなければ良かった。取り返しが付かなくなって、気付いても遅かったのに…」
「そうね、あなたは嫌なことが過ぎるのをただ待っていた」
ルオンはユーリが責め立てられていても、庇うこともしなければ、言い返すこともなく、意見を言うこともなかった。
「勝手にどうにかなると思って、目を逸らし続けた。父上にとって、メルベールは可愛い、大事な存在だろう?三人が危険な目に遭っていたら一番に助ける。ユーリ姉様は反対に何をしてもいい存在。そして、私はどうでもいい存在」
「っ、ルオン!お前は」
「あなたは黙って」
サイラは鋭い目つきでアレクスを睨み付けた。後悔していない人間に用はない。ただ、グラーフ伯爵だからここにいるだけで、集まる場所はユーリの亡くなったこの邸でなければならなかった。
「私はそれでもユーリ姉様よりマシだと思って生きていた、馬鹿にしていい人ではないのに、弱さからそう扱ってしまった、後悔しているよ…謝りたい」
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「オーランドくんはどう?」
「はい、後悔しています。ユーリが毒を飲むことに躊躇いがなかったのは、私のせいです」
「え?」「は?」
声を上げたのは何も知らない、メルベールとアレクスだ。レイアは庇おうと口を開こうとしたが、マトムが肩を持ち、首を振って黙らせた。
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