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姉と義母
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馬車に乗ったレイアとメルベールはしばらく沈黙していたが、お互いに目の前は真暗だった。味方どころか、完全に嫌われてしまった。
「どうして嘘なんて言ったの!贈りたくないなら、そう言えば良かったじゃない」
「そうではなくて、買いに行く時間がなくて…それでつい」
「ユーリだって忙しかったのに、毎年贈ってくれていたのに」
「それは…あの子は子どもがいないから」
「あなた四六時中、子どもといたっていうの?乳母にほとんど任せていたじゃない。払ってもいないのに、よくも言えたわね」
「…申し訳ございません」
義母だって、誕生日の贈り物を強請っていることを知られていた。皆知っていると言っていた。『今年は靴がいいかしら』なんて私にも言って来ていたが、キリアムにも話して、必ずしも希望した物をあげなかったりもした。
ユーリは馬鹿正直に、言われた物をあげていたのだろう。それを暴露されて、少しざまあみろと思った。
自身の親ならまだしも、義理の親に強請られるのはいい気分ではなかった。しかもユーリのハンカチ一枚よりかはましだが、私も花束や小物で、お金の掛かっていない贈り物しかもらっていないことは、実はずっと不満だった。
「恥を晒しに行っただけじゃない!これからどうすれば…」
「行かなければ良かったですね」
レイアが誘って欲しい文を出していることを知らないメルベールは、向こうから誘われて晒し者にされたと思っている。
「そのために呼んだのでしょうか?」
「陥れるために?」
陥れられたわけではなく、事実を突き付けられただけなのだが、同じ思考となっている二人はわざと貶めたのだと考えている。
「そうではありませんか?どうして、ご存知だったのですか」
「ユーリは言っていないと言っていたけど、話したんじゃない。はあ…強請ったのではなく、教えてあげただけなのに、何てことをしてくれたのかしら、もう弁解もして貰えないじゃない。どうすればいいのよ…」
そう言うとレイアは頭を抱えてしまい、メルベールはその言葉に苛立ったが、自分も同じことを考えたことは、なかったことにしている。
ユーリが今日の方たちと過ごしていたのかは分からないが、ユーリが面白おかしく話すとも思えないもの事実である。
恨むまではいかなくても、私が一緒に購入したことは一切言っていなかったが、誰かから聞いていたのかもしれない。それで気分を害して、そうだったとしてもユーリは言わなかっただろう。せめて言ってくれていたら、お金くらい払ったのに。
参加者は公爵家と侯爵家で、クレア夫人だけが伯爵家だが、実家はバエルン侯爵。社交界を牛耳っている、次代も牛耳っていく存在なのは間違いない。
相手にされないどころか、嫌われてしまったら、トスター侯爵家はますます厳しくなる。今まではメルベールの双子の妹という存在が、ユーリだった。だが、今日の参加者は違う、ユーリの姉がメルベールなのだ。
「この子はユーリよ、双子の妹なの。私にそっくりでしょう?」
「本当、そっくりね」
「ユーリは内気なの、だから皆、優しくしてあげてね」
「メルベールの妹なら当たり前よ」
何もしなくても、勝手に周りがメルベールを持ち上げてくれる。それなのに、今日は何の手応えもなかった。おかしいとしか思えなかった。
メルベールは生まれた時からずっと、自身の方が優位な立場であったために、どう接すれば好感を持って貰えるのか、感覚が分かっていなかった。
自身の都合よく、比較するためのユーリはいない。
残されたのは怪我をさせたアベリーと、強欲な義両親と、見殺しにした父。母とは連絡が取れない、こんなはずではなかったと、気付くのはいつだろうか。
「どうして嘘なんて言ったの!贈りたくないなら、そう言えば良かったじゃない」
「そうではなくて、買いに行く時間がなくて…それでつい」
「ユーリだって忙しかったのに、毎年贈ってくれていたのに」
「それは…あの子は子どもがいないから」
「あなた四六時中、子どもといたっていうの?乳母にほとんど任せていたじゃない。払ってもいないのに、よくも言えたわね」
「…申し訳ございません」
義母だって、誕生日の贈り物を強請っていることを知られていた。皆知っていると言っていた。『今年は靴がいいかしら』なんて私にも言って来ていたが、キリアムにも話して、必ずしも希望した物をあげなかったりもした。
ユーリは馬鹿正直に、言われた物をあげていたのだろう。それを暴露されて、少しざまあみろと思った。
自身の親ならまだしも、義理の親に強請られるのはいい気分ではなかった。しかもユーリのハンカチ一枚よりかはましだが、私も花束や小物で、お金の掛かっていない贈り物しかもらっていないことは、実はずっと不満だった。
「恥を晒しに行っただけじゃない!これからどうすれば…」
「行かなければ良かったですね」
レイアが誘って欲しい文を出していることを知らないメルベールは、向こうから誘われて晒し者にされたと思っている。
「そのために呼んだのでしょうか?」
「陥れるために?」
陥れられたわけではなく、事実を突き付けられただけなのだが、同じ思考となっている二人はわざと貶めたのだと考えている。
「そうではありませんか?どうして、ご存知だったのですか」
「ユーリは言っていないと言っていたけど、話したんじゃない。はあ…強請ったのではなく、教えてあげただけなのに、何てことをしてくれたのかしら、もう弁解もして貰えないじゃない。どうすればいいのよ…」
そう言うとレイアは頭を抱えてしまい、メルベールはその言葉に苛立ったが、自分も同じことを考えたことは、なかったことにしている。
ユーリが今日の方たちと過ごしていたのかは分からないが、ユーリが面白おかしく話すとも思えないもの事実である。
恨むまではいかなくても、私が一緒に購入したことは一切言っていなかったが、誰かから聞いていたのかもしれない。それで気分を害して、そうだったとしてもユーリは言わなかっただろう。せめて言ってくれていたら、お金くらい払ったのに。
参加者は公爵家と侯爵家で、クレア夫人だけが伯爵家だが、実家はバエルン侯爵。社交界を牛耳っている、次代も牛耳っていく存在なのは間違いない。
相手にされないどころか、嫌われてしまったら、トスター侯爵家はますます厳しくなる。今まではメルベールの双子の妹という存在が、ユーリだった。だが、今日の参加者は違う、ユーリの姉がメルベールなのだ。
「この子はユーリよ、双子の妹なの。私にそっくりでしょう?」
「本当、そっくりね」
「ユーリは内気なの、だから皆、優しくしてあげてね」
「メルベールの妹なら当たり前よ」
何もしなくても、勝手に周りがメルベールを持ち上げてくれる。それなのに、今日は何の手応えもなかった。おかしいとしか思えなかった。
メルベールは生まれた時からずっと、自身の方が優位な立場であったために、どう接すれば好感を持って貰えるのか、感覚が分かっていなかった。
自身の都合よく、比較するためのユーリはいない。
残されたのは怪我をさせたアベリーと、強欲な義両親と、見殺しにした父。母とは連絡が取れない、こんなはずではなかったと、気付くのはいつだろうか。
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