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姉夫妻1

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 お父様のせいだけではないのは分かっている。

 アベリーは第一子で、皆が可愛がって育てた。義両親は父のせいだと思っているようだが、二人も強く怒ることはこれまでなかった。私は厳しくしていたつもりだが、キリアムも女の子だからと叱れない様子だった。

 弟たちが生まれると、構ってくれることが減り、自身に目を向けさせるために、さらに我儘になった。あれが欲しいこれが欲しい、あれは嫌これも嫌だと、父はアベリーの言うことを何でも聞くため、逃げ場となった。母は父に逆らえない、だから注意しても、父に泣きつけば終わりである。

 ユーリにも我儘で困っていると何度も愚痴をこぼした…アベリーを庇ったのだろうか、アベリーのために命を差し出したの?私はお礼を言ったらいいの?

 でも大公様は許すとはおっしゃらなかった、事を収めてくれただけに過ぎない。

「お母様は?」
「実家に事情を説明するために出掛けたそうだ」
「そう…ルオンは?」
「別邸にいるだろう」

 父はいつものように仕事を行い、弟もいつも通り見て見ぬ振り、これからこうして何もなかったかのように過ごすのか。

「何も変わらないのね、ユーリがいなくなっても」
「あれは存在感がないから、仕方ないだろう。お前の役に立てたと喜んでいるさ」
「もういいわ…アベリーには反省するまで会わないでね、侯爵夫妻が会わせないと思うけど」
「会うくらいいいじゃないか!」
「…お父様も反省した方がいいわ」

 メルベールは呆然としたまま、そのまま伯爵邸を出た。

 アベリーのことよりも、一番に話すべきことはユーリであるべきなのに、自分からは言わなかった。父は確かに私には優しかった、優しさを利用したこともある。

 だけどユーリはいつも、同じことを言っても怒られて、父の憂さ晴らしに使われているようだった。私がいる時は、ユーリを庇うことが出来たが、私も私の時間があり、ずっと一緒にいるわけではなかった。

 成長しても、ユーリに同じ姿にするようにしていたのは、私と同じであれば、文句が言えないようにするためだった。

 それでも結婚し、目の届くところでありながら、父と離れた場所にいるから、少しは安心していた。

 それなのに、なぜユーリは亡くなってしまったのか。

 大公が指示したのかと思ったが、そうではなかった。そうであったなら、叔母に責任を問うことはしなかっただろう。

 私は一体、これからどうやって、ユーリに償えばいいのだろうか。

 メルベールはユーリのお墓の場所を聞くつもりで向かった。でもあんな父に聞くのは嫌だった。穢れてしまうと思った。

 でも本当はユーリのお墓を目にすることで現実になってしまうのが怖かった。まだ嘘だとどこかで思うことで、心の均衡を保っていた。

 邸に戻ると、キリアムが待っており、メルベールを抱きしめた。

「メルベール…」
「キリアム…お墓の場所、聞けなかったわ…怖くて、お父様にも聞くのも嫌で」
「落ち着いてから、行けばいい。ユーリは待ってくれているさ」
「待っているかしら…」
「待っているに決まっているだろう!」

 キリアムはメルベールがユーリを気に掛け、あたりの強い父から守っていたことは、幼い頃から知っていた。ユーリはメルベールに感謝をしていたとはいえ、なぜ毒を飲んでしまったのかは分からない。

 アベリーを命を懸けるほど、可愛がっていたのか?いや、それならもっと会いに来るだろう。仕事があるのは分かるが、侯爵家に来ることも最近はなくなり、メルベールもアベリーはクレナ伯爵家には連れて行っていなかったという。

 ならば会っていたのは赤子の頃だけだったはずだ。それなのにアベリーを守ったのか。いや、メルベールを守ったのかもしれない。

「オーランド様は?」
「まだ戻っていないらしい…」
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