上 下
17 / 118

旅立ちの後(トスター侯爵家1)

しおりを挟む
 ユーリの葬儀の翌日になっても、結局オーランドもキリアムもメルベールも帰っては来なかった。サイラが送ったのは一通だけだが、トスター侯爵家からは泊っているはずのホテルに何通も送られている。

 オーランドの方は王家にしか分からないため、どうなっているのか分からない。問い合わせたが、移動したようで、連絡が取れていないという。

「オーランドは仕方ないとしても、キリアムはどうして戻らないのよ!」
「予定だったから、延ばしたのか?だが、返事をすべきだろう」
「大公様に謝罪もしなくてはならないのに。アベリーはどうするつもり?」
「再教育と言いたいところだが、ストレ王国との関係性を考えると、修道院に入れる十二まで、領地で面倒を看るしかないだろうな」

 ウェーブ王国の修道院は十二歳からしか入ることは出来ない。アベリーはこのまま貴族社会にいても、一生怪我をさせた事実が付き纏う。

「反省をしていないから、謝らせるにも余計なことを言い出したらと思うと…」
「ああ、それこそ問題になる」

 ストレ王国とは表向きは友好的ではあるが、過去には戦争を行っていた時代もあり、現在はストレ王国の方が世界で見れば裕福で、発展している国と言える。

 国王陛下からも国の問題になっていない時点で動くことは出来ないと、それ以上言って来ることはなかったが、それが逆に恐ろしいとも言える。

「グラーフ伯爵家に養女には出せないわよね…」
「責任を逃れだと思われるだろう」

 一番甘やかしていたのはアレクスであるが、多くの時間を過ごし、接して来たのは両親や祖父母の方なのに、あの場にいた保護者として、責任をどうにかアレクスに押し付けられないかと考えていた。

「ユーリはシュアト公爵夫人と親しかったのだな、早く言ってくれれば。色々便宜を図って貰えただろうに」
「ええ、驚きましたわね」
「まあ、これからでも力になってくれるといいんだが」
「ええ、仲介役をあちらから申し出てくれると一番いいのだけど」
「ユーリの娘ならいいが、そうではないからな」

 二人はユーリの死を引きずることも、悲しむこともなく、これからどうするかで頭がいっぱいの状態である。

 そして、ようやくキリアムとメルベールが滞在しているはずのホテルから、何通かの文が滞在される予定はキャンセルになったため、お渡しできなかったと戻って来た。文は勿論、開封されていない。

 配達もホテルに届けて、ホテル側にサインをして貰い、ホテル側から届けるシステムであるため、受け取った後でキリアムとメルベールの滞在がキャンセルになり、その後も何通か届いたので、まとめて送り返してきたようだ。

 キリアムとメルベールは、移動でホテルを経由しながら、最終的に領地の文を出したホテルに滞在する予定となっていた。あの日にはホテルにいるはずで、そのホテルにサイラもトスター侯爵家も早文を出し続けていたのだ。

「一体どこにいるの?」
「何をやっておるのだ!」
「別のホテルに泊まったんでしょうね、全てのホテルに出すべきだったかしら…」

 領地のホテルはいくつかあり、二人は文を出していたホテルに滞在すると聞いていた。だが、今さら出したところですぐに届くわけではない。

「さすがに戻って来ているでしょうから、待つしかないわね」
「はあ、オーランドの方が早いかもしれんな」

 そう話していた翌々日、やっとキリアムとメルベールが帰って来た。

「予定より遅くなって申し訳ありません」
「色々見て回っていたら、二人で楽しくなってしまって」
「メルベールはそろそろ誕生日でしたから、ちょっと贅沢を」
「皆にもお土産がありますよ」

 何も知らない二人は、使用人にもにこにこと話していたが、相応しくないことを発していることにも気付けるはずもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

処理中です...