上 下
14 / 118

何も知らなかった義母

しおりを挟む
「葬儀は明日ですか」
「はい、明日行います」
「では、ご指示いただければ、準備いたします」
「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」

 サイラはアレクスの言いなりの使用人よりも、大公様の使用人に指示を出し、この家よりも教会の方がいいだろうと、教会に知らせて、ユーリを運ぶことにした。

 アレクスは呆然と立ち尽くしており、アベリーはまだ眠っているようだ。ルオンは別邸から出て来ることもなく、極力火の粉が掛からないように関わらないでいようと、夫と同じように思っているのだろう。

 グラーフ伯爵家がバタバタと騒がしい様子に、ついにトスター侯爵夫人・レイアがやって来た。アレクスは気付いたようだが、目を逸らしている。

「ユーリが亡くなったの」
「えっ、どうして…」

 後ろで付いて来た使用人も息をのんで、驚いている。

「昨日、夫が連れて行った茶会で、アベリーがストレ王国のラオン大公家のお孫さんに、ぬいぐるみを奪おうとして怪我させ、一時は意識不明だったの。今は目を覚まされたようだけど」
「っな、どうしてこちらに知らせてくれないの!」
「私はユーリに付き添っていたから、夫にアベリーを連れて侯爵邸に行くように言ってあったのだけど…」

 行っていないのねという顔でアレクスを見ると、真っ青な顔をしており、ようやく傲慢な態度で乗り切れることはないと実感しただろう。

「グラーフ伯爵っ!!」
「もっ、申し訳ございません!」

 身体を半分に折り曲げて謝罪しているが、どうにかなると思っていたくせに、今さら謝っても遅い、本当に腹立たしい。

「それでユーリがどうして亡くなったの?」
「夫がユーリに慰謝料を持って、謝罪に行くように言って」
「なぜユーリが行く必要があるのです!」
「ええ、こういう時だけ、双子だからお前の責任でもある、代わりに行くべきだと言って、そこで責任を取るためにユーリは、自分で作った毒を、飲んで…っ…それで、今朝、息を引き取ったの」
「グラーフ伯爵っ!どうして教えてくれなかったの!ユーリも私の義娘ですよ!」
「申し訳ございません…」

 アレクスは同じ姿勢で、引き続き謝っているが、こうなることが分からなかったのか。いくら親しくとも、トスター家は侯爵家である。

「先程、大公様が確認にいらして、ユーリもここでは落ち着かないだろうから、今、教会に知らせたところで、教会に運ぼうと思っているの」
「そう、侯爵家も手伝うわ。それで、アベリーは?」
「まだ寝ていると思うわ。反省もしていない。キリアムくんとメルベールには早文をだしてあるわ」
「アベリーは反省している!」

 アレクスは叫んだが、反省しているどころか、何が悪いかすら分かっていない。

「いいえ、頂戴と言ってもくれなかった、私にくれてもいいじゃない、ケチだと言っていました」
「…アベリーは、アベリーのことは後ね、私たちも謝罪に伺わなくてはなりません」

 レイア夫人も我儘なんだからと言いながら、アベリーを可愛がっていた。だが、まさか怪我をさせるなんて、よりにもよって大公家の孫なんて。オーランドに言って、どうにか王太子殿下から口添えをして貰わなくてはならない。

「オーランドは?」
「機密で居場所が分からないから、知らせようがないの」
「分かったわ、王家には私から伝えます」

 王家に知らせれば、自ずと王太子殿下と一緒にいるはずだから、力になってくれるはずだ。オーランドが側近で良かった。

「お願いします。でも…恋人のところにいらっしゃるのかもしれないわ」
「コイビト!?」
「妊娠されているそうよ。心配だからついてらっしゃるんじゃない?」
「…そんな」
「ゆっくり話をしている暇はあまりないの。私も相手は知らないから、そちらで勝手に調べて頂戴」

 レイア夫人は呆然としていたが、サイラの言うことも最もだと思った。いつもはアレクスの陰に隠れて微笑んでいるばかりだったが、今日は別人のようだ。

「侯爵家と、クレナ伯爵家からも使用人を寄こすから使って頂戴」
「ありがとうございます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...