上 下
9 / 118

私の決めた謝罪

しおりを挟む
「何かあったの?」
「アベリーがお父様が勝手に連れだした茶会で、大公家のお孫さんを怪我させたの…具合が心配だわ」
「はあ?何てことしてくれたんだよ!茶会なんかに連れて行くからだろ。こっちまで責任取れとかないよな?侯爵家の問題だろう?」

 連れて行ったのは間違いなくグラーフ伯爵の責任となる、父親が正しいとは思っていないが、血筋なのか傲慢なところが非常に似ている。

「あなたも自分のことしか考えていないのね」
「当たり前だろ」
「ユーリが謝罪に行くことになったの。何も関係ないのに」
「いいじゃないか、役立たずが役に立てるのだから」
「いい加減になさい!何か役立たずですか!あなた薬師になれるような頭脳があるの?ないでしょう!馬鹿言わないで!」

 いつもルオンに対して、怒ったりはおろか、大きな声を出すこともない母・サイラの剣幕に驚いた。

「どうしたんだよ、母上だっていつも面倒そうにしかめっ面してたじゃないか」
「あれは不甲斐ない自分を嫌悪していたの!」
「そんなはず…」
「実力の世界だったらあなたは淘汰される存在よ!覚えておきなさい!」

 ユーリが戻ると、母が待ち構えており、先触れの返事も来ており、父・アレクスの用意したお金を持って、馬車に乗り込んだ。アレクスもルオンも、見て見ぬ振りをして、出て来ることもない。

「ユーリ、ごめんなさい…侯爵家には知らせていないけど、さっきキリアムくんとメルベールには早文を出したわ」
「私が戻ったら侯爵家に知らせましょう。アベリーは侯爵家の孫なんだから」
「そうね、あちらも責任を取ることになるものね。ユーリ、本当に大丈夫?やっぱり私が」
「大丈夫です、お母様。私は私の責任を取って来ます」

 久しぶりに見た気のするユーリの力強い笑顔であったが、サイラは酷くその笑顔に不安に駆られた。

 ユーリはホテルに向かい、スタッフに部屋に通されると、一礼してから、脇目も振らずに、すぐさま深く深く土下座をした。

「ユーリ・クレナと申します。姪、アベリーが怪我をさせてしまい、大変申し訳ございませんでした。お嬢様の容態はいかがでしょうか」
「姪!?」
「申し訳ございません、現在、姪の両親は領地に行っており、早文は出しましたが、すぐには戻って来れません」
「それで伯母が来たというのか」
「はい、父、いえ先程の一緒におりました祖父にお前が行って来いと、職場から連れ出されまして」

 ユーリは父に言われたように、取り繕うつもりは一切なかった。卑怯で裏切りであろうが、ここで現状を全て暴露するつもりだった。

「グラーフ伯爵だったな」
「はい、姪と一緒にいたのはアレクス・グラーフ伯爵です。お嬢様はどのようなご様子でしょうか」
「一度は目覚めたが、頭が痛いと言って、寝ておる」
「大変、申し訳ございません!」

 一度目覚めたとしても、後遺症がないとは言い切れない。頭部は特に何が起こるか分からない。

「あの娘の教育はどうなっている!」
「申し訳ございません、アレクス・グラーフが甘やかしたせいで、姉から聞く限りではありますが、家庭教師にも匙を投げられている様子で、本日はアレクス・グラーフが世話を任されていたのですが、連れだしたのです」
「連れ出した?」
「はい、姪はトスター侯爵家の嫡男夫妻の娘です」
「侯爵はどうした!」
「はい、知らせようとしたのですが、アレクス・グラーフが知らせるのは謝罪してからだと、私は父には逆らえませんので、謝罪してから報告をするつもりでした」
「あなたの家はどうなっているの?自分が連れ出したのに、母親でもない娘に行かせるなんて、尋常じゃないわ!」

 大公妃様が甲高い声を張り上げたが、私もまともだと思って話してはいない。

「その通りです。母は私が行くと言ったのですが、父は私を指名しましたから、謝罪に参った次第でございます。大変、申し訳ございませんでした」
「あなたはいつもそのような役回りをしているの?」
「はい、私は姉のために役立たねばならない存在なのです…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ
恋愛
私が暮らすエーネ国は長い間隣国と戦続きだった。 長い戦を勝利に導いたのは一人の騎士。近い将来次期王宮軍騎士隊長になるだろうと噂されていた侯爵家次男のリーストファー副隊長。 この度の戦で右足を負傷し杖無しでは歩く事も出来ないと聞いた。 今私の目の前には陛下の前でも膝を折る事が出来ず凛と立っているリーストファー副隊長。 「お主に褒美を授与する。何が良いか申してみよ」 「では王太子殿下の婚約者を私の妻に賜りたく」 え?私? 褒美ならもっと良い物を…、爵位とか領地とか色々あるわよ? 私に褒美の価値なんてないわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...