【完結】似て非なる双子の結婚

姉の妊娠と出産

　ユーリは働きに出て、邸に帰るという規則正しい日々を送り、結婚して八ヶ月が過ぎる頃、メルベールが妊娠をした。

「双子だったらどうしよう」
「双方に先輩がいるじゃない」
「そうだったわね！双子じゃなくても、ユーリが産んだら双子のようなものよね！本当に嬉しい！ユーリも早く出来たらいいのに」
「体には気を付けてね」
「分かってるわ、動けなくなったら遊びに来てね」
「分かったわ」

　愛した人に愛されて宿した子どもは可愛いだろう。

　ユーリは両家が集まる、メルベールの妊娠の祝いの席で、久しぶりに両親と顔を合わせた。皆の前では変わりなかったが、父がちょっと来いと連れ出すと、察した母も慌てて付いて来た。

「メルベールが妊娠したのに、お前にはなぜ出来ないんだ！」
「あなた、双子だからってメルベールが妊娠したから、ユーリもするわけではないのですよ」
「そのくらいは分かっておるわ。だがメルベールに出来て、ユーリには出来ない。石女を嫁がせたと思われるだろうが」
「あなた！」
「お前が仕事なんてしたいと言うからではないのか！早く辞めろと言っただろう！」

　父はいまだに働きに出ることをよく思っていないようで、何か理由を付けて、文句を言いたいのだ。

「働いていなくても、出来ないものは出来ませんよ」
「ふん！オーランドくんも可哀想なものだな、ハズレを引いたようなものだろう」
「あなた！いい加減にしてください」

　今日はオーランドは遠征で不在で、だから父は食って掛かることが出来る。侯爵家の人々には絶対見せない顔である。

「そうですね、彼にはもっといい縁談があったでしょう」
「はっ、さすがにお前も自覚があったのか」
「ユーリも相手にしなくていいの！」

　きっと母は邸でも父の小言を聞いていたのだろう、だから言うことは分かっていたからこそ、付いて来たのだろう。

「でもハズレを差し出したのは、お父様ではありませんか」
「っな、お前がメルベールと違って良い相手を見付けられなかったからだろう！」
「駄目だと言ったのはお父様でしょう」
「うるさい！お前はさっさと子どもを作ればいいんだ！石女の親だと思われたくない、私のために孫を作れ、何も出来ない、お前にもそのくらいするべきだろう！お前は孫を産むための道具だからな」
「あなた！言っていいことと悪いことがあります」

　私とメルベールと逆だったら絶対に言わないことなのは分かっている。むしろ、逆でなくて良かった、なぜお前が妊娠したのだと言われるに決まっている。私だから言っていい、父の思考はそうなっている。

「申し訳ありません、ですがこればかりはどうにもなりません」
「役立たずは結婚しても役立たずだな」

　メルベールは女の子を出産した。ユーリとオーランドも珍しく二人で祝いに行き、アベリーと名付けられた姪を優しく抱き、オーランドも壊れないようにそっと抱き、その姿にメルベールとキリアムは嬉しそうに微笑んだ。

　互いの両親も初孫に喜んだ。父はメルベールに似ていると大層喜び、可愛がることだけに全力を注ぐようになり、甘やかし過ぎているようだ。

　だが、その一方でユーリへの父の催促はますます酷くなり、母や弟がいない時を狙って、呼び付けては罵詈雑言を浴びせるようになっていった。

「なぜ子どもが出来ない、この役立たず！」
「私に孫を抱かせることも出来んのか！」
「お前など、あの男爵の小僧に嫁がせればよかった！そこで石女だといじめられれば良かったんだ」

　オーランドからは子どもはどちらでもいい、後継が必要だとも言われてもいない。父は勝手に自分の描いた筋書きに沿わせようという名目で、ユーリを鬱憤の捌け口にしているのだ。

　もう心は壊れてもいいのではないか、愚かな私は考えてしまうのだ。