悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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子爵夫妻3

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「まだどうなるかは分からないが、大丈夫か?」
「はい、私たち家族は覚悟しています。していないのは、両親とシャーリンだけでしょう」

 ベリックは妻にも子どもたちにも、シャーリンの娘であるアイリとマイリにも全て話し、覚悟をして置くように伝えていた。

「分かった。何もなければ出産後、働けるようになったら、すぐに監視、寮付きの仕事を紹介しよう。だが、子どもは養子に出すのか?」
「はい、そのつもりです。シャーリンには育てられないでしょう」
「相手は男娼だと聞いているが、事実か?」

 バトワスはジェフから、おそらく男娼の子だと聞いていた。貴族令息もいたようだが、貴族令息は見た目のいい夫人しか相手にしなかったようだ。

「そのようです」
「そうか、では出産したら教えてくれ」
「はい、よろしくお願いいたします」

 オイスラッドはようやく、レオラッド大公閣下に処罰を書いて、手紙を出した。

 数日後、レオラッド大公閣下から手紙が届いた。そこにはシャーリン・ガルッツは妊娠中とお金がないことは分かったが、せめて半分はご両親が支払うべきではないかということが書かれていた。

 オイスラッドは現時点で1ジェルも支払っていないガルッツ子爵家に、驚くことはなく、カッシャー・ガルッツとマレーラ・ガルッツを呼び出すことにした。

「どういうことだ…」
「どうしたの?」
「陛下から呼出状だ」
「どうして?」
「分からないが…シャーリンのことではないだろうか」
「シャーリンが支払うとなったはずでしょう」

 決めるのはベリックではないと言ったはずだが、カッシャーもマレーラも終わったことだと思っていた。

 孫たちには優しい祖父母で、穏やかを好む夫妻ではあるが、裏を返せば頼りなく、責任を取りたくないことは、当時と何も変わっていなかった。

 嫌な予感しかしないが、行かないことは出来ないために、カッシャーとマレーラは王宮に向かった。

「国王陛下にご挨拶申し上げます」
「国王陛下にご挨拶申し上げます」
「ああ、座りなさい」

 二人はそれぞれ離れた椅子を用意されて、そこへ座った。

「レオラッド大公閣下から、シャーリン・ガルッツは妊娠中とお金がないことは分かったが、せめて半分はご両親が支払うべきではないかと返答があった。確かにガルッツ子爵家はまだ1ジェルも払っていない」
「それは…」
「それは?」
「あの…」

 お金の面はあるだろうが、ジェフとシャーリンは当事者である。その親がどうして渋るのか、理解が出来ない。

「はあ…当時、払うべきだったのは夫妻ではないか?違うか?」
「それは、そうだと思います」
「ならば、親である責任を果たせ。足りないのならば、王家からお金を貸し、仕事を紹介しよう」

 二人はまだ50代後半で、働けない身体ではない。

 カッシャーには承諾する以外、答えはないのだが、どうすればいいのかと頭を悩ませていた。その様子を見ていたマレーラは、500万ジェルを支払わなければいけないのかと、動揺していた。

「あなた…」

 マレーラはカッシャーを助けようと声を掛けたのではなく、どうするのかという意味で呼んだが、カッシャーには届いていないようであった。

「夫人はどうだ?」
「私たちはもう、年で…お金も余裕がないんです」
「ならば、どうして、当時、支払わなかった?何も言われなければ、それいいと思っていたということか?」
「あっ、それは、あの、そういうことでは」
「では、どういうことか説明してくれ」

 息子とは違って、オイスラッドはもごもごと言って、誤魔化すことはさせてはくれない。

「…あの、フォンターナ伯爵家は、お金には困ってらっしゃらなかったはずです」
「何を言っている?」
「マレーラ!」

 カッシャーも陛下の問い掛けにようやく気付き、そのことはベリックに叱られただろうと声を上げたが、既に遅かった。
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