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帰国
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「お待ちください!」
「お前たち何をしている!」
バトワスは小走りでやって来たアマリリス第一王女、ライラック第三王女、マグノリア第四王女を怒鳴り付けた。
「だってお父様」
「戻れ!」
「お見送りくらいいじゃない」
「いい加減にしなさい!連れて行け」
王女たちは大公閣下たちに近付かせる前で制止し、少しくらいいじゃないと、ギャアギャア騒いでいたが、護衛やメイドに捕まえられて、去って行った。
「きちんと教育された方がよろしいですね」
「大変、申し訳ございません」
表情は冷えたままだが、声も冷えており、バトワスは頭を下げて謝罪した。
「そう言えば、カメリア第二王女を騙した男。殺されたそうですよ?」
バトワスの耳元で、バトワスにしか聞こえないような声で、メイリクスは伝えた。
「っ」
バトワスは結局、カメリアの相手を見付けることは出来ないままであった。
「パスドアーツ公爵家のディランとは知り合いでしてね。騙した男は貴族の庶子ということだったが、どこの国かも分からない。おそらく平民だろうということでした」
バトワスは、やはり貴族ですらなかったのだと思った。
「他の国でも同じようなことをしておりまして、刺されて死にました」
「いつ…ですか?」
どこまで知られているか分からないが、取り繕っても仕方ないと腹を括ったバトワスは、訊ねることにした。
「確か、半年くらい前でしたかね?」
「そうですか…」
「カメリア第二王女も、始めは本物だとすら思っていなかったようですよ」
「っ」
その言葉で、詳しく知っているのだと実感した。
「他国の王女など、見たことがあるわけでもないですからね。まあ、彼にとってはどちらでも良かったのでしょう」
「それはどういう意味でしょうか?」
平民が公爵令息だと偽り、一国の王女を騙して、妊娠までさせて、どうなるかもわからなかったというのかと、怒りが込み上げて来た。
「破滅志願者だったようです」
「破滅、志願者…?」
バトワスは初めて聞く言葉であった。
「自分の人生なんてどうなってもいいと思っていたのですよ。そうでもないとパスドアーツ公爵令息などと偽るなんて、死にたいのかと思われても仕方ないですからね」
「…」
バトワスは驚きの事実でもあったが、パスドアーツ公爵家がそのような恐ろしい家だったことを知らなかった。あれから、連絡がないと思っていたが、急かすような真似をしなくて良かった。
いや、もしかしたら公爵令息などと偽る者を破滅志願者と、判断したということなのかもしれないと感じてもいた。
刺されたと言うのも、もしかしたら…。いや、亡くなったのなら、今更どうすることも出来ない、考えても仕方ない。
「父上、帰りますよ!」
「ああ、では」
メイリクスはエノンに声を掛けられて、そのまま颯爽と去って行った。
バトワスは今にも座り込みそうになりながら、何とか立ったまま二人を見送った。
「バトワス、何かあったのか?」
「場所を変えてお話しします」
そして、応接室に移動し、オイスラッドにカメリアの相手のことを教えられたことを話した。
「殺されたのか…?」
「名前も聞けませんでしたが、大公閣下が嘘を付く必要がありません。パスドアーツ公爵家からも、報告はありませんでした」
「連絡はしていないのだろう?」
「はい」
半年前に殺されたと聞き、大公閣下よりも、パスドアーツ公爵はどうして教えてくれなかったのかと一瞬思ってしまったが、考えは打ち消した。
「ならば、もう終わりにすればいい。どこの誰か分かったところで、亡くなっているのなら、どうにもならない」
「そうですね…私も、フォンターナ嬢の罰を受けますので、与えてください」
バトワスはエルム・フォンターナの件で、罰を受けるべき一人だときちんと理解していた。
「お前たち何をしている!」
バトワスは小走りでやって来たアマリリス第一王女、ライラック第三王女、マグノリア第四王女を怒鳴り付けた。
「だってお父様」
「戻れ!」
「お見送りくらいいじゃない」
「いい加減にしなさい!連れて行け」
王女たちは大公閣下たちに近付かせる前で制止し、少しくらいいじゃないと、ギャアギャア騒いでいたが、護衛やメイドに捕まえられて、去って行った。
「きちんと教育された方がよろしいですね」
「大変、申し訳ございません」
表情は冷えたままだが、声も冷えており、バトワスは頭を下げて謝罪した。
「そう言えば、カメリア第二王女を騙した男。殺されたそうですよ?」
バトワスの耳元で、バトワスにしか聞こえないような声で、メイリクスは伝えた。
「っ」
バトワスは結局、カメリアの相手を見付けることは出来ないままであった。
「パスドアーツ公爵家のディランとは知り合いでしてね。騙した男は貴族の庶子ということだったが、どこの国かも分からない。おそらく平民だろうということでした」
バトワスは、やはり貴族ですらなかったのだと思った。
「他の国でも同じようなことをしておりまして、刺されて死にました」
「いつ…ですか?」
どこまで知られているか分からないが、取り繕っても仕方ないと腹を括ったバトワスは、訊ねることにした。
「確か、半年くらい前でしたかね?」
「そうですか…」
「カメリア第二王女も、始めは本物だとすら思っていなかったようですよ」
「っ」
その言葉で、詳しく知っているのだと実感した。
「他国の王女など、見たことがあるわけでもないですからね。まあ、彼にとってはどちらでも良かったのでしょう」
「それはどういう意味でしょうか?」
平民が公爵令息だと偽り、一国の王女を騙して、妊娠までさせて、どうなるかもわからなかったというのかと、怒りが込み上げて来た。
「破滅志願者だったようです」
「破滅、志願者…?」
バトワスは初めて聞く言葉であった。
「自分の人生なんてどうなってもいいと思っていたのですよ。そうでもないとパスドアーツ公爵令息などと偽るなんて、死にたいのかと思われても仕方ないですからね」
「…」
バトワスは驚きの事実でもあったが、パスドアーツ公爵家がそのような恐ろしい家だったことを知らなかった。あれから、連絡がないと思っていたが、急かすような真似をしなくて良かった。
いや、もしかしたら公爵令息などと偽る者を破滅志願者と、判断したということなのかもしれないと感じてもいた。
刺されたと言うのも、もしかしたら…。いや、亡くなったのなら、今更どうすることも出来ない、考えても仕方ない。
「父上、帰りますよ!」
「ああ、では」
メイリクスはエノンに声を掛けられて、そのまま颯爽と去って行った。
バトワスは今にも座り込みそうになりながら、何とか立ったまま二人を見送った。
「バトワス、何かあったのか?」
「場所を変えてお話しします」
そして、応接室に移動し、オイスラッドにカメリアの相手のことを教えられたことを話した。
「殺されたのか…?」
「名前も聞けませんでしたが、大公閣下が嘘を付く必要がありません。パスドアーツ公爵家からも、報告はありませんでした」
「連絡はしていないのだろう?」
「はい」
半年前に殺されたと聞き、大公閣下よりも、パスドアーツ公爵はどうして教えてくれなかったのかと一瞬思ってしまったが、考えは打ち消した。
「ならば、もう終わりにすればいい。どこの誰か分かったところで、亡くなっているのなら、どうにもならない」
「そうですね…私も、フォンターナ嬢の罰を受けますので、与えてください」
バトワスはエルム・フォンターナの件で、罰を受けるべき一人だときちんと理解していた。
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