悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
91 / 124

交渉準備

しおりを挟む
 オイスラッドは万全の体調にするために、ギリギリまで休むことになり、宰相を呼んで、準備をするように伝えた。

 バトワスにもオルタナ王国から使者が来ることを告げ、誰が来られるか分からないが、前科のある孫たちには絶対に迷惑を掛けないように告げた。

「はい、きちんと言って聞かせて、見張らせます。これが上手くいけば輸入が出来るのですよね」
「あちらのお考えにもよるが…交渉が出来るかもしれない。だから、分かっているな?」
「母上は…」
「王妃は部屋から出ないように告げる」
「はい」

 オイスラッドはシンバリアを呼んで、使者が送られることになったこと、日程はまだ決まっていないが、その日は姿を見せないように伝えた。

「はい、分かりました…」

 シンバリアには、もう言うことを聞くしか選択肢はなかった。

 だが、オルタナ王国からは、国王と王妃、王太子に同席して貰いたいとのことであった。オイスラッドは、バトワスはともかく、シンバリアを同席させるつもりはなかったが、要望としては受け入れるしかない。

 カイニー王国のことで、シンバリアにも話を聞きたいのかもしれない。

「不本意だが、君も同席して欲しいとのことだ」
「ですが」
「おそらく、君にもどういうつもりだったのかと、話を聞きたいということだろう。反省していると、きちんと伝えることは出来るか?」
「はい、出来ます」
「本当か?万が一のことがあれば、薬が輸入が出来ない原因を公表する」
「そんな…」

 オイスラッドはここまで言えば、さすがに愚かな真似はしないだろうと思ってのことだった。

 シンバリアもそんなことになれば、折角元気になった母親を悲しませることになり、責任を感じることになってしまうと、気を引き締めた。

「きちんと反省したことを証明します」
「必ずそうしてくれ」
「はい、申し訳ございませんでした」

 ようやく、謝罪をしたことで、オイスラッドも信じるしかなかった。

 そして、オルタナ王国から使者は王弟であるレオラッド大公と、その子息がやって来ることになった。大臣か医師が来るかと思っていたオイスラッドは、大物の登場に驚いた。

 大臣や医師であっても、誠意を持って対応しようと思っていたが、王族同士の交渉と思うようにということだろうと察した。

 バトワスとシンバリアを呼び、話をすることにした。

「大公閣下とご子息が来られることになった」
「大公閣下ということは、王弟殿下ですか?」
「そうだ、気を引き締めて望むように」
「どのような方なのですか?」
「ああ…お優しい方ではないそうだ」
「え…」

 シンバリアは王族ならば、私の気持ちも察してくれるのではないかと考えていた。

「何だ?」
「いえ」
「とても合理的なことがお好きで、容赦ないという話だ」

 外交担当から王を支える立場であるために、会ったことはおろか、お見掛けしたこともないが、美しい容姿ではあるが、表情をほとんど変えずに、合理的に容赦なく事を進めると聞いたことがあると聞かされたのである。

「それは…」
「ああ、話通りのお方なら、情に訴えることは難しいということだろうな。民のためにという点で願い出るつもりだ。だから、シンバリアのしたことを、きちんと間違っていたということを示さなくてはならない。出来るか?」
「は、い」
「しっかり務めてくれ。あとは、良いことと言えば、愛妻家だということらしい」

 外交担当に何か上手くいきそうな話はないのかと問うと、愛妻家ということを伝えられた。奥方を何よりも大事にされているとのことである。

「愛妻家?」
「ああ、恋愛結婚だということだ」
「ですが、私は離縁しております」
「それでも、恋愛結婚のことは悪く思っていないかもしれない」
「それは、そうかもしれませんね」

 規制も緩和され始めたので、検査を受け、陰性であればそのまま大公と子息はアジェル王国に入国する日になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

処理中です...