87 / 124
輸入
しおりを挟む
「条件を破ったのは、君だろう…何てことをしてくれたんだ」
「じゃあ、あなたはお母様が死んでも良かったって言うの!」
「医師が重症者が優先だと言っただろう」
「お母様は重傷者だったわ」
「年齢的に弱っていただけだと、我が国の医師も判断していただろう」
リネットは弱ってはいた、重症化する可能性もあった。だが呼吸が苦しくなることがあり、ベットで寝ていれば気持ちも弱っていく。
元々、リネットが病気には無縁の健康な姿しか見ておらず、弱った姿にシンバリアは過剰に心配し、受け止めていた。
「気持ちは分かる、だが私は王妃として接するように言ったはずだ。もっと重症な者は沢山いるとも話しただろう?」
呼吸困難になった者、意識がなくなることが多い者、流行り病は呼吸と脳に影響を及ぼしていた。呼吸困難で亡くなった者や、意識を失ってそのまま目覚めず、息絶えた者もいる。
「そんなの誤差の範囲内でしょう」
「もし、優先したことで誰が亡くなっていたら?」
「そんなかもしれない話をされても困るわ!お母様だって亡くなっていたかもしれないじゃない」
医師は一人ではなかった。病院、動けない重傷者には別の医師が向かってはいた。だが、王妃の言葉は重い。
「王妃が率先して、親族の優先を求めたのだ…私ももっと強く止めるべきだった。我が国で開発が出来ていない以上、別の国から輸入するしかない」
「そうよ!別の、確かオルタナ王国が開発していると言っていたじゃない。そちらから輸入しましょう。もう言わないわ」
オイスラッドはオルタナ王国に、輸入を願い出た。
返事は王族が率先して、我が身を優先する国とは取引は遠慮したい、別の国を当って欲しいということであった。カイニー王国のことを聞いているのだと思った。
「別の国…一体、どこに」
自覚のあるオイスラッドは、項垂れるしかなかった。外交担当に他に開発に成功している国はないか、調べて貰うしかなかった。
シンバリアは、リアットのお見舞いに行っていた。
「お母様、本当に良かったわ」
「お祖母様、ご無事で良かったです」
ようやくバトワスも会うことが出来て、少し痩せたが、顔色の良くなったリネットに安堵した。
「わざわざありがとう、お薬のおかげね。有難いことだわ」
「ええ、そうね」
シンバリアは憂いなくということではないが、自分の行ったことに後悔はなかった。もしも母が亡くなっていたら、ずっと後悔し続けていたはずだ。
カイニー王国が駄目でも他の国から輸入すればいい、私がしたことは間違っていないと信じていた。
「オルタナ王国からは断られたよ」
「…な、どうして」
まさか人の命に係わる薬のことで、断られるとは考えていなかった。
そもそも、カイニー王国も縁談などという話ではないのだから、断って来ることがおかしい。王族がと言うのなら、母親を助けたいという、人の心もないのはそちらではないかとすら思い、怒りが沸いていた。
「カイニー王国とのことを聞いたのだろう、遠慮したいとのことだ。薬も既にあと僅かだ。その後はどうするればいいのかと、医師たちにも言われている」
「それは…」
気持ちの話をして、批判したところで、待っていても薬が届くわけではない。
「今、開発に成功している国を探して貰っているが」
「だったら!そんな心の狭い国なんて取引しなくてもいいじゃない」
薬が一つしかなくて、その一つを使ったわけではない。少し早めに診て貰っただけじゃないと、王妃の母親なのだから、そのくらいの優遇はされるべきだと、そんな国と取引しなくてもいいと開き直る気持ちの方が強かった。
「カイニー王国も、オルタナ王国も、正当な価格で輸出しているが、そうではない国かもしれない」
「そんなことはあってはならないわ」
「そうであっても、薬は必要だ。君も責任を感じてくれ」
「…な」
「じゃあ、あなたはお母様が死んでも良かったって言うの!」
「医師が重症者が優先だと言っただろう」
「お母様は重傷者だったわ」
「年齢的に弱っていただけだと、我が国の医師も判断していただろう」
リネットは弱ってはいた、重症化する可能性もあった。だが呼吸が苦しくなることがあり、ベットで寝ていれば気持ちも弱っていく。
元々、リネットが病気には無縁の健康な姿しか見ておらず、弱った姿にシンバリアは過剰に心配し、受け止めていた。
「気持ちは分かる、だが私は王妃として接するように言ったはずだ。もっと重症な者は沢山いるとも話しただろう?」
呼吸困難になった者、意識がなくなることが多い者、流行り病は呼吸と脳に影響を及ぼしていた。呼吸困難で亡くなった者や、意識を失ってそのまま目覚めず、息絶えた者もいる。
「そんなの誤差の範囲内でしょう」
「もし、優先したことで誰が亡くなっていたら?」
「そんなかもしれない話をされても困るわ!お母様だって亡くなっていたかもしれないじゃない」
医師は一人ではなかった。病院、動けない重傷者には別の医師が向かってはいた。だが、王妃の言葉は重い。
「王妃が率先して、親族の優先を求めたのだ…私ももっと強く止めるべきだった。我が国で開発が出来ていない以上、別の国から輸入するしかない」
「そうよ!別の、確かオルタナ王国が開発していると言っていたじゃない。そちらから輸入しましょう。もう言わないわ」
オイスラッドはオルタナ王国に、輸入を願い出た。
返事は王族が率先して、我が身を優先する国とは取引は遠慮したい、別の国を当って欲しいということであった。カイニー王国のことを聞いているのだと思った。
「別の国…一体、どこに」
自覚のあるオイスラッドは、項垂れるしかなかった。外交担当に他に開発に成功している国はないか、調べて貰うしかなかった。
シンバリアは、リアットのお見舞いに行っていた。
「お母様、本当に良かったわ」
「お祖母様、ご無事で良かったです」
ようやくバトワスも会うことが出来て、少し痩せたが、顔色の良くなったリネットに安堵した。
「わざわざありがとう、お薬のおかげね。有難いことだわ」
「ええ、そうね」
シンバリアは憂いなくということではないが、自分の行ったことに後悔はなかった。もしも母が亡くなっていたら、ずっと後悔し続けていたはずだ。
カイニー王国が駄目でも他の国から輸入すればいい、私がしたことは間違っていないと信じていた。
「オルタナ王国からは断られたよ」
「…な、どうして」
まさか人の命に係わる薬のことで、断られるとは考えていなかった。
そもそも、カイニー王国も縁談などという話ではないのだから、断って来ることがおかしい。王族がと言うのなら、母親を助けたいという、人の心もないのはそちらではないかとすら思い、怒りが沸いていた。
「カイニー王国とのことを聞いたのだろう、遠慮したいとのことだ。薬も既にあと僅かだ。その後はどうするればいいのかと、医師たちにも言われている」
「それは…」
気持ちの話をして、批判したところで、待っていても薬が届くわけではない。
「今、開発に成功している国を探して貰っているが」
「だったら!そんな心の狭い国なんて取引しなくてもいいじゃない」
薬が一つしかなくて、その一つを使ったわけではない。少し早めに診て貰っただけじゃないと、王妃の母親なのだから、そのくらいの優遇はされるべきだと、そんな国と取引しなくてもいいと開き直る気持ちの方が強かった。
「カイニー王国も、オルタナ王国も、正当な価格で輸出しているが、そうではない国かもしれない」
「そんなことはあってはならないわ」
「そうであっても、薬は必要だ。君も責任を感じてくれ」
「…な」
3,413
お気に入りに追加
7,056
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
(完結)嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる