悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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第二王子の留学

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「だが、暮らしは比べ物にならない。風呂はたっぷりの湯で毎日、入れるし、制限されることはない」

 王家でも使える水の量は決まっているので、他の貴族や平民よりはいい暮らしをしているが、それでも皆で同じ風呂に入ったり、節水されている。

 暮らしていた部屋もさすがに王族ということもあり、予算を抑えたので、最高級でないが、普通よりいい部屋であった。

「そんなにですか?」
「売っている物も、質が違うと感じたよ」
「売っている物も?」
「ああ、お茶も、紙の質、石鹸、些細な物でもだよ」

 アッシュは購入して持ち帰っていたが、いずれ尽きるものばかりで、オークリーはこれから行くのだから、あげようと口にすることはしなかった。

「では、王家が取引をすればいいのでは?」

 そんなに良い物なら、王家で取引をすれば、アーキュ王国の商会も喜ぶことだろうと思った。

「国内でしか販売はしないそうだ」
「そんな…じゃあ、頼んで送って貰うとか」
「転売は禁止しているそうだ。見付かったら、その送って貰った者も売って貰えなくなる」
「そんな…向こうも利益になるのにですか?」
「品質を大事にしているからということだった。確かに送って貰って、何かあっても責任が取れないということなのだろう」

 アジェル王国は、アニバーサリーがなくなって、輸出入が一気に減っていた。それでも、持ち掛けたりしたが、いい返事を貰えたところは少ない。

「好意で送って貰うしかないということですか」
「それも、どうだろうか…」

 リスクを犯してまで、わざわざ送って来るようなことが出来るかどうか。

「だがな、暮らしは最高であった。おそらく、オークリーの行くヒューズリン王国も、同じようなものじゃないだろうか。昔は我が国も、あれが普通、いや、それ以上の生活だったんだろうな」
「そうですよね…」

 昔は良かったという言葉は、親より上の世代は必ず言う言葉である。

「だが、住むことは出来ないからな。それこそ、結婚でもしない限りは」
「それでは禁止事項が…」
「そういうことだよ、良いなと思う人がいても、匂わせるようなことをして、アマリリスのようなことになったら、帰されてしまうからな」
「はい…」

 アマリリスは戻され、カメリアは留学は無事に終えたが、その後で大変なことになった。今も不安定なまま、症状は日によって違う。

「だから、自分はそのような考えではない。令嬢にも異性として接するようなことは控えて、信頼を得るしかない。それが兄から言えることかな」
「ありがとうございます」

 オークリーはアッシュの教えを胸に旅立とうと思っていたが、父であるバトワスからもハビット王国のメーリン王女殿下のことで、不安もあるために、行く前に話をして置こうと思っていた。

「オークリーも、禁止事項に気を付けるのだぞ?」
「分かっています」
「メーリン王女殿下の時のことがあっただろう」
「あれは…別に禁止事項ということではなかったではありませんか」
「縁談で来ていたわけでもない」

 ルークア王太子殿下とメーリン王女殿下は、バトワスが任されており、話を聞きたいということで、双方が縁談などでは断じてなかった。

「それは…」
「大丈夫だろうが、誤解を招くことだってあるんだ」
「兄上にも恋愛結婚のアジェル王国、子沢山のアジェル王国と言われていると聞きました。弁えて過ごすつもりです」
「そ、そうか…」

 バトワスも聞いたことはあったが、子どもの口から聞くのとは違う。

「ですので、そのようなことはしません」
「そうか、アッシュのように無事に帰って来ることを待っているぞ」
「はい」

 オークリーは、ヒューズリン王国に旅立った。

 王女たちは年齢的にも早いかと思っていたが、アマリリスとカトレアのことを思えば、思春期ではない方がいいのかもしれないと考えるようになっていた。
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