悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
69 / 124

第一王子の帰国

しおりを挟む
 隣国のアーキュ王国に留学していた、第一王子・アッシュが留学を終えて、帰国することになった。

 問題を起こして連絡が来ることもなかったが、お金も勿体ないということで、一度も帰って来ることはなかった。

 オリビアのことは手紙で伝えており、会いたければズニーライ侯爵家に会いに行くことは出来る。

「ただいま、戻りました」

 少し成長したような顔をしており、バトワスも王女たちのようにならなかったことに、ホッとした。

「よく無事に戻った。問題はなかったか?」
「はい、有意義な時間でした」
「オリビアのことは、手紙になって申し訳ない。嫌な思いはしなかったか?」
「ああ…まあ、影では言われていたのでしょうね」

 王家が発表をしたことで、アッシュには何か言われるかもしれないが、詮索されるよりも発表して、オリビアに非があると示す方がいいと判断したと伝えていた。

 予算内で男娼を呼ぶ許可を得ていたことも驚いたが、性欲が強過ぎる母親であったことも初めて知った。そんなことは知らなかったが、知りたくもなかった。

「すまなかったな」
「いえ、失望はしましたが、考えないようにしていました。手紙に書かれていたことは、事実なんですよね?」
「ああ、疑うなら調査の記録もある」
「そうですか」
「話がしたければ、ズニーライ侯爵家に行くといい」
「いずれは話さなくてはと思いますが、今はまだいいです」
「そうか」

 アッシュが戻ったということは、第二王子・オークリーが、ヒューズリン王国へ留学が控えている。

 アッシュが部屋で荷物の整理をしていると、オークリーが訪ねて来た。

「兄上、無事に戻られて良かったです」
「ああ、オークリーも行けば分かると思うが、戻ってくるのが嫌になると思うぞ」
「そんなに良かったのですか?」
「最初は居心地のいいものではなかったが…」
「どういうことですか?」

 アッシュは言葉を濁したが、これから留学するオークリーには伝えて置くべきだろうと思った。

「学園では恋愛結婚の、子沢山のアジェル王国と思われてしまっている。アマリリスのことを知っている者もいたのかもしれない」
「でも、それは私たちには関係ないではありませんか」
「それでも、そういう印象を持たれているんだ。特に私たちは王族だから、同じ考えを持っていると思われるんだ」

 アッシュも最初は、異性には特に警戒された。

 だが少しずつ同性の同級生に、恋愛を持ち込んだら国に帰されてしまうのに、そんなことは考えていないということを浸透させた。

 勉強も真面目に取り組み、無暗に異性には近づかずに、とても気を使った。

 そうすると、徐々に話してくれるようにもなった。両親の離縁は信じられない気持ちだったが、親しくなった者には苦労するなと励まして貰ったくらいである。

 だが、何も知らない者たちには嘲笑われていたのかもしれない。

 恋愛結婚の国なのに、不貞だなんてと聞こえて来たこともある。不貞にも、男娼ということにも、情けない気持ちで一杯であった。

 発表しなければ誰だと詮索されたことになったことも、追々で理解は出来た。

 アーキュ王国でも、実は相手は男娼だと言われているが、違うのではないかと書かれたゴシップ誌を読んだこともある。だから、父に事実なのかと確認をした。

 世間的には貴族の方がまだ良かったのかもしれないが、そんな者はいないということなのだろう。

「でも両親も、象徴とされていたマクローズ伯爵夫妻も離縁しましたよ?」
「ああ、そうらしいな。それでどう変わるか、変わっても当分先だろう。くすくす笑われることになるかもしれない」
「そんな!」
「でもな、直接言って来ることはないだろうから、気にしないことだよ」

 オークリーは留学を楽しみにしていたが、急に不安になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

【完結】あなたに嫌われている

なか
恋愛
子爵令嬢だった私に反対を押し切って 結婚しようと言ってくれた日も 一緒に過ごした日も私は忘れない 辛かった日々も………きっと……… あなたと過ごした2年間の四季をめぐりながら エド、会いに行くね 待っていて

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

処理中です...