悪意か、善意か、破滅か

象徴だった二人の離縁３

「信じられないのは、私たちの方です！」
「そうです」
「二人はシャーリンには関わらなくていい。これから領地に行って、その後は働き続けねばならない。それほどの罪を犯したのだ」

　裕福な家なら、持参金で相殺の上に慰謝料だっただろうが、そんな余裕はない。

　ジェフ様のご厚意がなければ、生活すら出来なかった。

　血が繋がっていなかったとしても、自分の娘だと思っていた二人を、わざわざ不幸せにしたくはないと思ってくれたのかもしれない。

「ま、待って、それは考え直して…」
「じゃあ、出て行け」
「…え」
「出産までは待って貰えるが、その後はお前は慰謝料を支払わなくてはならない」

　養育費のことはさすがにベリックも、ここでは口にはしなかった。

「でも、そんな、無理よ！そんなの嫌」
「伯父様、領地で誰が面倒を看るのです？」
「家令はいるが、面倒を見る者はいない」
「そうですか」
「いない？私は妊婦なのよ？」

　いくらマクローズ伯爵家が余裕があまりないとはいえ、ガルッツ子爵家とは比べれば、まだ余裕はある。

「家は裕福ではない！そんなものいるわけないだろう。通いのメイドがいるくらいだが、人数は少ない。お前の面倒まで看れるか！助産師だけは頼んでおいてやる、医者を呼ぶ金はない、自分で行きなさい」
「っな、そんなことあり得ないわ」

　これまでの出産はマクローズ伯爵家で行われていたために、至れり尽くせりであった。アイリとマイリも、ジェフの子どもではなかったが、至れり尽くせりで出産した。今回も当然のように、そうなると思っていた。

「じゃあ、働いて呼ぶ金を作るんだな」
「妊婦に働けって言うの！」
「そうだ、我が家にお前に出すお金はない！」
「酷い、たった一人の妹なのよ？優しくしてくれてもいいじゃない…」

　シャーリンはひっくひっくと泣き始めたが、ベリックにはもう妹とも思いたくはなかった。

「逃げようなどと思うなよ？払えないとなったら、債権を売られるかもしれない。そうなれば、優しい取り立てでは済まないだろう。だから、不貞を反省して、ちゃんと働いて返しなさい」
「そんな…ジェフはそんなことしないわ」
「ジェフ様がしなくても、他の方がされるかもしれない」
「そんな…」

　シャーリンはすぐに安定期に入り、両親に付き添われて、領地に行かされ、出産まで過ごすことになった。不満に思っても、頼るところがないために領地の邸にしか居場所はなかった。

　アイリとマイリは、二人に罪はないと、ガルッツ子爵家は受け入れたが、父親も分からない私たちは貴族とは結婚は出来ない。早く自立して、結婚もしなくてもいいと思うようになっていった。

　積極的に手伝いをして、自分たちがお荷物にならないように心掛けていた。

　伯爵家に比べると生活水準は下がったが、裕福な伯爵家から貧乏な子爵家に移ったわけではなかったのが、良かったようで、馴染んでいくのも早かった。

　アイリとマイリは、男娼の子どもだと言われてはいないが、離縁の理由から勘付いており、シャーリンを恨んでいた。

　今の現状も受け入れたというよりは、自分の力で生きていけるまで、ここで頑張るしかないと心に決めたからである。

　八人兄弟の中で、一人だけ違うよりは良かったと、二人いて良かったと互いに思っており、マクローズ伯爵家のきょうだいたちも、心配してガルッツ子爵家にやって来たり、手紙をくれることも二人の支えとなった。

　ジェフとシャーリンが離縁したことは、さすがに貴族の間でも話題になった。

　自殺未遂までしたのに、結局、しかも妻の方の不貞行為で別れたのか、何が恋愛結婚の象徴だったのだろうかとも言われるようになった。

　ジェフはバトワス王太子殿下にも、離縁の手続き前に報告を行っていた。