悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
51 / 124

調査報告2

しおりを挟む
「そんな話聞いたこともないのだけど、もしかして離縁された方もいるのかしら?」

 アンドリューの世代でも、離縁した夫婦もいたが、不貞行為、しかもそのような破廉恥な理由は聞いたことがなかった。

「いたのかもしれません、ですが恥ずかしいと公にしなかった」
「確かに、オリビアのことで我々も恥ずかしい思いをした。オリビアは立場上難しいが、公にしなくていいのならば、そうしただろう」

 当事者としてファンドラーも、痛いほど気持ちが分かった。

「はい、それで別の理由で離縁されたのかもしれません」
「だからそのようなことが、まかり通っているとも言えるわよね」
「ええ、その通りです。夫は見て見ぬ振りをしているのか、知らないのか」
「責任はあるでしょう」
「ええ、知らない可能性もありはしますが、おそらく問題になっても、公にはされないと思っているのではないでしょうか」
「ああ、そうだろうな。離縁しても、貴族として恥ずかしいという方が勝るだろう」
「だから、続いているのでしょう」

 誰かが声を上げなければ、なくなることはないだろう。ミカエラーが足繫く通っていたように、なくなって困ることなのだろう。

 ゆえに皆が進んで行っている証拠でもある。嫌ならば行かなければいい、暴露してしまえばいい、だがそのようなことをする者はいなかった。

 そして、アンドリューは両親をじっと見つめた。

「それで、親子鑑定の方なのですが」

 ファンドラーとマルエリーは、小さく息を呑んだ。

「ディビット、ディアーナ、ブリジットは私の子ではありませんでした」
「な!」
「う、そ…」

 アンドリューとミカエラーの子どもは、第一子である長女・シャルロット、第二子である長男・スチュアート、第三子である次男・ディビット、第四子である次女・ディアーナ、第五子である三女・ブリジットであった。

「まさか半分以上、私の子どもではなかったとは…思いませんでした」

 アンドリューも、もしかしたらという気持ちは持っていた。だが、事を荒立ててはならないと思い、自分の子どもではないと思わないようにしていた。

 容姿に関してもシャルロットはアンドリューに似ており、ディビットとディアーナはミカエラーに似ていた。

 スチュアートとブリジットは、どちらかに強く似ているようなことはなく、隔世遺伝で祖父母に似ているということもなかった。

「ですが、ディビットが生まれる頃には、そういった行為も減っていましたから、納得は出来ます」

 アンドリューがミカエラーの性欲に、遠慮したいと思うようになったのはスチュアートが生まれた辺りではあった。ゆえにディビットが生まれる頃には、格段に減っていた。それでも絶対に違うと言えるのは、5年前からである。

「そんな…信じられないわ」
「一体誰の子なんだ…」
「ディビットたちの父親が、あの邸での行為で授かったのならば、貴族令息か、男娼でしょう」
「そうなるのか…」
「当時のことまでは調べられませんが、当時もあの邸に行っていたのは事実です」

 ズニーライ侯爵家の馬車を使っていたことから、記録を見れば、ミカエラーを送り届けていることは明白であった。

「もしかしたら、万が一にも妊娠してもいいように、夫に似た相手を選んでいたのかもしれません」
「っな」
「まさか」

 濃淡はあるがブラウンの髪色に、ブラウンかブルーの瞳の多い、アジェル王国ではあるが、色味に関しても、ディビット、ディアーナ、ブリジットに子どもではないと疑うような色味は出ていない。

「可能性は高いと思っています」
「信じられん。可哀想だが、はっきりした以上、ディビット、ディアーナ、ブリジットはズニーライ侯爵家には置くことは出来ない」
「はい、承知しております」
「子どもたちに罪はないけど、そうするしかないですわね」

 デンバー伯爵夫妻に揃って来て欲しいと連絡を取り、話をすることになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

17時もお読みいただきありがとうございます。

実は昨日、誤ってこの話だけを削除してしまい、
バックアップもなく、
初めてのミスで泣きそうになりましたが、
丸々書き直しました…書き漏れはないとは思いますが、
洩れていた場合は追々で捕捉します。

そして同じ17時から新作となる、
「ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません」を投稿しております。

どうぞよろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

処理中です...