悪意か、善意か、破滅か

次期侯爵の離縁４

「我が家もデンバー伯爵家も同じように厳しい立場になるだろう。慰謝料と、ディビット、ディアーナ、ブリジットの養育費は持参金で相殺という形にしよう」
「はい、承知しました」

　ファンドラーが伝えると、ジェアスも潔く承知した。

　結婚当時はデンバー伯爵家は裕福であったために、ミカエラーに少なくない持参金を払っていたが、明らかにミカエラーの有責となるために、追加で請求されないだけでも良かったというべきだと判断した。現在、デンバー伯爵家は孫も多く、資産はかなり目減りしている。

「可哀想だが、子どもたちにも伝えなくてはならない」
「あ…」

　そして、出掛けていた子どもたちが送って来て貰い、大事な話があるからと、皆が集まっている応接室に５人を連れて来た。

「オリビア叔母様の話？」

　シャルロットがアンドリューに問い掛けるが、座ってくれと言われて、シャルロットとスチュアートは静かに座ったが、ディビットは何？と騒ぎ、ディアーナとブリジットは何か揉めていた。

　年齢差のために仕方のないと思っていたが、アンドリューとファンドラーとマルエリーにとっては、孫ではなかった子どもが騒いでいる様子に変わりつつあった。

「両親であったアンドリューとミカエラーは、ミカエラーの長年の不貞により、離縁することになった」

　ファンドラーが告げると、デンバー伯爵家側は目を合わせられず、俯いていた。

「え…」
「母上が？」

　シャルロットとスチュアートは、驚きながらも落ち着いた様子で反応した。

「そんな、嘘だよね？」
「お母様、いなくなちゃうの？」
「ええ！嫌だ」

　ディビットとディアーナとブリジットは、ミカエラーの側に行き、どうしてそんなことになったのかと騒ぎ出した。

「ディビット、ディアーナ、ブリジットには、まだ話さなければならないことがある。座りなさい」

　渋々と言った様子ではあったが、３人は座った。シャルロットとスチュアートは、どうして３人にだけなのだろうと思い、とても嫌な予感がした。

「ディビット、ディアーナ、ブリジットはお父様だと思っていたアンドリューの子どもではなかった。だから、ミカエラーとデンバー伯爵家に行って貰うことになる」

　シャルロットとスチュアートは、口元を押さえて、絶句した。

　弟と妹のことも心配ではあったが、母の方を見ると俯いたままで、事実だということを示しているようであった。

「え？」
「え？」
「どうして？」

　ディビット、ディアーナ、ブリジットも、幼子ではないので、理解が出来ないわけではない。大人たちは、気持ちの整理がつかないのだろうと思った。

「ディビット、ディアーナ、ブリジットが悪いわけではない。だが、離縁することになって、ズニーライ侯爵家で暮らすことは出来なくなったんだ。すぐには受け入れられないかもしれないが、少しずつでも受け入れてくれ」
「シャルロットとスチュアートと、きょうだいであることは変わらないわ」

　困惑したまま固まってしまったディビット、ディアーナ、ブリジットに、マルエリーが声を掛けた。孫たちが会う分は、制限するつもりはない。

「そんな…」
「嫌だ…」
「うっ、うっ」

　ディビット、ディアーナ、ブリジットは泣き出してしまい、無理もないだろうと、シャルロットとスチュアートが３人を慰めた。

　弁護士の立ち合いの元、離縁状にサインをして、ディビット、ディアーナ、ブリジットをズニーライ侯爵家から外し、アンドリューとミカエラーは離縁した。

「健康に気を付けて、しっかり生きていきなさい」

　アンドリューは最後にディビット、ディアーナ、ブリジットに声を掛け、ファンドラーとマルエリーも別れを惜しんだ。荷物は後日、引き取りに来ることになり、６人はデンバー伯爵家に向かった。

　ディビットとディアーナとブリジットは、嫌だとずっと泣き続けていた。