悪意か、善意か、破滅か

王太子夫妻の離縁

「マグノリア、オーキッド、ヴァイオラはどうだろうか」

　下の子どもたちは、９歳の第四王女・マグノリア、８歳の第五王女・オーキッド、６歳の第六王女・ヴァイオラ。

「話した方がいいと思います」
「そうか」

　３人を呼び、同じ話をしたが、ヴァイオラはまだ分からない部分があり、上の子たちが説明をして、マグノリアとオーキッドは理解したようで、ライラックと同じように気持ち悪いと口にした。

「もうお母様に会いたくないわ」
「私も汚いって思っちゃう」
「良くないと思います」

　皆、きちんとした貞操観念を持っているようだが、ならばなぜカメリアだけが違ったのかとも考えたが、今はオリビアのことを考えなくてはならない。

「皆の意見は分かった」
「どうするつもりなのですか？」
「離縁に向けて動くつもりだ」

　皆も納得したような表情をして、万が一噂になっていたとしても、まだ届いていないために、その前の方がいいだろうと判断した。

　オリビア王太子妃は、不貞行為を行ったことにより、離縁されることに決まり、発表を前にオリビアにも伝えられた。

「どうしてよ！」
「噂になる前に、離縁したという方が子どもたちのためだろう」
「噂になっているの？」

　バトワスは今更ではあるが、気になっているのならば、なぜそのようなことをしたのかと感じていた。

「噂になる前だと言っているだろう？」
「なっていないならいいじゃない」
「噂になってからでは遅いから言っているんだ！君は反省もしていなければ、謝罪もしないんだな！悪いとも思っていない証拠だ」
「っ、軽率だったと思っているわ」

　許可が下りていたことによって、悪いとは思えていないのだろう。相手が男娼だっただけで、別の相手だと想定すれば、不貞だと分かるのだろうか。それでも、男娼だったのだからと言い出しそうで、意味のない会話になるだろうと、自己完結した。

「分かっているなら、受け入れなさい」
「っな、私はどうなるのよ…」
「ズニーライ侯爵が責任を持つと言っていただろう？」
「子どもたちは…」
「子どもたちも同意している」
「話したの？」

　子どもたちに知られたのかということが、ショックであった。

「離縁となるのだから、話すしかないだろう？噂になって傷付くのは子どもたちなんだぞ、知る権利がある」
「でも、知らせなくても…」
「幼子ではないのだぞ？」
「でも、悲しませる必要はないじゃない」
「悲しむ？」
「そうよ、あなたには分からないかもしれないけど、母親が他の男性と、関係を持っていたと聞いたら、悲しいでしょう？」

　嫌悪していたと伝えようかと思ったが、他人となるオリビアに既にそこまで伝える気にもならなかった。いずれ分かることだろう。

「明日には発表され、ズニーライ侯爵夫妻が迎えに来る。とりあえず必要な物を準備して置きなさい」
「明日？」
「ああ、明日には発表される」
「そんな…」

　王太子妃が離縁されるというのに、そんなにあっさりと行われるのかと、存在価値がなくなるような感覚に陥った。

　王太子妃とはいえ、王妃になっておらず、国家機密などは抱えていないために、幽閉しかないという形ではなく、離縁することも可能であった。

　最後にズニーライ侯爵夫妻共に、両陛下に会うことになった。

「誠に残念ではあるが、王太子妃という立場でありながら、不貞行為は許されることではない。オリビアの有責にて離縁とする」
「…」
「オリビア！」

　何も答えないオリビアに、ズニーライ侯爵が名前を呼んだが、オリビアはじっと陛下を見たまま、答えない。

「何か申したいことがあるのか？」
「はい、相手は…男娼だということは考慮して貰えないのでしょうか」

　オリビアはルルーリオの特別なのだと言っていた口で、今度は男娼なのだから、不貞行為ではないという理由にしようとしていた。


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