悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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優越感

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「だから、言ったじゃない、私、男娼を呼んだのよ?」
「ああ」
「ああって、もうそんなに拗ねないで頂戴よ」
「何を拗ねる?」
「だから、男娼のことよ。嫉妬しているんでしょう?別に愛したわけではないから心配しないで」

 オリビアは勝ち誇った顔をして、バトワスを流し目で見つめて、口角を上げた。

「はあ…そんな話なら出て行ってくれ」
「もう、そんなに拗ねないでって言っているでしょう?これからの私たちのためのスパイスだと思えばいいのよ」
「許可を得ているのだから、好きにすればいい」

 折角、当分公務に集中が出来て、穏やかだったのに、また何を言い出すのか。この部屋にオリビアがいることですら、既に苛立つようになっていた。

「んもう!どうしたら機嫌を直してくれるの?」
「何を言っているんだ?君が邪魔をしているから、機嫌が悪いんだ。男娼を呼びたいなら呼べばいいだろう?出て行ってくれ」

 オリビアにもう男娼を呼ぶ予算はない。自分で用意すれば可能かもしれないが、実家もお金に余裕があるわけではないと言われている。

 ならばこの疼きを解消する相手はバトワスしかいない。だから、仕方ないから相手にしてあげるという思いであった。

「今日はバトワスが相手をしてくれていいのよ?大丈夫、比べたりしないわ」

 オリビアはバトワスの肩に触れようとしたが、払い退けられた。

「気持ち悪い…」
「え?」
「気持ち悪いって言ったんだよ」
「何ですって!」
「自分が同じことを言われたらどう思う?私が若くて美しい娼婦を呼んで、同じこと言ったらどう思う?」
「っ」

 オリビアは失言だったと気付いたが、言い方に腹が立っていた。

「だから、気持ち悪いって言ったんだよ!男娼を呼んで、勝った気でもいるのか?君が自分の責任で呼んだんだ、私には関係ない」
「関係ないって、嫉妬したからって、そんな言い方しなくてもいいじゃない」
「嫉妬ね…」

 バトワスは自信が許可を求めたのに、オリビアは嫉妬していると思っているとは、なんて都合のいい頭なのだと思った。

「勢いで言ってしまったけど、私が呼ばないと思っていたんでしょう!強がらなくてもいいのよ」

 オリビアはバトワスがもし、娼婦と関係を持ったと聞いたら、怒り狂っただろうが、自分は男娼と関係を持ったことで、バトワスに優越感を感じていた。

「いや、ずっと考えていたよ」
「…え、どういう意味?」
「君のその並々ならぬ性欲を、どうにかならないかと思っていたんだ。私だってこんなことは言いたくないが、言わないと改善されないだろう?私にはやらなければならない、優先順位があるんだ」

 オリビアはバトワスの言い方に恥ずかしい気持ちもあったが、抱いて欲しいということはそんなに批判されることなのかと、怒りが勝った。

「君が引いてくれれば、私だけの胸に留めて置くつもりだったが、邪魔ばかりして我慢の限界だった。だから男娼の許可を願い出たんだ、満足したのだろう?ならいいじゃないか?何が不満なんだ?」
「不満って…」

 オリビアは口にはしないが、バトワスなんかよりも満足はしたが、楽しみ過ぎたせいで、呼ばないと物足りなくなったなんて言えない。

 そんなことを言えば、さらにバトワスに性欲のことを馬鹿にされることは、目に見えている。

「不貞行為でもされたら、さらに子どもたちの婚約者も、国にも混乱を招く」
「不貞なんてしないわ」
「そうしてくれ」

 だが一方で、バトワスは不貞をすれば、離縁が出来るとも考えたこともあった。

 そうなったところで、バトワスが象徴となっているわけではないので、恋愛結婚のイメージが払拭出来るとは思わないが、何か変わるのではないかと思った。だが、まずは邪魔されたくないので、男娼を宛がうことにしたのだ。
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