【完結】試される愛の果て

思い

「オリー弁護士、書類をお願いします」

　ダリアはメリーアンの様子にも言葉にも一切、反応せずにお願いをした。

「本当によろしいのですか？」

　オリー弁護士は、メリーアンの様子にこのまま娘を任せていいのかと感じ、口を出すべきではないが、思わず聞いてしまっていた。

「マーガレットにとっては、唯一の母親ですから」
「そう、ですか」
「黙って用意しなさいよ」
「黙れと言っているだろう！」

　メリーアンのあまりに酷い態度のままの話し合いは終わり、明日、マーガレットを連れて来ることになった。

「やっとマーガレットと暮らせるのね、楽しみだわ」
「では、失礼します」
「お茶くらい一緒に飲みましょうよ」
「いいえ、結構です」

　メリーアンはどうにかして、ダリアと話そうとしたが、そそくさと帰って行ってしまった。ダリアはマーガレットとお別れをしなくてはいけないのである。

「大丈夫なのですか？」

　帰りの馬車でオリー弁護士は、再度、ダリアに問い掛けた。

　オリー弁護士は、事前にダリアから育てたいと言えば、条件を出して、受け入れるつもりだとは聞いていた。だが、母親があんな女性だとは思っていなかった。

「分かりませんが、母親を奪うことをするとしても、納得してからにして欲しいと思っているのです」
「オスレ様が再婚されて、新しい母親ということも考えてもいいのではありませんか？」

　オスレ伯爵家の嫡男で、今すぐでなくとも、おそらく再婚されることになるだろう。今もオスレ伯爵家では、母親がいなくとも乳母が育てており、母親が絶対に必要ということもないだろうと思っていた。

「それは…子どもの立場からすれば、違うのです。私も片親、両親がいないことを、痛いほど分かっていますから。あと、彼女はあんな風になってしまいましたが、母親であることは信じてみたいのです」
「そうですか…」

　ご両親を子どもの頃に亡くしているダリアには、並々ならぬ思いがあることは分かっていたが、オリー弁護士は不安でいっぱいであった。

「それでも、何かあるようなら無理にも引き離します」
「それは勿論です」
「マーガレットに母親を感じて欲しいと、どうしても思ってしまうのです」
「承知いたしました」

　翌日、マーガレットはユーフレット侯爵家に連れていかれて、どちらの籍になるかはまた改めて決めることになっている。

「マーガレットっ！会いたかったわ」

　見ない内にまた大きくなったマーガレットは、メリーアンを見て不思議そうな顔をしている。既に乳母の手配はしているが、乳母が見付かるまで、メリーアンと前侯爵夫人で面倒を看ることになっている。

「よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「乳母たちは雇えないの？」
「それは、難しいと言っただろう」

　乳母はそのまま雇えばいいとメリーアンは思っていたが、オスレ伯爵家の乳母二人は断ったのである。マーガレットが生まれて面倒を看て来ていたが、マーガレットのことは心配だが、家族はちゃんとしてらっしゃるからという言葉で、メリーアンに雇われたくない方が勝ったのである。

「どうして？」
「では、面会の際によろしくお願いします」
「はい」

　ダリアは寂しい気持ちを抑えて、二度と会えないわけではないと、マーガレットに微笑んで去った。

　皆が不安に思っていたが、メリーアンはマーガレットのことは大事に思っていたことは嘘ではなく、きちんと母親として、面倒を看ていた。

　乳母はユーフレット侯爵家ということで敬遠され、ユーフレット侯爵家も万が一、ジーリスの恨みを持っている者だったらと、素性の定かでない者は雇えない。でも、どうにかロス伯爵家の紹介で、来てもらえることになった。

　マーガレットの面会にメリーアンは何度か付いて行こうとしたが、厳しく監視して、約束を守っていた。だが、時は経ち、ダリアが再婚することとなった。