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「どうして私がそんなことを」
「ジーリスの子どもだって知られたら、酷い目に遭うわよ。あの男を殺したいほど恨んでいるのは、オーロラだけじゃないの」
「っな…」
「そんなにですか?」
「あなたたちには優しい叔父さんだったものね…でもあの男はクズだったわ。家族と上にだけいい顔をして、見下して、人とも思っていなかった。特には女はね」
リリーは嫌悪感を隠しもせずに淡々と話した。
「言えば良かったじゃないですか!」
「誰が信じると思う?」
「賛同してくれる人だって…」
「一度だけ母に話してみたことがあったわ。でも誰にも言っては駄目、黙って我慢なさいと言われたわ。いつものように諦めたのよ」
リリーの母親は既に亡くなっているが、父親の言うことに従うような女性だったので、ユーフレット侯爵家との縁を考えて、そう言ったのかもしれない。
「後悔していないのですか」
「ええ、悪かったとは思っているけど、後悔はしていないわ。きっと同じ過去に戻っても、記憶がなければ私は同じことをすると思う」
「記憶があったら?」
「記憶があったら、してはいけないんでしょうね。でも、一つ言えるのは、ジーリスは私が殺すわ。私が殺すべきだった…これだけは後悔しているわ」
オーロラから遠征の地図を手入れて欲しい、怪我をさせたいと言われる前に殺すべきだった。
「私も含めて、皆、自分が一番、可愛かったんでしょうね。他人のことなんて考えていない、でも結局は何も残らなかったわ。メリーアンもそうなりたくないなら、相手のことを考えなさい」
「っな!お母様とは違うわ」
「そう」
「どうして、そんな何もなかったような顔が出来るのですか…」
トーラスにはリリーもジーリスの被害者であるのに、他人事のような顔をして、落ち着いていられる理由が分からなかった。
「私もトイズ様に同じことをしたからよ、私は被害者面は出来ないわ」
「それは…」
確かにそうではあるが、叔父上のことが引き金になっているのなら、そう訴えても良かったはずだ。だが、母上は一切、言い訳もせず、すべて認めていた。
「トイズ・オスレ様のためですか…」
情に訴えることも出来たはずだが、しなかった。家族を守るためだとは思えないとするならば、守りたい人は一人だけだろう。
「え?」
「自分が被害者だったからと訴えたら、オスレ様の名誉のためですか?」
「私は被害者だとは公にしたわよ?」
「ですが、オスレ様のことは公にはなっていません」
トイズ・オスレへは脅迫罪、暴行罪だけ公になり、強制性交罪は罪状に書かれているが、公にはしなかった。
「だから?私はちゃんと裁かれたかっただけよ?」
「でも」
「トイズ様は私を恨んでいたわ。きっと死ぬ最期まで、嫌われていたはずよ。トイズ様のためなんて烏滸がましいことを考えるはずないわ」
「そうですか…」
トーラスはどこか納得のいかない気持ちを抱えたまま、納得するしかなかった。
「お母様がどうにかしてよ!母親でしょう!」
「ユーフレット侯爵家は追い出されないのだから良かったじゃない」
「当たり前じゃない!」
「ユーフレット侯爵の子どもではなかったのに?」
リリーは何の配慮もはなく言い放った。
「母上っ!」
「事実を言っただけよ?一生付き纏うのだから」
ふふっと笑った母上に、これは復讐なのではないかと思った。
「私が望んだわけではないわ」
「それはそうだけど、私が望んだわけでもないわ」
「っな」
トーラスはその言葉に、どちらも否定が出来ないと思った。すると、リリーは神妙な顔をして、二人を見つめた。
「もう二人にも会うことはないから、私のことは恨むか、忘れて、生きて行ってください。申し訳ありませんでした」
リリーは深く頭を下げ、これが母と子の最後の会話となった。
「ジーリスの子どもだって知られたら、酷い目に遭うわよ。あの男を殺したいほど恨んでいるのは、オーロラだけじゃないの」
「っな…」
「そんなにですか?」
「あなたたちには優しい叔父さんだったものね…でもあの男はクズだったわ。家族と上にだけいい顔をして、見下して、人とも思っていなかった。特には女はね」
リリーは嫌悪感を隠しもせずに淡々と話した。
「言えば良かったじゃないですか!」
「誰が信じると思う?」
「賛同してくれる人だって…」
「一度だけ母に話してみたことがあったわ。でも誰にも言っては駄目、黙って我慢なさいと言われたわ。いつものように諦めたのよ」
リリーの母親は既に亡くなっているが、父親の言うことに従うような女性だったので、ユーフレット侯爵家との縁を考えて、そう言ったのかもしれない。
「後悔していないのですか」
「ええ、悪かったとは思っているけど、後悔はしていないわ。きっと同じ過去に戻っても、記憶がなければ私は同じことをすると思う」
「記憶があったら?」
「記憶があったら、してはいけないんでしょうね。でも、一つ言えるのは、ジーリスは私が殺すわ。私が殺すべきだった…これだけは後悔しているわ」
オーロラから遠征の地図を手入れて欲しい、怪我をさせたいと言われる前に殺すべきだった。
「私も含めて、皆、自分が一番、可愛かったんでしょうね。他人のことなんて考えていない、でも結局は何も残らなかったわ。メリーアンもそうなりたくないなら、相手のことを考えなさい」
「っな!お母様とは違うわ」
「そう」
「どうして、そんな何もなかったような顔が出来るのですか…」
トーラスにはリリーもジーリスの被害者であるのに、他人事のような顔をして、落ち着いていられる理由が分からなかった。
「私もトイズ様に同じことをしたからよ、私は被害者面は出来ないわ」
「それは…」
確かにそうではあるが、叔父上のことが引き金になっているのなら、そう訴えても良かったはずだ。だが、母上は一切、言い訳もせず、すべて認めていた。
「トイズ・オスレ様のためですか…」
情に訴えることも出来たはずだが、しなかった。家族を守るためだとは思えないとするならば、守りたい人は一人だけだろう。
「え?」
「自分が被害者だったからと訴えたら、オスレ様の名誉のためですか?」
「私は被害者だとは公にしたわよ?」
「ですが、オスレ様のことは公にはなっていません」
トイズ・オスレへは脅迫罪、暴行罪だけ公になり、強制性交罪は罪状に書かれているが、公にはしなかった。
「だから?私はちゃんと裁かれたかっただけよ?」
「でも」
「トイズ様は私を恨んでいたわ。きっと死ぬ最期まで、嫌われていたはずよ。トイズ様のためなんて烏滸がましいことを考えるはずないわ」
「そうですか…」
トーラスはどこか納得のいかない気持ちを抱えたまま、納得するしかなかった。
「お母様がどうにかしてよ!母親でしょう!」
「ユーフレット侯爵家は追い出されないのだから良かったじゃない」
「当たり前じゃない!」
「ユーフレット侯爵の子どもではなかったのに?」
リリーは何の配慮もはなく言い放った。
「母上っ!」
「事実を言っただけよ?一生付き纏うのだから」
ふふっと笑った母上に、これは復讐なのではないかと思った。
「私が望んだわけではないわ」
「それはそうだけど、私が望んだわけでもないわ」
「っな」
トーラスはその言葉に、どちらも否定が出来ないと思った。すると、リリーは神妙な顔をして、二人を見つめた。
「もう二人にも会うことはないから、私のことは恨むか、忘れて、生きて行ってください。申し訳ありませんでした」
リリーは深く頭を下げ、これが母と子の最後の会話となった。
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