【完結】試される愛の果て

野村にれ

文字の大きさ
上 下
53 / 154

両親

しおりを挟む
「ありますよ、少しお待ちください」

 ダリアは立ち上がって、部屋を出て行った。

「スノー様、お知り合いってことはないわよね?」
「失礼しました。ですが、写真を見たりすると、思いがけないご両親の記憶を思い出せるのではないかと思いまして」

 少し苦しい言い訳かとも思ったが、トイズも思い出して貰えないことは悲しいと思ってしまった。

 しばらくして、ダリアがアルバムを持って、戻って来た。

「あまりないのですが…」
「いえ」
「スノー様は、ダリアが写真を見ることで、ご両親のことを思い出せるのではないかと思ったそうよ!」
「ああ、確かにあまり見ることはありませんでした」

 ダリアはアルバムを開いて、ブロンドの女性を指差した。

「これが母です」
「え」

 思いもよらない声が出てしまい、ハッとして掌で押さえた。だが、ダリアもメリーアンも、スノーの特技を知っている。

「知っているのですか…?いつ?母は私が7歳の時に亡くなっています」
「えっと…」
「記憶にあるということですよね?」

 リアンスはスノーの慌てる様子に、ダリアとメリーアンに何か関係があるのではないかと、どうしようかと思ったが、その前にスノーが答えた。

「叔母です。友人だったはずです。マリー様ではありませんか?」

 コンガル侯爵家に嫁ぎ、心を壊し、今も子爵家に籠っている母・ファイラの妹・オリラである。当たり前だが、祖母は伯爵家に嫁いだ母よりも、絶対に辛い思いをすることになると、強く伯母の婚約に酷く反対した。

 だが舞い上がっていたオリラは、聞く耳を持たなかった。

 子爵家で不自由なく育っていたオリラは、高位貴族への恐怖を祖母がいくら話しても、理解していなかった。

 二年後に離縁した際に、祖母はやはりと思ったが、心を壊した様子に、ただただ後悔することしか出来なかった。

 このことは、オリラの父であるオブレオも心を痛めて、コンガル侯爵家との関係を断ち切ったくらいである。

 その後に、コンガル侯爵家はランドマーク侯爵家に謝罪をしたが、謝罪をする相手が違うと、今も関係は良くないままである。

「はい、マリエルです」
「そうでしたか…叔母がマリー様と呼んでいたので」
「叔母様というのは?」
「オリラ・リーターです」
「リーター子爵家の…」
「はい、今は心を壊していますが、幼い頃は連れ歩いてくれたこともありまして、その際に何度かお会いしたことがあります」

 オリラの事情を知っているかは分からなかったが、伝えて置こうと思った。

「リーター家の方と、友人だったとは知りませんでした」
「私も詳しいことは知りませんでした。お顔とマリー様ということだけしか」
「そうでしたか…」
「まさかお母様だとは思っておりませんで、妙な声を出して、失礼しました」

 トイズのように黙って堪えることが、突然だったので、出来なかった。

「いえ、まさかあなたの口からマリー様と聞くとは思いませんでしたので、問い詰めるようなことをして申し訳ありません」
「まさか、スノー様と繋がっていたなんてね。驚きね」

 メリーアンは朗らかに、ダリアに話し掛けた。

「ああ、たまには見てみるものだな」
「そうよ!スノー様が来てくれると、いつも驚くことが起こるわね」
「申し訳ありません」

 もっと驚くような事実を抱えているのかもしれないと思い、スノーは酷く疲れた気になった。だが、まさかあのマリー様がダリア様の母親だったとは思わなかった。

 トイズよりも先にマリエルに会っていたことに、ただ驚いた。

 以前からオスレ伯爵家に縁があったようだ。

 スノーはマリエルと、同じ色味を持っていたことから、オリラからまるで親子のようだと言われていたが、相応しい話ではないと思い、口を噤んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

処理中です...