上 下
17 / 154

正体

しおりを挟む
 リアンスは訪ねて来たルーナに手紙を渡して、スノーに届けて貰い、二人は会う日、ローザ公爵邸にいた。待ち合わせはパーデュラスであったが、知り合いがいるということで、移動したのだ。

 スノーはローザ公爵邸に圧倒されるも、平常心を保った。

「お祖母様にお会いになられたのですね」
「すまない、許可も得ずに」
「私の許可などは必要ないですが、ランドマーク侯爵家にこれ以上迷惑は掛けれませんから」
「迷惑を掛けるようなことは断じてしていない」
「そちらは心配してはいません」

 アンリ祖母様を味方に付けて、何か企んでいるのではないかと思っている。

「夫人とはいい関係だったんだな」
「ええ、良くしていただきました」

 弁えれば、きちんと教育を施してくれる、常識人である。良くも悪くも、高位貴族らしい方である。

 まさか虐待でも疑われていたのだろうかと思ったが、血の繋がりがないことで、そう思われても仕方ないのかもしれないと口にはしなかった。

「そういえば、ユーフレット侯爵令嬢は結婚が決まったそうだ。発表前に婚約はしていたから、ちょうど一年経つ、12月にするそうだ」
「そうなのですか、もうすぐですね」

 婚約を解消して、再婚約を発表して一年以内に結婚することはまずないが、前から知っている間柄ならば、高位貴族であれば問題ないのかもしれないと思った。

「それで、」

 リアンスは何か言い掛けると、扉を叩く音がして、対応をするために扉に向かった。少し待っていてくれとスノーは応接室に一人残された。

 歩き回るのは失礼だろうと、後ろを振り向くと写真があることに気付き、身を捩って見つめた。何人か見たことのある顔もあり、少し若い頃だと分かった。

「っあ…」

 スノーはその中の男性に釘付けになり、息をするのを忘れ、時間が止まったように、見つめていた。戻って来たリアンスはその姿に声を掛けた。

「レリリス伯爵令嬢!」
「スノー嬢!」

 スノーが驚いて振り返ると、リアンスが立っていた。リアンスは初めて、スノー嬢と呼んで、ドキドキしていた。

「申し訳ありません、写真を見ておりました。失礼しました」
「いや、構わないが、知り合いがいたのか?」
「知り合いではありませんが、何人か見たことのある方がいらっしゃったので、失礼ながらお若いなと思いながら見ておりました」

 スノーは動揺を隠そうと焦るあまり、早口になってしまった。

「ランドマーク侯爵家で見たのかい?」
「そうですね、ランドマーク侯爵家で見た方もいらっしゃいます」
「ゆっくり見て貰っても構わないよ」
「そ、そうですか…」

 リアンスは写真立てをスノーの前に移動し、スノーは近くで見ても、やはり間違いないと感じた。

「誰が気になるんだい?」
「この方は見たことがないのですが、どなたですか?」

 スノーはこんなチャンスはないだろうと、意を決して、あの男性を指差した。

「ああ~こちらは前オスレ伯爵だよ」

 オスレと言えば、メリーアンの相手のダリアの家ではないか。だが、前というのはどういうことだろうか。若いと言っても、今に比べてという意味だった。

「前というのは、どういうことでしょうか」
「…亡くなられているんだ。だからスノー嬢が知らなくても、無理はない」
「そうだったのですか」

 スノーは酷く驚いてはいたが、気付かれないように呼吸を整えた。

「ああ、ご病気でね」
「病気で…では今のオスレ伯爵は、ご家族ですか?」
「いや、従弟が継いでいる」

 この世に既にいなかったとは思っていなかった。正体が分かれば、調べれば分かるだろうと、リアンスにいつ亡くなったのか聞くことは控えることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...