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思い
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「実はスノー嬢には一度、縁談を既に申し込み、爵位のことで断られています」
アンリ夫人は黙ったまま、何度か頷いた。リアンスが訊ねて来た理由が、納得出来たのだろう。
「その際にレリリス伯爵は妹はどうかと父に言ったそうです。だから優秀なのだと思っていたら、散々でした」
「レリリス伯爵は、そのようなことを考えもせずに言っているのだと思いますよ。それこそ公爵家に嫁げるなんて幸運だと思っていたのでしょう」
「そういった方だったのですね」
公爵相手に考えなしで口にしていたのか、いつか足をすくわれなければいいがと思ってしまった。
「私の妹のことはご存知でしょう?」
「…は、い」
「言い辛いわよね、もう昔の記憶という気持ちですから。それでも妹という存在だけで、過敏になってはしまいます。勘違いかもしれないとも思っていたのですよ。スノーに私のような思いをさせたくはありませんからね」
リアンスはスノーもアンリ夫人も姉妹の姉という立場で、もしスノーが蔑ろにされていたのであれば、自分の境遇と重ねたのではないかと、その時にようやく気付いた。受け入れることも、理解があったのかもしれない。
「やはりお好きですよね?」
「私も夫も、幸せになって欲しいとは思っています。8年も見て来たのですから」
「前侯爵様も?」
「ええ、娘さんたちのことも気にはしていたのですよ。でも、侯爵家という立場が邪魔をしたのです。私と再婚してからは、遠慮もしたのでしょう」
「そうでしたか…」
娘は二人は子爵家に行き、親族からも色々あったそうだから、会うことなど出来なかったのだろう。そして、再婚してからは妻に悪いと思っていた、それでも何も思わないからではなかった。
父親同士は仲が良くとも、その後の侯爵家と子爵家がどのような関係だったかは分からないが、親しいという話を聞いたことはない。
「目的は縁談を纏めて欲しいというところでしょうか?」
「夫人も心を読めるのですか?」
「ふふ、ですが纏めることはしません」
リアンスはあわよくばとは思っていたが、そこまでは期待していなかったので、落胆することはなかった。
「やはり反対ですか?」
「いいえ、そうではなく、嫁ぐのはスノーですから、スノーの意思が必要でしょう。特に公爵家ともなれば、何とかなるでは済みません」
「よく分かっておいでですよね」
「少なからず存じています。ここまで聞きに来たことは、それだけ真剣であることは、私には伝わりました。スノーを呼び出せば、何事かと思うでしょうから、手紙を書いて送っておきましょう。書いてもいいのですよね?」
「はい、言わずに来ましたが、書いてただいて構いません」
スノーに了承を得て来ているとは思っていなかったが、知られることは覚悟の上だろうと見抜いていた。
「ただし、スノーの思いは複雑だということは理解してください」
「複雑?」
「あの子はれっきとした伯爵令嬢でありながら、8歳まではレリリス伯爵家、8歳からはここにいました。大人の都合でです。おかげで達観したようになりました」
「確かに、そう思います」
スノーと話していると、どこか律しているような、諦めているような、そんな気持ちにさせられることがある。
「大人に甘えることもなく、この程度がいいと、穏便に過ごしたいと思っていたと思います。それも頭に入れて置いて欲しいのです」
「承知しました。本日はお会いいただき、ありがとうございました」
「いいえ、本来なら私とあなたの方が血は近いですからね」
歴史を辿れば、ローザ公爵家とダマス公爵家が婚姻を結んだことも何度かある。
「私は今は賛成も反対もしません。そう思っていてください」
リアンスは深く頷き、ランドマーク侯爵家を後にした。
アンリ夫人は黙ったまま、何度か頷いた。リアンスが訊ねて来た理由が、納得出来たのだろう。
「その際にレリリス伯爵は妹はどうかと父に言ったそうです。だから優秀なのだと思っていたら、散々でした」
「レリリス伯爵は、そのようなことを考えもせずに言っているのだと思いますよ。それこそ公爵家に嫁げるなんて幸運だと思っていたのでしょう」
「そういった方だったのですね」
公爵相手に考えなしで口にしていたのか、いつか足をすくわれなければいいがと思ってしまった。
「私の妹のことはご存知でしょう?」
「…は、い」
「言い辛いわよね、もう昔の記憶という気持ちですから。それでも妹という存在だけで、過敏になってはしまいます。勘違いかもしれないとも思っていたのですよ。スノーに私のような思いをさせたくはありませんからね」
リアンスはスノーもアンリ夫人も姉妹の姉という立場で、もしスノーが蔑ろにされていたのであれば、自分の境遇と重ねたのではないかと、その時にようやく気付いた。受け入れることも、理解があったのかもしれない。
「やはりお好きですよね?」
「私も夫も、幸せになって欲しいとは思っています。8年も見て来たのですから」
「前侯爵様も?」
「ええ、娘さんたちのことも気にはしていたのですよ。でも、侯爵家という立場が邪魔をしたのです。私と再婚してからは、遠慮もしたのでしょう」
「そうでしたか…」
娘は二人は子爵家に行き、親族からも色々あったそうだから、会うことなど出来なかったのだろう。そして、再婚してからは妻に悪いと思っていた、それでも何も思わないからではなかった。
父親同士は仲が良くとも、その後の侯爵家と子爵家がどのような関係だったかは分からないが、親しいという話を聞いたことはない。
「目的は縁談を纏めて欲しいというところでしょうか?」
「夫人も心を読めるのですか?」
「ふふ、ですが纏めることはしません」
リアンスはあわよくばとは思っていたが、そこまでは期待していなかったので、落胆することはなかった。
「やはり反対ですか?」
「いいえ、そうではなく、嫁ぐのはスノーですから、スノーの意思が必要でしょう。特に公爵家ともなれば、何とかなるでは済みません」
「よく分かっておいでですよね」
「少なからず存じています。ここまで聞きに来たことは、それだけ真剣であることは、私には伝わりました。スノーを呼び出せば、何事かと思うでしょうから、手紙を書いて送っておきましょう。書いてもいいのですよね?」
「はい、言わずに来ましたが、書いてただいて構いません」
スノーに了承を得て来ているとは思っていなかったが、知られることは覚悟の上だろうと見抜いていた。
「ただし、スノーの思いは複雑だということは理解してください」
「複雑?」
「あの子はれっきとした伯爵令嬢でありながら、8歳まではレリリス伯爵家、8歳からはここにいました。大人の都合でです。おかげで達観したようになりました」
「確かに、そう思います」
スノーと話していると、どこか律しているような、諦めているような、そんな気持ちにさせられることがある。
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「承知しました。本日はお会いいただき、ありがとうございました」
「いいえ、本来なら私とあなたの方が血は近いですからね」
歴史を辿れば、ローザ公爵家とダマス公爵家が婚姻を結んだことも何度かある。
「私は今は賛成も反対もしません。そう思っていてください」
リアンスは深く頷き、ランドマーク侯爵家を後にした。
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