上 下
11 / 154

罪悪感

しおりを挟む
「そう、だったのですか」
「ああ、てっきりランドマーク侯爵家の令嬢だと思っていた。おそらく、君が10歳くらいだろうか。それで婚約を打診したいと父上にも話した」

 スノーもそんなに前だからだったとは思っておらず、いつか飽きるだろうと思っていたことに、罪悪感が込み上げては来たが、スノーにも譲れないものがある。

「そうしたら、令嬢はいないと言われてね。ランドマーク侯爵家にも聞いたが、分からないと言われた。意図的に隠されていたのか、君がランドマーク侯爵家には関係ないとされたのか…」

 リアンスはスノーの答えを待つように、じっと見つめた。

「実際、私はランドマーク侯爵家の者ではありませんから、そう言ったのではないでしょうか」
「そうか、それで君を学園で見掛けた。面影というより、顔立ちは変わっていなかったから、すぐに分かった。だが、私は婚約者がある身だったから…婚約などしていなければと思ったが、今さら言っても仕方ない」

 スノーは何と答えればいいか分からず、困った時は余計なことを、言わない方がいいだろうと黙ったままだった。

「ランドマーク侯爵家で、辛い目に遭っていたのではないか?」

 歓迎された存在ではなかっただろうが、居心地が良かったわけではないが、居候としては相応しい待遇だと思っていた。

「そのようなことはありません」
「本当か?前侯爵夫人は厳しい方だと聞いている」

 アンリ・ランドマークは、ダマス公爵家の長女だった。

 その後、ビアート公爵家に嫁いだが、二年後に妹と夫が不貞を犯し、離縁した。その後、元夫と妹の結婚は認められず、妹は他国に嫁がされ、元夫も嫡男を外されて、今の公爵は彼の子ではない。

 その後、アンリは実家に戻り、こちらも離縁したランドマーク侯爵家に、後妻として嫁ぐことになった。そして嫡男を産み、現在のランドマーク侯爵は息子である。

「厳しい方だとは思いますが、心得を教えてくれたに過ぎません」
「心得とは、君の思想のことか?」
「思想…」

 スノーはリアンスに、思想と思われているのかとは思ったが、いい意味ではないが、一番マシな言葉だったのだろう。

「高位貴族について、伯爵家の令嬢が公爵家に嫁ぐなどあり得ない。前侯爵夫人に言われたのではないですか」
「そうですが、事実ではありませんか」
「全てが正しいとも限らないのではないか?それを前侯爵夫人の言ったことが、君は絶対に正しいと信じているのではないか?」
「アンリ様だけではありません」
「教師の方も仰っていましたし、実祖母もだからこそ離縁したわけですから」
「それは…」

 スノーの母の母は子爵家の令嬢で、ランドマーク侯爵家に嫁いだ。爵位の差はあったが、恋愛結婚ではなく、互いの父親が友人で、二人で考えた共同事業のために結ばれた結婚であった。

 だが、祖母は侯爵家に馴染めず、夫とも上手くいかず、義父を除く義家族や親戚からも嫌味を言われ続け、娘を二人出産していたが、二人を連れて実家に戻った。

 ランドマーク侯爵家側は離縁は認めるが、子どもは返せと言われたが、侯爵家に残しても、母親が子爵家の出だということで、肩身の狭い思いをするだろうと、父親たちが話し合って、娘は二人は子爵家に籍を移した。

「実祖母もよく言っていました、私は私の意思とは関係なく結ばれた結婚だったが、理解がないとやっていける場所ではなかったこと。身の丈に合った結婚が一番だと、母が伯爵家に嫁ぐのも反対だったそうです」
「御母上も同じ考えなのか?」
「離れていたので、よく分かりません。幼かったので、ランドマーク侯爵家のことも覚えていないそうですから」

 ファイラはランドマーク侯爵家を出た時は、2歳だったので、記憶にない。

「そうか…ならば、なぜ君がランドマーク侯爵家にいたんだ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...