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第24話

婚約者と貴重な公女3(ヨバス王国)

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「嬉しいことを言ってくれますね、セナ様に言われたら間違いないですもの」
「全てが分かるわけではありませんが、パーティーで強い憎しみを向ける者はおりませんでした」

 実はセナリアンはパーティー会場全体に陣を張って、エイベルとフランシスへの感情を読み取っていた。少なからず、羨ましいと妬む者はいたが、強い憎悪や殺意を持つ者はいなかった。

「そ、そうですか!それは良かった…」

 イリジム陛下は大きな息を吐き、スカイラ王妃もホッとした顔を見せた。

「問題は公女ですね、憎悪や殺意はありませんでした。意図を覗くのが手っ取り早いですが、ヨバス王国で過激な真似はしたくないのよね」
「誰が相手をするかも考えねばなりませんからね」

 セナリアンにジョンラが答えた。

「そうなのよね」

 自国やヨバス王国内であれば、魔法省を使えばいいが、他国の公女となると接触が難しい。

「大人しく帰ってくれるか、物理的に防ぐことは可能ですけど…私がエイベル殿下かフランシス嬢のどちらかに化けたら、恨みを買いそうだし、困ったわね。エイベル殿下が好みなのよね?」
「エイベルが好みというよりは、公女に相応しい相手がなかなかいないということのようで」

 いくら自由だとはいえ、公女が男爵家の令息と、結婚することはあり得ないと思っているのか。

「王太子の妻の座が欲しいということね。でもいくら年齢は関係ないと言っても、五歳も年上の女性が?他にもいるでしょうに。嫌われているの?」
「嫌われるとまでは言いませんが、あのような態度を許容出来る方ではないと」
「怪我させるような公女だものね。そうそう、フランシス嬢だけど、手当はして貰ったのだけど、治癒術はまだ行ってないの、証拠になるかと思って」
「そうですね…」

 可哀想だと思うが、治癒をしてしまえば、なかったことになってしまう。

「私ではないと言いそうだけど、フランシス嬢はおそらく、エイベル殿下に心配を掛けまいと言わないつもりだったのでしょうね。すぐに化粧室に行こうとしていたから、表情も変えずに」
「そんなことが…」
「尊敬するわ、私なら恥ずかしい目に遭わせてあげるところだけど」
「ちなみにどのような?」

 イリジム陛下は穏やかではあるが、意外とおちゃめな方である。

「ご興味があるのですか?」
「私だって怒らないわけではありませんよ」
「そうですね、言い逃れが出来ないようなものがいいので、いえ、私の考えることは品がないですから、止めておきます」
「聞きたいです」

 両陛下はグッと身を乗り出して、興味津々である。

「そうですか、では…鼻の下に大きな赤黒く目立つ出来物を作るとか」

 両陛下は"んま"という同じ顔をして驚いており、停止してしまったが、笑いながら動き出した。

「それは、ふふふ、さすが考えることが違いますね」
「ええ、ふふふ、それは恥ずかしいです」
「品がなくて、すみません」
「いえ、最悪、そちらを採用しようではありませんか」
「よろしいのですか?」
「ええ、肌が合わないと、恥ずかしくて帰って行くかもしれません。しかし、セナ様は面白いことを考えられる」

 酷い案が採用されそうにはなっているが、別の案も考えなくてはならない。

「大公様は放任なのですか?」
「いえ、もし問題を起こせば、きちんと対処されると思いますよ。いくら自由と言っても限度はありますからな。特に公女となれば、その責任も重い」

 父親であるジェネヴィーヴ大公はまともなようだ、今まで問題があるようなことも聞いたことがなかったので、処罰するようなことになれば任せてしまおう。

「おそらく随分と自分に価値があると思っているのでしょうね」
「ないとは言いませんが、我が国には合いませんわね」
「その通りですわね。私の夫は好みではないかしら?あれは、傾国の美男子らしいですから、使えないかしら」

 セナリアンが生贄に思い付いたのは、不確実な特性を持つ自身の夫だった。

「そ、そのようなことはなりません。公爵家の嫡男ございましょう?」
「でも義両親もしっかり役に立ちなさいと、送り出してくれると思うのだけど…」
「そのような感じなのですね」

 セナリアンの家族での立ち位置を、即座に察知した両陛下であった。

 だが、ヒアルの考えによって、ある作戦が実行されることになった。
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